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文の鳥  作者: Suzugranpa
23/26

第22話 告白

 30分ほど経ってから茜と文は戻って来た。パジャマ代わりのスウェットにウィンドブレーカを羽織っている。桟橋の上は流石(さすが)に恐々だったが、文も一人で歩いている。


「ピイはまだですか?」


 文はピッコロのケースも持ってきていた。


「吹いたらピイも気づくんじゃないかと思って」


 陸と美鶴は目を伏せた。茜が聞いた。


「全然来ない?ちょっと他の人にも聞いてみようか?帰って来ないようだと貼紙してみてもいいしね。そもそもピイは迷子鳥だったんだからさ、しぶとく頑張ると思うんだ」


 陸が一歩前に出た。


「いや、あの、文ちゃん、茜さんもちょっと聞いて下さい」

「ん?」

「あの、文ちゃん、落ち着いて聞いてね。僕しか目撃していないから」

「はい。目撃・・・したんですか?」

「うん、あの、さっき二人が海に落ちた時の事なんだけど」


 陸は事実を打ち明けた。一瞬の出来事でどうにもできなかった事。恐らく鳶は旋回しながらピイの事を見つけ、ピイが文から離れるのを待っていたんじゃないかと、陸の考えも入れた。


 文の本物の目にはたちまち涙が溢れ、折れるようにしゃがみこんだ。茜も傍らにしゃがむ。今も空にはたくさんの鳶が舞っている。状況は文にも理解できた。


「文、一緒に吹こうよこれからも。ピイの事は忘れないで、ピイと一緒のつもりで」


 文は小さく頷いた。


「ピイは自分と引き換えに私に視力をくれたんですね」

「そうなるね。文の瞳にピイがいるんだよ。文はピイが大好きで、ピイも文が大好きで、文の音はピイの声なんだよ」

「はい・・・」

 

 もじもじしていた陸は更に殊勝に告げた。


「あの、それで僕、茜さんの事は諦めます。文ちゃんには勝てない。美鶴さんも同じ気持ちです」


 茜はきょとんとした。


「諦める?私の何を諦めるの?」

「え?」 


 今度は陸がきょとんとした。


「いや、口に出すの恥ずかしいけど『愛』です。バースデイプレゼントの意味、お解り頂けましたよね」

「へ?あの羽根の事?釣りが好きって書いてあったけど、悪いんだけど私、釣りには興味なくてさ、だからピイのおもちゃになってるんだ」

「え?」 


 陸はおでこに手を当てた。


「そう…ですか・・・。参ったな。あれってピアスだし、好きって茜さんの事だったんですけど」


 えー? 茜は素っ頓狂な声を出した。


「意味わかんないよ。陸が私を好きなの?全然知らないよお」

「はあ、だから努力はしたつもりだったんですけど」

「それで、それをなんで今諦めるの? あ、OKって意味じゃないよ、急だからよく判んなくて」

「だって、茜さん、文ちゃんがいいんですよね」

「は?」


 茜は呆れた。


「あのさ、もしかして私と文が、その、百合みたいな仲とか思ってる?」

「違うんですか?ずっと前、あの練習室で、あ・あの、茜さんと文ちゃんが抱き合ってたって、美鶴さんが見たって」


 あ! 


 文は思い出した。あの、それって私がピイを踏んづけそうになって、その時茜さんが私に飛びついてこけちゃって、それでピイが助かった時のことじゃ・・・。


 茜も思い出した。そうだ。あの時、文と抱き合った形になって、倒れて目の前に文の顔があって、でも確かに少し見とれてキスしちゃいたい気持ちになった。あ、でもこれは言えない…、茜は少し顔を赤らめて


「バカ。んな訳ないじゃない。アンタたちそんな風に思ってたの?」


 茜は恥ずかしさを誤魔化そうと陸に食って掛かった。


「はい・・・完全に。茜さん取られたと」

「美鶴もそう思ってたの?」

「はあ。文はライバルだって思ってました」

「よくそれで一緒に演奏出来たわね今まで。バカバカしい。私はまだ誰もそんな風に好きになった事ないよ。勝手に決めないでくれる?やってらんないなあ全く。さ、もう今日はペンションに戻るよ。これ以上聞いてると私がおかしくなっちゃう。文、ピイはきっとどこかで見てくれてるよ。文の目が見えるようになったこと、ピイが一番喜んでるよ。ね、みんなややこしいこと言ってないで今日は帰ろう」

「はい・・・」


 文は一連の騒動で心が攪拌(かくはん)され、ピイを思う気持ちが少し柔らかくなったことに気がついた。そうだ、実は大変なんだ。見えるようになったんだ。まだボーッとだけど、それでもこれまでの明暗だけの世界とは雲泥の違いだ。周りのものみんなが初めて見るものばかりだから、子供からやり直しだ。歩くだけで酔いそう。見えるって不思議だ。


 茜は改めてみんなを見渡して言った。


「さ、美鶴も陸も、愛の話はペンディングにして、今日は飲むよっ! 文の回復祝いだ。文はウーロン茶だけどね」


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