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神は言った。ラブコメに水着は定番だよね、と。  作者: 巫 夏希


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第34話 候補者(1)

 僕たちの影が。

 振り返った。


「……」


 誰も声を出せなかった。

 出せるはずがなかった。

 影だ。

 地面に落ちているだけの。

 光を遮った結果として生まれる現象。

 本来なら。

 意思なんてあるはずがない。

 なのに。

 今、僕の足元にある影は。

 確かにこちらを見ていた。


「うわあああっ!?」


 最初に悲鳴を上げたのはのぞみだった。

 飛び退く。

 だが。

 影も一緒に動く。


「いやあああ!」

「落ち着け!」


 ひかりが叫ぶ。

 しかしその声も少し裏返っていた。

 無理もない。

 ひかり自身の影も。

 こちらを見ているのだから。

 そして。

 僕は気付いてしまった。

 エルザさんの影。

 アークの影。

 それだけは動いていない。

 普通だった。


「……違う」


 エルザさんが呟く。


「何が?」

「影じゃない」


 金色の瞳が細められる。


「見て」


 言われて。

 もう一度足元を見る。

 そして、気付く。

 振り返っているように見えた。

 だが違う。

 正確には。

 影の中に。

 何かが居る。

 黒い人型が。

 影の奥からこちらを覗いている。

 そんな感じだった。


「人格情報への直接接続です」


 スマホが震える。

 ガラムドだった。


『皆さん動かないでください』

『無茶言うな!』

『私もそう思います』


 珍しく同意された。

 だが、続く文章は笑えなかった。


『観測対象として認識されました』

『だから何だ』

『今、皆さんの人生を読まれています』


 沈黙。

 そして。


「は?」


 僕とのぞみの声が綺麗に重なった。


『記憶』

『経験』

『人格』

『価値観』

『未来予測』

『全てです』


 最悪だった。

 想像していた百倍ぐらい最悪だった。


「プライバシーって言葉知らないのか……!?」

『相手は人間ではないので』

「そういう問題じゃない!」


 その時。

 暗闇の奥で。

 無数の赤い目が明滅した。



 ――解析。

 ――進行中。

 ――進行中。

 ――進行中。



 頭痛がした。

 自分の頭の中を誰かに掻き回されているような。

 そんな不快感。


「くっ……」


 膝が揺れる。

 そして。

 断片的な映像が見えた。

 小学校。

 中学校。

 嘉神シスターズとの出会い。

 エルザさんと会った日。

 全部。

 勝手に引きずり出されている。


「やめろ……!」


 怒鳴る。

 だが。

 相手は止まらない。



 ――人格構造確認。

 ――価値観解析。

 ――適合率算出。



「適合率?」


 アークが眉をひそめた。

 その瞬間だった。

 無数の赤い目が。

 一斉に僕へ向いた。

 ぞっとする。

 獲物を見つけた肉食獣みたいに。

 いや。

 もっと悪い。

 研究者が面白い実験結果を見つけた時のような。

 そんな視線だった。



 ――高適合個体を確認。



 空気が凍る。


「何?」


 エルザさんが顔色を変える。

 僕を見る。

 アークも見る。

 何だ。

 何なんだ。

 嫌な予感しかしない。



 ――候補者認定。

 ――世界保存計画への適合率。

 ――九十七パーセント。



 沈黙。

 僕が一番意味が分からなかった。


「……は?」


 九十七パーセント?

 何で?

 すると。

 アークが初めて本気で驚いた顔をした。


「あり得ない」


 ぽつりと言う。


「そんな数値になるわけがない」

「だから何なんだよ!」


 思わず叫ぶ。

 だが、答えたのはガラムドだった。


『簡単に言います』


 嫌な予感しかしない前置きだった。


『隼人さん』

『何だ、畏まって』

『相手から見ると』


 数秒の間。

 そして。


『あなたは次のアーク候補です』


 思考が停止した。


「……は?」


 もう一度言う。

 今度は本気で。


「は?」


 のぞみが僕を見る。

 ひかりも見る。

 エルザさんまで見る。


「いやいやいや」


 僕は首を振った。


「待て待て待て」


 意味が分からない。


「僕ただの高校生なんだけど」

『それは知っています』

「自由研究やってるだけなんだけど」

『それも知っています』

「じゃあ何でだよ!」


 すると。

 暗闇の奥の存在が。

 初めて返答した。



 ――理由。



 無機質な声。

 そして。

 恐ろしく静かな声で続ける。



 ――対象は。

 ――世界が終わることを許容できない。



 息が止まる。

 その言葉に。

 何故か反論できなかった。



 ――失われることを恐れる。

 ――記録を残そうとする。

 ――救済を選択する。



 無数の目が輝く。



 ――適性あり。



 その瞬間。

 アークが苦々しい顔で笑った。


「なるほど」


 長い溜息。


「そういう見方をするのか」


 そして。

 初めて僕へ向き直る。


「隼人君」


 その声は真剣だった。


「絶対にそいつの話を聞くな」

「聞くも何も意味が分からないんだけど」

「それでいい」


 アークは言う。

 少しだけ。

 昔の失敗を思い出すような顔で。


「私も最初はそうだったから」


 その言葉の意味を理解するより早く。

 暗闇の奥の存在が。

 新たな宣告を下した。



 ――接触許可。

 ――候補者との対話を開始する。



 そして。

 僕の足元の影が。

 ゆっくりと立ち上がった。


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