↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20XXの人間失格者  作者: 来栖総一郎
8/78

日記1-2

父(ちち)の炎(ほのお)

父(ちち)が庭(にわ)で焚(た)き火(び)をしているのが見(み)えた。


最近(さいきん)のご時勢(じせい)で焚(た)き火(び)などしたら、消防署(しょうぼうしょ)へ通知(つうち)が行(い)くのに、何(なに)をしているのだろうかと私(わたし)は部屋(へや)の窓(まど)から見(み)ていた。


めらめらと炭火(すみび)が炎(ほのお)を上(あ)げている。


父(ちち)が何(なに)かを燃(も)やし始(はじ)めた。


見覚(みおぼ)えがあるそれは、手帳(てちょう)だった。


私(わたし)はぎくりとして部屋(へや)の手帳(てちょう)を探(さが)した。

散(ち)らかっていてどこへ置(お)いたかわからない。

探(さが)す時間(じかん)よりも父(ちち)を止(と)める方(ほう)が先(さき)だ。

私(わたし)は階段(かいだん)を駆(か)け降(お)り、サンダルを足(あし)にして、父(ちち)の居(い)る庭(にわ)へ乗(の)り込(こ)んだ。


「何(なに)をしている。」

そう私(わたし)は父(ちち)に聞(き)いた。


「こんなもの妄想(もうそう)だ。」

父(ちち)は私(わたし)の手帳(てちょう)を更(さらに)に焚(た)き火(び)にくべた。


私(わたし)は頭(あたま)が真(ま)っ白(しろ)になり、父(ちち)に走(はし)り飛(と)び蹴(げ)りを入れた。

燃(も)える手帳(てちょう)を足(あし)で踏(ふ)み、炎(ほのお)を消(け)す。


「家族(かぞく)の物(もの)を勝手(かって)に燃(も)やすとは何事(なにごと)か!」

私(わたし)は叫(さけ)んだ。


父(ちち)は無言(むごん)で立(た)ち上(あ)がると家(いえ)へ戻(もど)って行(い)った。


幸(さいわ)いにも、燃(も)えた手帳(てちょう)は少(すく)なかった。


良(よ)かった。


私(わたし)の記憶(きおく)、私(わたし)を責(せ)める記憶(きおく)、多分(たぶん)燃(も)やされて失(うしな)ったら、また私(わたし)に戻(もど)ってきて、再(ふたた)び私(わたし)を責(せ)めるだろう。

私(わたし)は泣(な)いていた。


しばらくして庭(にわ)の玉砂利(たまじゃり)を踏(ふ)む音(おと)が背後(はいご)からした。


猟銃(りょうじゅう)を手(て)にした父(ちち)だった。


父(ちち)が私(わたし)の目(め)の前(まえ)で猟銃(りょうじゅう)に弾(たま)を込(こ)めた

「ぶっ殺(ころ)してやる!クソガキ!」

近所(きんじょ)に響(ひび)き渡(わた)る絶叫(ぜっきょう)だった。


「・・・やれよ。」

私(わたし)は手帳(てちょう)を拾(ひろ)うのを止(や)めて、ゆらりと立(た)ち上(あ)がって、父(ちち)にそう言(い)った。


「やってみろよ。すでに上等(じょうとう)なんだよ。」

猟銃(りょうじゅう)を構(かま)えた父(ちち)に一歩(いっぽ)一歩(いっぽ)、近寄(ちかよ)ってゆく。


「弾(タマ)はもう入っているんだぞ!」

父(ちち)が凄(すご)む。

関係(かんけい)ない。


私(わたし)は左手(ひだりて)で父(ちち)の持(も)っている銃身(じゅうしん)を掴(つか)んで、銃口(じゅうこう)を自分(じぶん)の胸(むね)に当(あ)てた。


「これなら外(はず)さないだろう?」

父(ちち)が固(かた)まった。


次(つぎ)の瞬間(しゅんかん)、私(わたし)の右手(みぎて)が伸(の)びて猟銃(りょうじゅう)のスライドへ押(お)し切(き)り、弾丸(だんがん)が抜(ぬ)けた。


私(わたし)の左手(ひだりて)は、すかさず持(も)ち方(かた)を変(か)え、銃身(じゅうしん)は父(ちち)の右腕(みぎうで)ごと父(ちち)の後頭部(こうとうぶ)へ。


同時(どうじ)にスライドを押(お)した私(わたし)の右手(みぎて)は、父(ちち)の左(ひだり)手首(てくび)を掴(つか)みひねり上(あ)げた。


父(ちち)の背後(はいご)に回(まわ)った私(わたし)の右(みぎ)のローキックが、父(ちち)の左(ひだり)ひざ裏(うら)に入(はい)り、父(ちち)はバランスを崩(くず)して私(わたし)はもつれるよう父(ちち)を押(お)し倒(たお)した。


