手帳4-12
最後の冬休み
高校三年生になった冬休みの数日前。
私は女子の後輩数人に体育館に呼び出された。
体育館に呼び出されるのは、良い思い出が無かった。
「ほら、言っちゃいなよ。」
周りにその子は急かされていた。
地味なメガネのぽっちゃりした子が、もじもじとしていた。
「私はまた何かやらかしたのだろうか」と吊るし上げられる覚悟をしていた。
「先輩!好きです!つきあってください!」
その子は顔を真っ赤にして私に声をかけた。
「何かの罰ゲームをさせられているのかい?だったら別に帰っていいよ。私も帰るよ。慣れてるから。気にしないでいいよ。」
私が体育館の出口へ行こうとした時、その子に腕を掴まれた。
メチャクチャ痛かったのを覚えている。
「本気です!」
涙を浮かべながらその子は言った。
私は彼女の握力に負けて、彼女の気持ちに応えた。
彼女とその取り巻きの女子生徒たちは喜んでいた。
興味があった。
恋愛関係というものに、私は興味があったのだ。
今思うと、私は彼女を好きでもないのに、その告白に応えた事を後悔している。
「好奇心がネコを殺す」
今更こんな言葉が頭を過ぎる。
それから私は彼女と、色々な言葉を交わした。
だが、彼女が私に何を期待しているのか分からなかった。
言葉少ない彼女を、私には何を考えているのか分からなかった。
冬休みに入り、クリスマスに彼女が家までケーキを持って遊びに来た。
プレゼントだと言って、黒い手編みのマフラーを貰った。
私はお金が無くて、あげる物が無い事を詫びた。
彼女はずっと黙っていた。
夜が更けて、彼女を帰さないといけないと思い、彼女に声を掛けた。
「今日は友達の所にお泊りするって家族に言ってあります。」
私はぎくりとした。
「先輩、プレゼントとして、私が欲しいのは、あなたです。」
私は彼女の腕力に敵わず、押し倒され、裸に剥かれて、跨られ、男の子としての何かを失い、女性経験というものを得た。
何とも情けない記憶だ。
彼女とはそれからも言葉を交わしたが、私の性格に変化があったのだろうか。
それとも、私に対して何か幻想を持っていて、現実と違う私を知って、幻滅してしまったのだろうか。
彼女から連絡が無くなった。
「そんな人だとは思わなかった!」
正月が明けて、年賀状を出すお金が無い私は、「あけましておめでとう」と言うつもりで、こちらから電話を入れると、彼女は電話口で叫んで通話が切れた。
どうやら予想の両方だったらしい。
冬休みが明けて、三年生の三学期の登校日。
睨みつけられるような、周りの視線が痛かった。
スクールバスに乗り込んで来た彼女に「おはよう」と声を掛けた。
完全に無視されてしまった。
私には今でも原因がわからないが、多分何か言葉で彼女を傷つけてしまったのだろうと思う。
そして洗いざらい彼女は、私との関係、及び、あることないことを吹いて回り、私の周りの人間たちを、私の敵に仕立て上げた。
私から見た彼女との関係はこんなものだ。
当人には全く違う感想があるかもしれないが、私から見たらこういう風景に見えていた。
高校生活の最後でこういう目に会って、私は今でも高校生活に戻りたいなどと、一切考えていない。
ただただ、高校生活は辛かったという
記憶しかないのだ。
2017.7.28 金曜日 平成29年




