↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20XXの人間失格者  作者: 来栖総一郎
27/78

手帳2-9

学級(がっきゅう)裁判(さいばん)

母(はは)が仕事(しごと)と子育(こそだ)てが大変(たいへん)だからと、祖母(そぼ)が私(わたし)の家(いえ)へ手伝(てつだ)いに来(き)てくれていた。


私(わたし)は祖母(そぼ)が家(いえ)へ来(き)てくれた事(こと)で、母(はは)の暴力(ぼうりょく)と、辛辣(しんらつ)な言葉(ことば)からしばらく守(まも)られていた。


そんなある日(ひ)、私(わたし)は学校(がっこう)での出来事(できごと)で、痛(いた)みと屈辱(くつじょく)で泣(な)いていた。


「もう学校(がっこう)へ行(い)きたくない。」

本当(がっこう)に学校(がっこう)へ行(い)きたくなかった。


時間(じかん)は夕暮(ゆうぐ)れ時(とき)、母(はは)がグズった私(わたし)に対(たい)してヒステリーを起(お)こした。


「だったらそんな脚(あし)、必要(ひつよう)無(な)いから切(き)り落(お)としてやる!」

母(はは)が父(ちち)の工具(こうぐ)箱(はこ)からノコギリを持(も)ち出(だ)して、私(わたし)の脚(あし)に刃(やいば)を当(あ)てて引(ひ)いた。


その傷(きず)は右脚(みぎあし)に今(いま)でもある。


「息子(むすこ)に対(たい)して何(なん)てことするのさ!」

祖母(そぼ)が身体(からだ)を張(は)って庇(かば)ってくれた。

母(はは)からノコギリを取(と)り上(あ)げて正座(せいざ)させ、ガミガミと叱(しか)り付(つ)けていた。


祖母(そぼ)が私(わたし)の脚(あし)の傷(きず)を手当(てあて)してくれた。


「大介(だいすけ)、どうして学校(がっこう)に行(い)きたくないんだい?」

祖母(そぼ)が優(やさ)しく聞(き)いてくれた。



その日(ひ)の小学校(しょうがっこう)


「大介(だいすけ)君(くん)が図書(としょ)の本(ほん)を返(かえ)していません。」


学級(がっきゅう)裁判(さいばん)が始(はじ)まっていた。


「図書(としょ)委員(いいん)に返却(へんきゃく)を頼(たの)んだ。」

私(わたし)はそう主張(しゅちょう)した。


私(わたし)が返却(へんきゃく)を頼(たの)んだ、その図書(としょ)委員(いいん)は引越(ひっこ)していて、すでにクラスから居(い)なくなっていた。

私(わたし)を捲(ま)くし立(た)てていた女子(じょし)は、その後任(こうにん)の子(こ)だった。


「でも返却(へんきゃく)の紙(かみ)には返却(へんきゃく)された事(こと)がありませーん。」

ひらひらと図書(としょ)返却(へんきゃく)カードを図書(としょ)委員(いいん)の女子(じょし)が目立(めだ)つように振(ふ)り回(まわ)していた。


「これは返(かえ)していないって事(こと)ですよね。嘘(うそ)はやめてくださーい。」

図書(としょ)委員(いいん)の女子(じょし)は大声(おおごえ)で叫(さけ)んだ。


「どっちが本当(ほんとう)なんだ?」

「大介(だいすけ)が嘘(うそ)だろ。あいつ嘘(うそ)つきだし」

「そうだな図書(としょ)委員(いいん)が正(ただ)しい」

クラスのあちこちからざわめきが聞(き)こえ、ついには大合唱(だいがっしょう)になった。



「うーそつき!うーそつき!うーそつき!」

「あーやまれ!あーやまれ!あーやまれ!」



その大合唱(だいがっしょう)に心(こころ)が折(お)れて、私(わたし)は、自分(じぶん)の正(ただ)しさを曲(ま)げて謝罪(しゃざい)した。

悔(くや)し涙(なみだ)を流(なが)しながら。


「謝(あやま)ったね。じゃあ本(ほん)を弁償(べんしょう)してください」

鬼(おに)の首(くび)を取(と)ったかのように、図書(としょ)委員(いいん)が詰(つ)め寄(よ)って来(き)た。


「謝(あやま)れというから謝(あやま)ったが、私(わたし)は本(ほん)を返(かえ)した!これは事実(じじつ)だ!弁償(べんしょう)などしない!おまえら全員(ぜんいん)敵(てき)だ!」

