まだ読むか?
頭がぐらぐらする。
胃がひっくり返るようだ。
「ヴォェ!…ハア…ハッ。」
僕は今トイレで戻していた。
あまりにも歪んだ大介兄ちゃんの子供の頃の心のありさまに、そして洋介兄ちゃんが用水路に落とされて死に掛けた事実に、それが大介兄ちゃんの仕業だったことに、その心を作った伯父さんの非道さに、気分が悪くなってしまって、トイレに駆け込んだんだ。
「お前、本当に大丈夫か?顔、真っ青だぞ。」
そう親父が聞いてくる。
「大丈夫だよ。まだまだこれくらい平気さ。」
僕は平然を装っているが、内心まだまだ心の整理がつかない。
「ところで父さん、洋介兄ちゃんが用水路に落ちたって話は本当なの?僕が生まれる前の話だけど。」
僕は大介兄ちゃんが中学生になった辺りで生まれたから真偽がわからなかった。
「用水路の事実はあった。」
僕は驚いた。
親父が続ける。
「ただ、当時大介がそんな事をするとは思えなかった。だけど兄さんが大介を暴行してとんでもない状態だったな。じいちゃんが止めるまで。」
親父はこめかみに指を当てて、当時を思い出しているようだった。
「だが手帳を見る限り、当時はわからなかったが、故意に洋介を用水路に落としたのは事実だったようだ。」
親父は残念そうな顔をしていた。
「大介も洋介も救ってやりたかったけど、あの手が付けられない兄さんが怖くてなあ。」
どれだけ伯父さんは気性の激しい人だったのだろう。
親父がこれだけの事を言うのだから相当なものだったのだろう。
当時を想像できないが、もう亡くなっているが、優しかった伯父さんが怖くなってきた。
「でも伯父さん優しかったよ?伯母さんも。想像出来ないよ。」
伯父さんも伯母さんも優しかった。
良く頭を撫でてくれた。
優しい言葉もたくさん掛けてくれた。
「そうなんだよ。姉さんも兄さんも普段はとても優しい人だったんだよ。ただ、大介兄弟には、客観的に見てすごい冷たかったんだ。教育だから、と言い張ってな。」
教育…言葉を与えない、暴力で黙らせる事が教育…?
「そんな教育なんてあるものか!あ…」
つい僕は熱くなって声に出してしまった。
「そうだよなあ。」
親父は残念そうな、何かを失敗してしまったような顔をしていた。
「まだ読むか?無理に持っていかなくてもいいんだぞ。」
親父が心配そうに僕の顔を見ている。
「読むよ。持って行く。」
僕は再び、黒い手帳と日記を見た。
「ん?」
数冊コゲているものがある。
何故だろう?
「ねえ父さん、大介兄ちゃん家族は火事に会った事があるの?」
「は?いや、うーん、記憶には火事は無いなあ。」
じゃあ何故数冊が少しコゲているのだろう。
何があったのだろうか。
続けます。次回「日記1」
2017.7.10