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20XXの人間失格者  作者: 来栖総一郎
36/78

手帳3-3

悪(あく)への制裁(せいさい) 1/2

無(な)い。


私(わたし)のカバンの中(なか)にあった文房具(ぶんぼうぐ)の、まだパッケージを開(あ)けていない消(け)しゴムが無(な)くなっていた。


私(わたし)の隣(となり)の席(せき)で、ぎゃあぎゃあと騒(さわ)ぐ男子(だんし)生徒(せいと)たちの中(なか)、私(わたし)の消(け)しゴムがあった。


「消(け)しゴム落(お)とし」というゲームに興(きょう)じている男子(だんし)生徒(せいと)の消(け)しゴムの中(なか)に、パッケージされたままの、私(わたし)の消(け)しゴムがあったのだ。


「おい、その消(け)しゴムは私(わたし)のではないのか?」

そう彼(かれ)らに尋(たずね)ねると、1人(ひとり)の生意気(なまいき)な男子(だんし)生徒(せいと)が答(こた)えた。


「ああ、そうだよ。お前(まえ)のカバンから借(か)りた。返(かえ)すからいいだろう。」

「続(つづ)きをやろうぜ」と、そいつは私(わたし)に背(せ)を向(む)けてゲームの続(つづ)きをやろうと周(まわ)りに言(い)った。


「ふざけるな!この泥棒(どろぼう)野郎(やろう)!返(かえ)せ!」

私(わたし)はゲーム盤(ばん)となっている机(つくえ)から私(わたし)の消(け)しゴムを奪(うば)い取(と)った。

泥棒(どろぼう)生徒(せいと)が舌(した)打(う)ちをしながら私(わたし)に文句(もんく)を言(い)い始(はじ)めた。


「ちょっとぐらいイイじゃねえかクソが!」

彼(かれ)は椅子(いす)を強(つよ)く蹴(け)り飛(と)ばし、それを私(わたし)に当(あ)てた。


頭(あたま)の中(なか)が真(ま)っ白(しろ)になった。


「うわあ!やめてくれ!」

彼(かれ)の悲鳴(ひめい)が聞(き)こえた。


私(わたし)は椅子(いす)を、彼(かれ)が蹴(け)り飛(と)ばし私(わたし)に当(あ)てた椅子(いす)手(て)に持(も)ち、振(ふ)りかぶり、そして彼(かれ)に振(ふ)り下(お)ろしたのだ。


「ぐっ…」

彼(かれ)は頭(あたま)を押(お)さえて苦悶(くもん)の表情(ひょうじょう)を浮(う)かべて床(ゆか)にうなだれた。


ぽたぽたと床(ゆか)に血(ち)が落(お)ちる。


教室(きょうしつ)は女子(じょし)生徒(せいと)の悲鳴(ひめい)、男子(だんし)生徒(せいと)の叫(さけ)びで恐慌(きょうこう)状態(じょうたい)となった。


彼(かれ)はゲームに興(きょう)じていた男子(だんし)生徒(せいと)2人(ふたり)と一緒(いっしょ)に保健室(ほけんしつ)へ行(い)った。


私(わたし)はそのまま教室(きょうしつ)に残(のこ)り、次(つぎ)の英語(えいご)の授業(じゅぎょう)を受(う)けた。


空気(くうき)が何(なに)か、妙(みょう)な雰囲気(ふんいき)だったのを覚(おぼ)えている。


”3年(ねん)A組(くみ)出席(しゅっせき)番号(ばんごう)XX番、大至急(だいしきゅう)職員室(しょくいんしつ)に来(こ)い”

英語(えいご)の授業(じゅぎょう)が終(お)わり、すぐさまの校内(こうない)放送(ほうそう)だった。


私(わたし)を呼(よ)ぶ校内(こうない)放送(ほうそう)だった。

私(わたし)は無視(むし)した。

私(わたし)は正義(せいぎ)を実行(じっこう)した。

呼(よ)び出(だ)される筋合(すじあい)いは無(な)い。


用(よう)があるならそっちから来(こ)い、そう思(おも)って無視(むし)していると、担任(たんにん)が教室(きょうしつ)に入ってきた。

鬼(おに)のような形相(ぎょうそう)で私(わたし)の頭(あたま)を殴(なぐ)りつけた。


父(ちち)からの暴力(ぼうりょく)と同(おな)じ威力(いりょく)だった。


「このクソッタレのゴミが!呼(よ)ばれたなら来(こ)い!」

私(わたし)の腕(うで)を強引(ごういん)に掴(つか)むと、引(ひ)きずるように教室(きょうしつ)から出(だ)されて、職員室(しょくいんしつ)に連行(れんこう)された。


