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20XXの人間失格者  作者: 来栖総一郎
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日記7

本物(ほんもの)の裁判(さいばん) 2/2

「強盗傷害(ごうとうしょうがい)、実刑(じっけい)3年(さんねん)、執行猶予(しっこうゆうよ)5年(ごねん)か。初犯(しょはん)にしては随分(ずいぶん)重(おも)たい処分(しょぶん)だね。」

グレーのスーツを着(き)た老紳士(ろうしんし)が書類(しょるい)を見(み)ている。


「報酬(ほうしゅう)は1割(いちわり)でいいかな。」

老齢(ろうれい)の弁護士(べんごし)の先生(せんせい)と、私(わたし)は交渉(こうしょう)していた。


私(わたし)は弁護士(べんごし)事務所(じむしょ)に居(い)た。


会社(かいしゃ)の部長(ぶちょう)に土下座(どげざ)して、弁護士(べんごし)先生(せんせい)を紹介(しょうかい)してもらったのだ。


課長(かちょう)には「民事裁判(みんじさいばん)なんて時間(じかん)が掛(か)かる!そんな時間(じかん)使(つか)うぐらいなら働(はたら)け!じゃなきゃ辞(や)めちまえ!」などと罵声(ばせい)を貰(もら)った。


「それはお前(まえ)の都合(つごう)であって、俺(おれ)の都合(つごう)じゃねえんだよ!無能(むのう)営門(えいもん)バ幹部(かんぶ)が!人(ひと)の都合(つごう)に口出(くちだ)すな!」と天下(あまくだ)りで入社(にゅうしゃ)した元自衛官(もとじえいかん)幹部(かんぶ)のお飾(かざ)り課長(かちょう)に、私(わたし)は食(く)って掛(か)かって黙(だま)らせた。


私(わたし)は元自衛官(もとじえいかん)が大嫌(だいきら)いだった。

口(くち)ばっかりで仕事(しごと)が出来(でき)ない。

言(い)い返(かえ)せば簡単(かんたん)に黙(だま)る。

現場(げんば)を気分(きぶん)で引(ひ)っ掻(か)き回(まわ)す、害悪(がいあく)ばっかりだった。


私(わたし)は休職(きゅうしょく)願(ねが)いを出(だ)して、民事裁判(みんじさいばん)に専念(せんねん)することにした。


「一億(いちおく)ぐらい剥(は)ぎ取(と)ってやれ。」

部長(ぶちょう)が私(わたし)を煽(あお)ってくれた。



そして弁護士(べんごし)事務所(じむしょ)で話(はなし)をしていた。



「それで構(かま)いません。私(わたし)はお金(かね)が欲(ほ)しいんじゃないんです。彼(かれ)らが全(まった)く反省(はんせい)していないのが許(ゆる)せないのです。」

私(わたし)は感情的(かんじょうてき)な言葉(ことば)を、静(しず)かに先生(せんせい)に伝(つた)えた。


「分(わ)かった。任(まか)せたまえ。」

弁護士(べんごし)先生(せんせい)は歪(ゆが)んだ笑(わら)いを見(み)せて、私(わたし)を安心(あんしん)させてくれた。


私(わたし)は貯金(ちょきん)を崩(くず)し、現金(げんきん)を持(も)ち歩(ある)いていた。

先生(せんせい)が提示(ていじ)した金額(きんがく)を、先生(せんせい)の目(め)の前(まえ)で見(み)えるように数(かぞ)え、どさりとテーブルに置(お)いた。


「契約成立(けいやくせいりつ)だ。君(きみ)が言(い)う悪(あく)に対(たい)して、全(すべ)て円満(えんまん)に、君(きみ)が望(のぞ)むように解決(かいけつ)してあげよう。」

先生(せんせい)はお金(かね)を手(て)にせず、タバコを吸(す)い始(はじ)めた。


「ありがとうございます。」

私(わたし)は弁護士(べんごし)先生(せんせい)に頭(あたま)を下(さ)げて、心(こころ)の底(そこ)から、悪(あく)に対して社会的(しゃかいてき)な復讐(ふくしゅう)が出来(でき)る事(こと)で、笑顔(えがお)を抑(おさ)える事(こと)が出来(でき)なかった。