大声(おおごえ)で私(わたし)は宣言(せんげん)した。


「そんなものは知(し)らない。弁償(べんしょう)しろ!」

図書(としょ)委員(いいん)の女子(じょし)が私(わたし)の席(せき)に詰(つ)め寄(よ)って来(き)て、平手(ひらて)を私(わたし)の机(つくえ)に叩(たた)きつけて威嚇(いかく)した。


「このクソ野郎(やろう)!死(し)ね」

私(わたし)は図書(としょ)委員(いいん)を両手(りょうて)で突(つ)き飛(と)ばした。


教員(きょういん)が割(わ)って入(はい)り、私(わたし)は担任(たんにん)教員(きょういん)に顔面(がんめん)を殴(なぐ)りつけられた。


「いい加減(かげん)にしろ大介(だいすけ)!そして弁償(べんしょう)はいい。みんなも言(い)いすぎだ。全員(ぜんいん)反省(はんせい)しろ。」

教員(きょういん)から殴(なぐ)りつけられた顔面(がんめん)がじんじん痛(いた)む。


理不尽(りふじん)だった。


学校(がっこう)が終(お)わり、自宅(じたく)に戻(もど)ると祖母(そぼ)と母(はは)がいた。

今日(きょう)あった事(こと)を伝(つた)え、もう学校(がっこう)へ行(い)きたくないと伝(つた)えると、そんな事(こと)は許(ゆる)さない、朝(あさ)になったら外(そと)に出(だ)して鍵(かぎ)をかけてやる、出(で)て行(い)かないなら脚(あし)を切(き)り落(お)としてやる。

こうなったのだ。


「どうしたものかねぇ…」

祖母(そぼ)は母(はは)への説教(せっきょう)を終(お)えて困惑(こんわく)していた。


家(いえ)の呼(よ)び鈴(りん)が鳴(な)った。


「この度(たび)はご子息(しそく)に暴力(ぼうりょく)を振(ふ)るってしまいました。謝罪(しゃざい)に参(まい)りました。」

私(わたし)を殴(なぐ)った担任(たんにん)教員(きょういん)だった。


「いいんですよ。大体(だいたい)コレが悪(わる)いんで、どんどん殴(なぐ)っていいですから」

母(はは)のその発言(はつげん)を聞(き)いて祖母(そぼ)が怒(おこ)った。


「これが親(おや)の言(い)う事(こと)か!」

祖母(そぼ)は母(はは)に暴力(ぼうりょく)を容認(ようにん)するとは何事(なにごと)かと怒(おこ)っていた。

祖母(そぼ)の言葉(ことば)が、とても嬉(うれ)しかったのを覚(おぼ)えている。


次(つぎ)の日(ひ)。


学校(がっこう)の図書室(としょしつ)で私(わたし)が借(か)りた本(ほん)を探(さが)してみた。

私(わたし)が借(か)りた本(ほん)があった。


多分(たぶん)だが、引(ひ)っ越(こ)した図書(としょ)委員(いいん)前任(ぜんにん)の彼女(かのじょ)は、私(わたし)から本(ほん)を受(う)け取(と)り手続(てつづ)きせず、そのまま図書室(としょしつ)の本棚(ほんだな)に戻(もど)したのだろう。


私(わたし)は自分(じぶん)の責任(せきにん)を放棄(ほうき)して、雑(ざつ)な仕事(しごと)をする人間(にんげん)が嫌(きら)いになった。


そして暴力(ぼうりょく)を肯定(こうてい)する母(はは)も、教員(きょういん)も含(ふく)めて、何(なに)かあれば「後(あと)で謝(あやま)れば殴(なぐ)りつけても良(よ)い」という大人(おとな)たち、全(すべ)てが嫌(きら)いになった。


私(わたし)は存在(そんざい)するだけで、他人(たにん)に迷惑(めいわく)をかける悪(あく)なのだと思(おも)うようにもなった。

2017.7.23 日曜日 平成29年

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。