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20XXの人間失格者  作者: 来栖総一郎
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日記6

本物(ほんもの)の裁判(さいばん) 1/2

満員(まんいん)に近(ちか)い傍聴席(ぼうちょうせき)。


こちらを見(み)ている傍聴席(ぼうちょうせき)の人(ひと)たちの視線(しせん)が痛(いた)い。


裁判長(さいばんちょう)が何(なに)かを読(よ)み上(あ)げている。


私(わたし)の真横(まよこ)10mぐらいに丸刈(まるが)りにされて、手錠(てじょう)を掛(か)けられ、腰縄(こしなわ)をされている、青(あお)い服(ふく)を着(き)た、腕(うで)に根性(こんじょう)焼(や)きが多数(たすう)入(はい)った人物(じんぶつ)が2人(ふたり)座(すわ)って居(い)た。


両隣(りょうどなり)には警察官(けいさつかん)だろうか、制服(せいふく)のゴツイ男性(だんせい)が2人(ふたり)を挟(はさ)むように座(すわ)っている。


学級(がっきゅう)裁判(さいばん)などではない。


本物(ほんもの)の刑事(けいじ)裁判(さいばん)だった。



加害者(かがいしゃ)側(がわ)の弁護(べんご)が始(はじ)まっていた。

加害者(かがいしゃ)の母親(ははおや)がヒステリックに裁判長(さいばんちょう)に訴(うった)えていた。


「私(わたし)の子(こ)は普段(ふだん)から大人(おとな)しく、こんな大(たい)それたマネをするような子(こ)じゃないんです!」


「一度(いちど)だって、学校(がっこう)でケンカなんてしたこともないし、マジメで成績(せいせき)だって優秀(ゆうしゅう)だったんです!」


「悪(わる)い事(こと)なんて一切(いっさい)したこともない良(よ)い子(こ)なんです!」

母親(ははおや)の涙声(なみだごえ)の訴(うった)えが終(お)わり、加害者(かがいしゃ)側(がわ)の弁護士(べんごし)さんが話(はな)し始(はじ)めた。


「このように、普段(ふだん)から真面目(まじめ)に生(い)きてきた人間(にんげん)ですので、情状(じょうじょう)酌量(しゃくりょう)を求(もと)めます。」

こんな感(かん)じだっただろうか。


私(わたし)の味方(みかた)は検事(けんじ)さんだった。


「こちらは被告(ひこく)の、加害者(かがいしゃ)の素行(そこう)調査(ちょうさ)を行(おこな)いました。近所(きんじょ)、学校(がっこう)、あらゆる人間(にんげん)関係(かんけい)を調査(ちょうさ)しました。」


「調査(ちょうさ)報告(ほうこく)によると、被告(ひこく)らは暴行(ぼうこう)、恐喝(きょうかつ)、薬物(やくぶつ)乱用(らんよう)、飲酒(いんしゅ)、喫煙(きつえん)などで高校(こうこう)時代(じだい)に5回(ごかい)の停学(ていがく)の処分(しょぶん)を受(う)けて退学(たいがく)になっています。」


「更(さら)に、人間(にんげん)関係(かんけい)の調査(ちょうさ)を行(おこな)った所(ところ)、被告(ひこく)の母親(ははおや)による金銭(きんせん)の受(う)け渡(わたし)しによって、被害者(ひがいしゃ)が被害(ひがい)を取(と)り下(さ)げるといった事案(じあん)が、4件(よんけん)程(ほど)見(み)つかりました。」


「学校(がっこう)の関係者(かんけいしゃ)にも調査(ちょうさ)したところ「いつかやると思(おも)っていた」などという発言(はつげん)も多数(たすう)見(み)られ、情状(じょうじょう)酌量(しゃくりょう)の余地(よち)は無(な)いと思(おも)います。」

検事(けんじ)さんが向(む)こうの嘘(うそ)をばっさりと、資料(しりょう)と共(とも)に裁判長(さいばんちょう)に提出(ていしゅつ)して切(き)り落(お)とした。


裁判長(さいばんちょう)が証人(しょうにん)出廷(しゅってい)として、私(わたし)を呼(よ)び出(だ)した。


「前(まえ)へどうぞ。」

裁判長(さいばんちょう)の前(まえ)、良(よ)くテレビで見(み)たような裁判所(さいばんしょ)の証人席(しょうにんせき)に私(わたし)は立(た)っていた。


「随分(ずいぶん)傷(きず)の治(なお)りが早(はや)いのですね。」

裁判長(さいばんちょう)が質問(しつもん)してきた。


「これはもう私(わたし)の顔(かお)ではありません。鏡(かがみ)を見(み)ると別人(べつじん)になっていました。」

発言(はつげん)の通(とお)りだった。

私(わたし)の顔(かお)は複雑(ふくざつ)骨折(こっせつ)により、元(もと)の顔(かお)ではなくなっていた。

右顎(みぎあご)の手術(しゅじゅつ)で神経(しんけい)が抜(ぬ)かれ、右側(みぎがわ)の口(くち)の筋肉(きんにく)が上手(うま)く動(うご)かせなくなっていた。


「そうですか。」

裁判長(さいばんちょう)が何(なに)かに字(じ)を書(か)き込(こ)んでいた。


「次(つぎ)に、被告人(ひこくにん)、つまり、あなたからお金(かね)を奪(うば)い、卑劣(ひれつ)な手段(しゅだん)によって傷(きず)つけられた事(こと)に対(たい)して、彼(かれ)らの罪(つみ)を重(おも)くしたいと思(おも)いますか?それとも軽(かる)くしたいと思(おも)いますか?」


「一番(いちばん)重(おも)たい罰(ばつ)を、社会(しゃかい)の悪(あく)に罰(ばつ)を示(しめ)さなければ、同(おな)じような事件(じけん)が頻発(ひんぱつ)すると思(おも)います。」

私(わたし)はさらりと答(こた)えた。

裁判長(さいばんちょう)が再(ふたた)び聞(き)いてきた。


「では重(おも)い罰(ばつ)を望(のぞ)みますか?」


当(あ)たり前(まえ)だ。

絶対(ぜったい)に許(ゆる)さない。


「はい。私(わたし)は彼(かれ)らに、一番(いちばん)重(おも)い罰(ばつ)を望(のぞ)みます!」

私(わたし)は大声(おおごえ)で叫(さけ)んだ。


傍聴席(ぼうちょうせき)のざわめきと、被告人席(ひこくにんせき)の加害者(かがいしゃ)の母親(ははおや)の泣(な)き叫(さけ)ぶ声(こえ)が聞(き)こえた。


裁判長(さいばんちょう)の声(こえ)が続(つづ)く。


「分(わ)かりました。下(さ)がって着席(ちゃくせき)して良(よ)いですよ。お疲(つか)れ様(さま)でした。」

私(わたし)はそれから記憶(きおく)がない。


どうやら発言(はつげん)した直後(ちょくご)、発作(ほっさ)を起(お)こして倒(たお)れたそうだ。


後日(ごじつ)、運(はこ)び込(こ)まれた病院(びょういん)で「パニック発作(ほっさ)」と言(い)われたのを覚(おぼ)えている。


検事(けんじ)さんからの求刑(きゅうけい)は「強盗(ごうとう)傷害(しょうがい)による求刑(きゅうけい)5年(ごねん)」だったと後(あと)から誰(だれ)かから聞(き)いた。

2017.7.29 土曜日 平成29年

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