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20XXの人間失格者  作者: 来栖総一郎
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手帳4-8

手紙(てがみ)

謝(あやま)り続(つづ)けて、黙(だま)り続(つづ)けて、苛烈(かれつ)な高校(こうこう)時代(じだい)の一(いち)年目(ねんめ)が終(お)わり、私(わたし)は出席(しゅっせき)日数(にっすう)分(ぶん)補習(ほしゅう)を受(う)けて、進級(しんきゅう)出来(でき)て二(に)年生(ねんせい)になった。


髪(かみ)の毛(け)も元(もと)の長(なが)さとは言(い)えないが、それなりに伸(の)びた頃(ころ)の話(はなし)だ。


三(さん)年生(ねんせい)になった女子(じょし)の先輩(せんぱい)に、体育館(たいいくかん)に呼(よ)び出(だ)された。

周(まわ)りには数人(すうにん)の先輩(せんぱい)女子(じょし)も居(い)る。


「手紙(てがみ)、読(よ)んでくれなかったんだね。」

私(わたし)に対(たい)してそう言(い)うと、彼女(かのじょ)は泣(な)いていた。

それを庇(かば)うように、もう1人(ひとり)の女子(じょし)生徒(せいと)が肩(かた)を抱(だ)いていた。


「手紙(てがみ)?何(なん)の事(こと)ですか。全(まった)く身(み)に覚(おぼ)えがありません。」

先輩(せんぱい)女子(じょし)の1人(ひとり)が、私(わたし)の言葉(ことば)を聞(き)いて激昂(げきこう)した。


「テメェ!ちょっと顔(かお)が良(い)いからって、調子(ちょうし)乗(の)ってんじゃねえぞ!」

激昂(げきこう)した別(べつ)の先輩(せんぱい)女子(じょし)が、私(わたし)の胸(むね)を平手(ひらて)で突(つ)いた。

私(わたし)の身体(からだ)はストレスの嘔吐(おうと)と、内臓(ないぞう)不調(ふちょう)によりガリガリで、彼女(かのじょ)の突(つ)き飛(と)ばしに、あっさりと尻餅(しりもち)を突(つ)いた。


「あっ、わりぃ…身体(からだ)軽(かる)いなお前(まえ)。」

そんな言葉(ことば)で先輩(せんぱい)は、私(わたし)をそれ以上(いじょう)どうにかしようとは思(おも)わなくなったようだった。


「本当(ほんとう)に知(し)らないんです。」

記憶(きおく)にない。

記憶(きおく)力(りょく)は良(よ)い方(ほう)だと思(おも)っていたが、誰(だれ)かから手紙(てがみ)を貰(もら)った記憶(きおく)がない。


「郵便(ゆうびん)で送(おく)ったんだよ?」

泣(な)いていた先輩(せんぱい)が言(い)った。


「郵便(ゆうびん)…やっぱり覚(おぼ)えがありません。すいません。」

私(わたし)は立(た)ち上(あ)がり、深(ふか)く頭(あたま)を下(さ)げた。

先輩(せんぱい)は私(わたし)の言葉(ことば)で、また泣(な)いていた。


「じゃあいいよ。用(よう)はそれだけだ。行(い)け。」

私(わたし)を突(つ)き倒(たお)した先輩(せんぱい)が、手(て)で追(お)い払(はら)うサインを私(わたし)に見(み)せて、この場(ば)を離(はな)れるように指示(しじ)した。

納得(なっとく)が行(い)かなかった。


私(わたし)は教室(きょうしつ)に戻(もど)り、その日(ひ)ずっと考(かんが)えていた。



数日(すうじつ)後(ご)


帰宅(きたく)して自宅(じたく)。

学校(がっこう)では「先輩(せんぱい)を泣(な)かせたクズ野郎(やろう)」として周(まわ)りから噂(うわさ)され、私(わたし)は胃(い)がキリキリと痛(いた)くて、吐(は)いていた。


「あんたってモテるんだねー。」

母(はは)が上(じょう)機嫌(きげん)で、いやらしい笑顔(えがお)で私(わたし)に話(はなし)しかけて来(き)た。

どういう事(こと)だろうかと母(はは)を見(み)ると、母(はは)の手(て)には可愛(かわい)らしい封筒(ふうとう)の手紙(てがみ)が、何通(なんつう)かの手紙(てがみ)を持(も)ってヒラヒラさせていた。


私(わたし)は一連(いちれん)の胃(い)が痛(いた)い原因(げんいん)の一(ひと)つを悟(さと)った。


「ババア、てめぇのせいか。」

母(はは)はどうやら私(わたし)宛(あて)の手紙(てがみ)を、私(わたし)に隠(かく)して近所(きんじょ)に自慢(じまん)していたらしい。

この母(はは)の異常(いじょう)とも言(い)える行動(こうどう)、そして手紙(てがみ)の内容(ないよう)が、私(わたし)の先輩(せんぱい)女性(じょせい)という者(もの)が、気持(きもち)が悪(わる)い存在(そんざい)に変(か)えた。


私(わたし)は手紙(てがみ)を母(はは)から奪(うばい)い取(と)り、内容(ないよう)を読(よ)んだ。


入学(にゅうがく)からずっと気(き)になっていたこと。

年上(としうえ)だけど恋(こい)に落(お)ちてしまったという後悔(こうかい)。

勇気(ゆうき)を出(だ)した気持(きも)ちが書(か)いてあって、何日(なんにち)までに返事(へんじ)が欲(ほ)しいとまで書(か)いてあった。


それを母(はは)が私(わたし)に見(み)せず、自慢(じまん)の道具(どうぐ)に使(つか)い、それにより、私(わたし)の人脈(じんみゃく)という財産(ざいさん)を奪(うば)ったのだ。


「死(し)ねクズが。」

私(わたし)は母(はは)に詰(つ)め寄(よ)り、制裁(せいさい)を下(くだ)した。

命(いのち)だけは奪(うば)わない程度(ていど)、というか奪(うば)うだけの筋力(きんりょく)は無(な)かった。

私(わたし)は力(ちから)いっぱい攻撃(こうげき)を加(くわ)え、母(はは)を黙(だま)らせたのだ。


それから私(わたし)の弁当(べんとう)は無(な)くなった。

母(はは)からの報復(ほうふく)で弁当(べんとう)が作(つく)られなくなった。

私(わたし)は空腹(くうふく)に慣(な)れてしまっていて、別(べつ)にそれでも構(かま)わなかった。


私(わたし)はどんどん痩(や)せて行(い)った。

思考(しこう)力(りょく)が奪(うば)われていた。


手紙(てがみ)をくれた先輩(せんぱい)に対(たい)して、どうフォローしていいかも分(わ)からず、私(わたし)はただ黙(だま)って二(に)年生(ねんせい)の日(ひび)々を過(す)ごした。


この記憶(きおく)は「私(わたし)の母(はは)は常軌(じょうき)を外(はず)れた者(もの)であり、そして年上(としうえ)の女性(じょせい)は気持(きも)ち悪(わる)い」という価値観(かちかん)を私(わたし)に植(う)え付(つ)けているものだ。

2017.7.28 金曜日 平成29年

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