前(まえ)のめりに倒(たお)れた父(ちち)の頭(あたま)に、私(わたし)は左(ひだり)ひざを乗(の)せて体重(たいじゅう)をかけた。


「がああああああああああ!」

ご近所(きんじょ)に響(ひび)く父(ちち)の悲鳴(ひめい)。

私(わたし)の左(ひだり)ひざから、めりめりと父(ちち)の頭蓋骨(ずがいこつ)が軋(きし)む嫌(いや)な音(おと)がする。


「殺(ころ)すんじゃなかったのかよ。残念(ざんねん)だ。」

私(わたし)は父(ちち)の猟銃(りょうじゅう)の安全(あんぜん)装置(そうち)をかけて、弾丸(だんがん)を全(すべ)て抜(ぬ)いてやった。

自衛官(じえいかん)だったら誰(だれ)でも出来(でき)るだろう。


父(ちち)もこの程度(ていど)か…

そう思(おも)うと虚(むな)しくなった。


「お前(まえ)!このクソガキ!殺(ころ)してやる!」

イラッっと来(く)る言葉(ことば)を無視(むし)して、私(わたし)は空(あ)いた右ヒザで父(ちち)の脇腹(わきばら)へ打撃(だげき)を入(い)れる。


「ごぼぉ…」

何(なに)も言(い)えなくなったようだ。

普通(ふつう)ならば、しばらく立(た)ち上(あ)がれないだろう。


私(わたし)は父(ちち)の拘束(こうそく)を解(と)いて、父(ちち)の猟銃(りょうじゅう)を両手(りょうて)で持(も)ち、庭(にわ)の石畳(いしだたみ)の前(まえ)で大きく猟銃(りょうじゅう)を持(も)ち上(あ)げた。


「何(なに)をする気(き)だ!やめ…ゴホッ」

父(ちち)が私(わたし)を見(み)て叫(さけ)ぶ。


私(わたし)はそのまま猟銃(りょうじゅう)を、石畳(いしだたみ)に叩(たた)きつけた。


ガシャリと音(おと)がした。

スコープのレンズが割(わ)れて銃身(じゅうしん)から外(はず)れる音(おと)、プラスチックの銃身(じゅうしん)一部(いちぶ)にヒビが入(は)る音(おと)、猟銃(じゅうしん)の細(こま)やかな調整(ちょうせい)が一瞬(いっしゅん)で台無(だいな)しになる音(おと)だった。


「ああ!いくらすると思(おも)っているんだ!」

父(ちち)が叫(さけ)ぶ。


スクラップに近(ちか)い状態(じょうたい)になった猟銃(りょうじゅう)をそのままに、私(わたし)は父(ちち)に近寄(ちかよ)った。


「ひぃ…」

父(ちち)が怯(おび)える顔(かお)は初(はじ)めて見(み)る。


「お前(まえ)は王(おう)じゃない。」

「お前(まえ)は上官(じょうかん)ではない。」

「お前(まえ)は総理(そうり)大臣(だいじん)でもない」

「お前(まえ)はこの国(くに)の象徴(しょうちょう)でもない。」

「じゃあ一体(いったい)、何者(なにもの)なんだ?」

立(た)ち上(あ)がれない父(ちち)に良(よ)く聞(き)こえるように、私(わたし)は父(ちち)の傍(かたわ)らしゃがんで聞(き)いてみた。


「出(で)て行(い)け…このゴクツブシが!」

父(ちち)は質問(しつもん)には答(こた)えなかった。


「ゴクツブシとは言(い)いがかりだな。生活費(せいかつひ)は母(はは)が管理(かんり)しているだろう。」

言(い)った通(とお)りだ。私(わたし)は家(いえ)の生活費(せいかつひ)も含(ふく)めて、母(はは)に全(ぜん)財産(ざいさん)の貯金(ちょきん)を預(あず)けている。


「はあ?もらってない!お前(まえ)は働(はたら)け!」

父(ちち)は妙(みょう)な事(こと)を言(い)う。


私(わたし)は立(た)ち上(あ)がり、家(いえ)の中(なか)から庭(にわ)を伺(うかが)っている母(はは)に話(はな)しを聞(き)きに家(いえ)に戻(もど)った。

ごほごほと咳(せき)をしながら転(ころ)がっている父(ちち)を背(せ)にして、私(わたし)は家(いえ)に入(はい)った。


私(わたし)が初(はじ)めて父(ちち)を打(うち)ち負(ま)かせた日(ひ)。

この記憶(きおく)は私(わたし)を責(せ)めはしない。

ただ疑問(ぎもん)が残(のこ)るだけの記憶(きおく)。


その後(ご)の疑問(ぎもん)の答(こた)えが後(のち)の私(わたし)を責(せ)めているのだ。



続きます。日記1-3

2017.7.10

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。