手帳2-11
嘘つきと泥棒
「おいお前、俺の遊びに付き合えよ」
不意に馴れ馴れしく話しかけて来た奴がそこに居た。
「いいけど、どこへ行くの?」
やぶさかではなかった。
私に声を掛けてくれる人など、ほぼ居なかったから、少し嬉しかったのだ。
彼についていくと、一軒家が多い郊外の住宅街に着いた。
ある一軒の住宅の前で、彼は門にある呼び鈴も押さずに、ずかずかと敷地に入り、玄関前のプランターを探っていた。
「何をしているんだ?留守じゃないのか?」
私は急に不安になった。
彼は何の遊びをしようと言うのだろうか。
「あった。」
彼が声を上げた。
鍵だった。
この家の鍵だろう。
プランターに隠していたのだろう。
「これって泥棒じゃないか。ダメなんじゃないのか?」
私は泥棒は悪い事だと言う事を認識していた。
そしてそれを今やろうとしている、片棒を担ごうとしている事に恐怖した。
「いいんだよ。こういう金持ちバカはの家は。簡単に鍵が分かりやすい所に置いてるのも悪いんだ。」
彼は知らない人の家のドア鍵を開けて、土足で入っていった。
「何してんだよ。来いよ。」
私は逆らえず、一応靴を脱いで手に持って上がりこんだ。
「お邪魔しまーす…」
私は他人の家に入る時は必ず言うように躾られていた。
「バカだな。俺ら以外誰もいねーよ。それより2階だな。」
彼はずかずかと二階への階段を登って行った。
「相変わらずトロいな。早く来いよ。」
苛立ちが顔に出ている彼の声で、私も二階へ向かった。
ごそごそと彼はカバンの中に、この部屋の主の所有物である、ゲームのソフトを詰め込んでいた。
私はただただ、固まっているだけだった。
何も出来なかった。
だけど勇気を出して彼に言った。
「もうやめよう。これは泥棒で悪い事だ。」
本当に勇気を出して言った言葉だった。
「は?ここに居る時点でお前も泥棒なんだよ。わかってんの?バカだな。」
私はもう彼に逆らう事は出来なかった。
「ガム食えよ」
私は「取り返しのつかない悪い事をしている」と落ち込んでいる不意に、彼は板ガムを差し出して来た。
「いらないよ」
食欲など無かった。
何かを口に入れる元気すら失せていた。
「いいから食え!」
恐ろしい顔をして凄む彼に抵抗出来ず、私は差し出された板ガムを指でつまんだ。
ぱちん。
親指に金具が当たり、肌が赤くなっていた。
「あははは!引っかかった引っかかった!あははは!」
笑い転げる彼を見て、こいつは私にとって悪だと思ったのを、強く覚えている。
「おっと、こんな時間か。そろそろ帰ってくるな。ズラかるか。」
彼は手際良く荷物をまとめて、私と共に家を出て、ドアに鍵を掛けて、鍵をプランターに戻していた。
「面白かったぜ。ありがとーよ。というか大人にチクったら殺すからな。てーか、誰もお前の話なんて信じねーけどな。あばよ!」
そう告げると彼は走り去って行った。
私は彼の遊びに付き合った事で、彼と泥棒が大嫌いになった。
そして自分が泥棒の加担をしたことに、今でも罪を感じている。
私は嘘つきと泥棒が大嫌いになった。
2017.7.24 月曜日 平成29年