地方(ちほう)裁判所(さいばんしょ)調停室(ちょうていしつ)


私(わたし)と先生(せんせい)は合流(ごうりゅう)して、加害者(かがいしゃ)の関係者(かんけいしゃ)を待(ま)っていた。


「いいかい、良(よ)くあるのだが、感情的(かんじょうてき)になって、相手(あいて)を直接(ちょくせつ)攻撃(こうげき)してはいけないよ。特(とく)に暴力(ぼうりょく)はいけない。」

弁護士(べんごし)先生(せんせい)が静(しず)かな部屋(へや)で、囁(ささやく)くように私(わたし)に言(い)った。


「わかっています。」

私(わたし)の復讐(ふくしゅう)は暴力(ぼうりょく)ではない、金銭(きんせん)による経済的(けいざいてき)な制裁(せいさい)を加(くわ)える事(こと)にあった。


しばらくしてから、ガラの悪(わる)い未成年(みせいねん)の男性(だんせい)、その両親(りょうしん)と思(おも)われる3人(さんにん)が、調停室(ちょうていしつ)に入(はい)ってきた。


他(ほか)には誰(だれ)も来(こ)なかった。

刑事裁判(けいじさいばん)で嘘(うそ)をつき、ヒステリックに泣(な)き叫(さけ)んだ加害者(かがいしゃ)の母親(ははおや)も親族(しんぞく)も、誰(だれ)も来(こ)なかった。


強盗犯(ごうとうはん)は全員(ぜんいん)で6名(ろくめい)だったのだが、実行犯(じっこうはん)は先日(せんじつ)の刑事裁判(けいじさいばん)の2名(にめい)と目(め)の前(まえ)の未成年(みせいねん)1人(ひとり)。

残(のこ)りの3名(さんめい)は実行(じっこう)には加(くわ)わらず、警察(けいさつ)から厳重注意(げんじゅうちゅうい)をされて見逃(みのが)されたのだ。


未成年(みせいねん)の男性(だんせい)は、強盗傷害(ごうとうしょうがい)に加(くわ)わりながらも、19歳(さい)という年齢(ねんれい)が考慮(こうりょ)され、補導(ほどう)という形(かたち)で保護観察(ほごかんさつ)となっていて、こうして調停(ちょうてい)に出廷(しゅってい)したのだ。


彼(かれ)はガムを噛(か)みながら、一切(いっさい)私(わたし)と目(め)を合(あ)わせず、椅子(いす)にふんぞり返(かえ)っていた。


そのクソ野郎(やろう)の両親(りょうしん)が、私(わたし)の目(め)の前(まえ)で小(ちい)さくなっている初老(しょろう)の男性(だんせい)と女性(じょせい)だった。


今更(いまさら)ながら思(おも)うが、少年法(しょうねんほう)というものはクソだなと思(おも)う。

たった1歳(さい)違(ちが)うだけで、法律(ほうりつ)に守(まも)られ、どんな悪(わる)い事(こと)をしても許(ゆる)される。

新聞(しんぶん)やテレビに名前(なまえ)が晒(さら)される事(こと)もなく、成人(せいじん)したらぬくぬくと就職(しゅうしょく)なり、仕事(しごと)を持(も)ち、家庭(かてい)が持(も)てるのだと思(おも)うと、苛立(いらだ)ちで全身(ぜんしん)の毛(け)が逆立(さかだ)つような気分(きぶん)だった。


私(わたし)はムカムカしていたが、結局(けっきょく)何(なに)もせず、無言(むごん)でその3人(にん)を見(み)ていた。


「ホフマン係数(けいすう)によって1千万円(せんまんえん)の請求(せいきゅう)を…」

そんな言葉(ことば)が先生(せんせい)から聞(き)こえたような気(き)がする。



夏(なつ)の暑(あつ)い日差(ひざ)しと、セミの声(こえ)が響(ひび)いていたのを良(よ)く覚(おぼ)えている。

2017.7.29 土曜日 平成29年

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