焼けた手帳5-2
人の気持ちが分からない。
自衛隊での夏休み。
私は1人で祖父母の家に来ていた。
実家には両親が居るのだが、家族は仕事などで誰も居らず、1人で居るぐらいなら、祖父母の家へ行こうと思い、鉄道を使って私は祖父母の家まで来ていた。
毎日走りこむように自衛隊で言われていた。
丁度伯父と従兄弟が来ていて、私にとっては従兄弟の末っ子が来ているので相手をすることにしたのだ。
彼は水泳とサッカーを習い事としてやっていて、私の走り込みに、末っ子の従兄弟に付き合って貰う事を、伯父に許可を得た。
1人で走るのは寂しかったのだ。
祖父母の次男、伯父の子、歳の離れた従兄弟とトレーニングを終えた。
10歳の伯父の子と祖父母の家の辺り5kmぐらいの距離を走っただろうか。
私は子供の体力にも敵わない。
息が上がって、そして心も苦しかった。
子供に体力で負けてしまうのは、自衛官としてどうかと思った。
私は偉ぶって、「おーい、ペース配分もしないと身体が持たないぞー。」などと言っていた。
入念なストレッチの仕方を丁寧に教え、頭を撫でて、言葉で褒めて、自分が理想の大人を演じる事に、私は物凄い疲労感を覚えていたのを、良く覚えている。
「この子はどんな子になるのだろう。きっと良い子に、幸せに育つのだろうな。」
などと考えていると、自分の過去が私を責めて、自分の従兄弟に対する嫉妬にも、嫌気が差していた。
その夜、祖父母と次男の伯父、三男の伯父がいる席で、酒に酔った私は自衛隊での嫌だった事、両親の今までのグチ、女性関係、洗いざらい酒の席でぶちまいた。
「もう嫌だ。死んでしまいたい!」
私は罪の告白の羞恥から、そう言って祖父の家の二階に駆け上がり、窓から飛び降りようとした。
三男の伯父がついて来ていて、飛び降りようとする私の襟を掴み、窓から引きずり離して私を床に転がした。
「お前はどこまで腐ったんだ!」
三男の伯父の鉄拳が顔面に入った。
一階のリビングまで連れて来られて、祖父が話しをしたいと言うので、正座で祖父の前に座らされた。
黙って聞いていた祖父が言い放った。
「どうしてお前は人の気持ちが分からないんだ。」
ショックだった。
私は今まで誰の気持ちを理解しようともしなかったし、分からなかったし、出来なかった。
そしてこれを書いている今も、他人の気持ちが分からない。
私は最低だ。
他人の気持ちが分からない私は、この世界に存在してはいけないような、そんな気持ちでいっぱいになった。
記憶が責める。
今が責める。
きっと未来も責められるのだろう。
そう考えると、自衛隊で教えてもらった人の殺し方、どうやったら死に至るのかを、自分に向けるようになった。
「死んでしまいたい。」
私は伯父と祖父母の前では、頭に沸いたこの言葉を言わなかった。
ただただ、頭の中でたった一言がぐるぐると回っていた。
2017.7.29 土曜日 平成29年




