「強盗傷害、実刑3年、執行猶予5年か。初犯にしては随分重たい処分だね。」
グレーのスーツを着た老紳士が書類を見ている。
「報酬は1割でいいかな。」
老齢の弁護士の先生と、私は交渉していた。
私は弁護士事務所に居た。
会社の部長に土下座して、弁護士先生を紹介してもらったのだ。
課長には「民事裁判なんて時間が掛かる!そんな時間使うぐらいなら働け!じゃなきゃ辞めちまえ!」などと罵声を貰った。
「それはお前の都合であって、俺の都合じゃねえんだよ!無能営門バ幹部が!人の都合に口出すな!」と天下りで入社した元自衛官幹部のお飾り課長に、私は食って掛かって黙らせた。
私は元自衛官が大嫌いだった。
口ばっかりで仕事が出来ない。
言い返せば簡単に黙る。
現場を気分で引っ掻き回す、害悪ばっかりだった。
私は休職願いを出して、民事裁判に専念することにした。
「一億ぐらい剥ぎ取ってやれ。」
部長が私を煽ってくれた。
そして弁護士事務所で話をしていた。
「それで構いません。私はお金が欲しいんじゃないんです。彼らが全く反省していないのが許せないのです。」
私は感情的な言葉を、静かに先生に伝えた。
「分かった。任せたまえ。」
弁護士先生は歪んだ笑いを見せて、私を安心させてくれた。
私は貯金を崩し、現金を持ち歩いていた。
先生が提示した金額を、先生の目の前で見えるように数え、どさりとテーブルに置いた。
「契約成立だ。君が言う悪に対して、全て円満に、君が望むように解決してあげよう。」
先生はお金を手にせず、タバコを吸い始めた。
「ありがとうございます。」
私は弁護士先生に頭を下げて、心の底から、悪に対して社会的な復讐が出来る事で、笑顔を抑える事が出来なかった。
地方裁判所調停室
私と先生は合流して、加害者の関係者を待っていた。
「いいかい、良くあるのだが、感情的になって、相手を直接攻撃してはいけないよ。特に暴力はいけない。」
弁護士先生が静かな部屋で、囁くように私に言った。
「わかっています。」
私の復讐は暴力ではない、金銭による経済的な制裁を加える事にあった。
しばらくしてから、ガラの悪い未成年の男性、その両親と思われる3人が、調停室に入ってきた。
他には誰も来なかった。
刑事裁判で嘘をつき、ヒステリックに泣き叫んだ加害者の母親も親族も、誰も来なかった。
強盗犯は全員で6名だったのだが、実行犯は先日の刑事裁判の2名と目の前の未成年1人。
残りの3名は実行には加わらず、警察から厳重注意をされて見逃されたのだ。
未成年の男性は、強盗傷害に加わりながらも、19歳という年齢が考慮され、補導という形で保護観察となっていて、こうして調停に出廷したのだ。
彼はガムを噛みながら、一切私と目を合わせず、椅子にふんぞり返っていた。
そのクソ野郎の両親が、私の目の前で小さくなっている初老の男性と女性だった。
今更ながら思うが、少年法というものはクソだなと思う。
たった1歳違うだけで、法律に守られ、どんな悪い事をしても許される。
新聞やテレビに名前が晒される事もなく、成人したらぬくぬくと就職なり、仕事を持ち、家庭が持てるのだと思うと、苛立ちで全身の毛が逆立つような気分だった。
私はムカムカしていたが、結局何もせず、無言でその3人を見ていた。
「ホフマン係数によって1千万円の請求を…」
そんな言葉が先生から聞こえたような気がする。
夏の暑い日差しと、セミの声が響いていたのを良く覚えている。