↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20XXの人間失格者  作者: 来栖総一郎
30/78

手帳2-12

沈黙(ちんもく)と謝罪(しゃざい)

私(わたし)と一緒(いっしょ)に空中(くうちゅう)に、浮(う)くゴム鞠(まり)を見(み)た幼稚(ようち)園(えん)の時(とき)から一緒(いっしょ)だった、女(おんな)の子(こ)が引(ひ)っ越(こ)した。


あれから彼女(かのじょ)とは何回(なんかい)か話(はなし)をしたが、私(わたし)はどうにも話(はなし)が下手(へた)で、何(なん)と会話(かいわ)していいのか分(わ)からず、ただただ「はい」とか「いいえ」とか、彼女(かのじょ)に敬語(けいご)で話(はなし)をしていたのを覚(おぼ)えている。


そして彼女(かのじょ)が何(なに)を考(かんが)えていたのかも分(わ)からず、お別(わか)れの挨拶(あいさつ)も無(な)しに、彼女(かのじょ)は私(わたし)の前(まえ)から姿(すがた)を消(け)した。


彼女(かのじょ)の事(こと)を思(おも)い出(だ)してみると、彼女(かのじょ)の家(いえ)にお呼(よ)ばれして、彼女(かのじょ)の部屋(へや)で本(ほん)を、主(おも)に漫画(まんが)を見(み)せて貰(もら)ったのが印象(いんしょう)深(ぶか)い。


内容(ないよう)は、今(いま)で言(い)うホラー物(もの)ばかりで、私(わたし)は彼女(かのじょ)の本(ほん)が怖(こわ)くて、絶句(ぜっく)以外(いがい)の表現(ひょうげん)が出来(でき)なくて、「こわいよ」という言葉(ことば)以外(いがい)の表現(ひょうげん)出来(でき)なかった。


そんな彼女(かのじょ)は引(ひ)っ越(こ)した。


私(わたし)は彼女(かのじょ)が居(い)なくなった家(いえ)を見(み)ていたのだが、空家(あきや)になった外(そと)の家(いえ)の壁(かべ)に、黒(くろ)い空中(くうちゅう)に浮(う)いた、人影(ひとかげ)のようなものを2つ見(み)た。


何(なん)だか怖(こわ)くて、その人影(ひとかげ)が恐(おそ)ろしくて、私(わたし)は彼女(かのじょ)が居(い)た家(いえ)の側(そば)には、それが見(み)えるから、絶対(ぜったい)に近寄(ちかよ)らなかったのを覚(おぼ)えている。


当時(とうじ)、引(ひ)っ越(こ)した彼女(かのじょ)は「親戚(しんせき)に引(ひ)き取(と)られる事(こと)になった。」とだけ聞(き)いた。


彼女(かのじょ)には両親(りょうしん)が居(い)た。


両親(りょうしん)が居(い)るのに、親戚(しんせき)に引(ひ)き取(と)られるのは変(へん)だと思(おも)ったが、子供(こども)の事情(じじょう)など「子供(こども)には大人(おとな)の事情(じじょう)に、何(なん)の抵抗(ていこう)も出来(でき)ない」のが世間(せけん)様(さま)の考(かんが)えであり、普通(ふつう)であり、一般的(いっぱんてき)なのだ。


価値観(かちかん)を共有(きょうゆう)出来(でき)たかもしれない異性(いせい)だった。


後(のち)に分(わ)かった話(はなし)だが、彼女(かのじょ)の両親(りょうしん)は自宅(じたく)で自殺(じさつ)してしまった。

その為(ため)に、彼女(かのじょ)を親戚(しんせき)が引(ひ)き取(と)る事(こと)になったと、両親(りょうしん)が話(はな)しているのを、引(ひ)っ越(こ)した話(はなし)を含(ふく)めて聞(き)いたのだ。


私(わたし)はどういう理由(りゆう)で、どうやって彼女(かのじょ)の両親(りょうしん)が死(し)んだのか、それは全(まった)く分(わ)からなかった。


ただ、引(ひ)っ越(こ)した彼女(かのじょ)の家(いえ)の壁(かべ)に、黒(くろ)い人影(ひとかげ)が2つ、壁(かべ)に張(は)り付(つ)くように、それが浮(う)いているのが、とても怖(こわ)かった。


私(わたし)の邪推(じゃすい)だが、「首(くび)を吊(つ)って死(し)んだのではないか?」などと余計(よけい)な事(こと)を今(いま)考(かんが)えている。


人様(ひとさま)の家庭(かてい)の、しかもかなりデリケートな話(はなし)に、口(くち)を挟(はさ)むものでは無(な)かったし、何(なに)より私(わたし)は嘘(うそ)つきと呼(よ)ばれるのが嫌(いや)で、親(おや)に話(はな)そうにも聞(き)いて貰(もら)えず、これは誰(だれ)にも話(はな)さなかった。


私(わたし)は沈黙(ちんもく)という嘘(うそ)をついている。

しかし沈黙(ちんもく)は私(わたし)を嘘(うそ)つき呼(よ)ばわりしない。

両親(りょうしん)は私(わたし)の沈黙(ちんもく)を好(この)んだ。

そして両親(りょうしん)が「私(わたし)が謝(あやま)る言葉(ことば)と態度(たいど)」を好(この)んだ。


沈黙(ちんもく)と謝罪(しゃざい)をしていたら、私(わたし)は安全(あんぜん)だった事(こと)が多(おお)かった。


文章(ぶんしょう)に書(か)き起(お)こして、それを見(み)せびらかす事(こと)などをしなければ、私(わたし)は嘘(うそ)をついている事(こと)にはならない。


沈黙(ちんもく)と謝罪(しゃざい)は私(わたし)にとって、世間(せけん)様(さま)にとって、正(ただ)しい事(こと)なのだと今(いま)でも思(おも)う。

2017.7.24 月曜日 平成29年

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。