第20話 桟橋
ライブの後の夕方、四人は宿泊しているペンション近くの海辺へ散歩に出掛けた。明日はのんびり帰るだけ。演奏も満足だし言う事がない。ピイと合奏が出来たなんて、夢が叶っちゃったよ。文はまだ余韻に浸っていた。ね、ピイ、よく頑張ったよ。ピイも一緒の散歩だった。何しろ五番目のアーティストなんだから。
浜辺からは海に向かって桟橋が突き出ていた。有名な観光ポイントらしい。文はピイのカゴを左手にぶら下げ、みんなにくっついて歩く。桟橋に上がると海の匂いが一杯だ。四人は申し合わせたように伸びをした。茜がみんなに言った。
「桟橋、終点まで行ってみよっか。文は滑らないよう気をつけて」
さんせーい、気持ちいいし。四人は桟橋を歩き出した。桟橋は幅が広く歩きやすい。美鶴は後からついて来る文に声を掛けた。
「文、ピイ、出してあげてもいいんじゃない?演奏中もじっとしてたじゃん」
「はい。大丈夫かな」
自宅以外で外に出すのは初めてだ。しかし美鶴さんの言う通り、さっきは最後まで右肩に乗っていた。それに飛んだとしてもいつもちゃんと私の肩に戻って来る。よし、ご褒美だよピイ。
文は手探りでカゴの扉を開け手を入れる。ピイはすぐに掌に乗って来る。文はそのままそーっと右肩にピイを乗せた。
ピイ、飛ばされないようしっかり留まっててね。文は恐る恐る歩き出した。ピイが乗っている右肩に気を遣うせいか文の右足の歩幅は無意識に小さくなったが、文は潮風を感じながら前へ進む。実際の海は記憶にないから桟橋がどんな場所だか解らないけど、小さい頃絵本で見た海は覚えている。海は広いな大きいな。文は口ずさみながら歩いた。
丁度スニーカーの紐を結び直していた茜が顔を上げると、一人で先へ歩く文が見えた。 あれ?
茜の荷物を持たされていた陸も茜の声にそちらを向いた。
「陸、文、なんか斜めってない?」
「確かに」
近づいてくる海にピイが気がついた。ピイは文の肩で鳴きながら激しく羽ばたく。それはあたかも文に警告を発しているようにも見えた。しかし文は気づかない。
「ピイ何騒いでんの?風、気持ちいいじゃない」
「やばい!」
茜と陸が駈け出す。しかし、そんな気配には気づかず文は桟橋の縁まで来ていた。ん? 杖が宙をさまよう。
その瞬間、ピイが文の肩から飛び上がり、一転して文の顔に体当たりした。
うわっ! ピイの嘴がまともに文の目に当たり文は目を押さえてよろめいた。
「ふみっ!!」
茜が背後から飛びついて文を抱き止めようとしたが、スニーカーが脱げて滑り、茜と文はそのまま海へ飛び出した。
ダバーン!
すぐ後にいた陸はその瞬間を目撃していた。スローモーションのように海へ落ちる二人、そして慌てて飛び上がったピイを狙いすましたかのように急降下した鳶が鷲掴みにして去っていったのを。