「お前(まえ)の主張(しゅちょう)など聞(き)きたくもない。だが責任(せきにん)は取(と)ってもらうからな。」

机(つくえ)を担任(たんにん)教員(きょういん)が叩(たた)いて威嚇(いかく)しながら言(い)い放(はな)った。


「今日(きょう)あったことをちゃんと親(おや)に言(い)え。絶対(ぜったい)に隠(かく)すなよ。」

ギロギロと私(わたし)と書類(しょるい)を見(み)ながら担任(たんにん)は何(なに)かをしていた。


「わかったらさっさと出(で)て行(い)け。」

私(わたし)は職員室(しょくいんしつ)から追(お)い出(だ)された。


私(わたし)を殴(なぐ)るため、文句(もんく)を言(い)うためだけに呼(よ)んだのかと思(おも)うと、学校(がっこう)という施設(しせつ)は何(なん)と言(い)うか、言葉(ことば)が通(つう)じる動物園(どうぶつえん)のように感(かん)じた。

動物園(どうぶつえん)の動物(どうぶつ)はアイドルで、虐待(ぎゃくたい)されないだけマシのような気(き)もした。



私(わたし)は学校(がっこう)帰(かえ)りに、泥棒(どろぼう)生徒(せいと)とゲームに興(きょう)じていた生徒(せいと)の1人(ひとり)に呼(よ)び止(と)められた。


「なあ、ちょっといいか?」

私(わたし)は無言(むごん)で彼(かれ)の顔(かお)を見(み)た。

泥棒(どろぼう)を肯定(こうてい)するこいつもまた、泥棒(どろぼう)と同(おな)じなのだ。

そう思(おも)うと私(わたし)はイライラしていた。


「あいつさ、片親(かたおや)なんだよ。だからさ、」

私(わたし)は言葉(ことば)を遮(さえぎ)った。


「片親(かたおや)だから何(なん)だ?泥棒(どろぼう)しても許(ゆる)されるのか?泥棒(どろぼう)を擁護(ようご)するお前(おまえ)も私(わたし)の中(なか)では同(おな)じだぞ。」

思(おも)っている事(こと)を伝(つた)えた。

更(さら)に続(つづ)ける。


「お前(まえ)も頭(あたま)をカチ割(わ)られたいのか?」

そう言(い)い放(はな)つと彼(かれ)は固(かた)まった。

何(なに)も言(い)えず顔(かお)を下(した)に向(む)けて言葉(ことば)が出(で)ないようだった。


「私(わたし)に話(はな)しかけるな。クソが。」

彼(かれ)にそう言(い)い放(はな)つと、私(わたし)は家路(いえじ)に急(いそ)ぎ自宅(じたく)に向(む)かった。


担任(たんにん)教員(きょういん)に言われたように、今日(きょう)の事(こと)を報告(ほうこく)しなくてはならない。

そう思(おも)っていた。


担任(たんにん)に殴(なぐ)られた頭(あたま)が痛(いた)い。

気分(きぶん)も悪(わる)い。

最悪(さいあく)な日(ひ)だった。



果(は)たして私(わたし)が実行(じっこう)した正義(せいぎ)は、正(ただ)しかったのだろうか。

少(すく)なくとも私(わたし)に後悔(こうかい)はないが、やり過(す)ぎだったのではないだろうか。

そんな疑問(ぎもん)が記憶(きおく)として頭(あたま)に残(のこ)っている。


そして私(わたし)は中学校(ちゅうがっこう)の関係者(かんけいしゃ)を、一切(いっさい)信用(しんよう)しなくなる光景(こうけい)を見(み)る事(こと)になった。

2017.7.27 木曜日 平成29年

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