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20XXの人間失格者  作者: 来栖総一郎
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手帳2-5

お年玉(としだま)

母(はは)や父(ちち)が子供(こども)からお年玉(としだま)を取(と)り上(あ)げる言(い)い訳(わけ)はたくさんある。


「お前(まえ)が大人(おとな)になったら、まとめて返(かえ)してあげる」


「お前(まえ)が進学(しんがく)する時(とき)の足(た)しにする」


「お前(まえ)の将来(しょうらい)のために積(つ)み立(た)てて置(お)いてあげる。」


色(いろいろ)々な「子供(こども)からお年玉(としだま)を取(と)り上(あ)げる言(い)い訳(わけ)」はあるだろう。


多(おお)くの人(ひと)から私(わたし)は聞(き)いたが、大体(だいたい)がこんな言(い)い訳(わけ)で、本人(ほんにん)はお年玉(としだま)を取(と)り上(あ)げられて、お年玉(としだま)の中身(なかみ)は親(おや)の懐(ふところ)に入(はい)り、他(ほか)の親戚(しんせき)の子(こ)へあげるお年玉(としだま)に化(ば)けるものだ。


優(やさ)しい嘘(うそ)だと思(おも)う。


だが私(わたし)の場合(ばあい)は違(ちが)った。


「お前(まえ)が貰(もら)ったお年玉(としだま)は、他(ほか)の親戚(しんせき)の子供(こども)たちに渡(わた)すお金(かね)だから、全部(ぜんぶ)寄越(よこ)しなさい。出(だ)さないなら家族(かぞく)が破滅(はめつ)する。」

そう言(い)われて全(すべ)て没収(ぼっしゅう)されていた。


実際(じっさい)そうなのだろう。

親戚(しんせき)の子供(こども)にお年玉(としだま)をあげるにはお金(かね)が必要(ひつよう)だ。


そのお金(かね)はどこから来(く)るのか。


子供(こども)から預(あずか)かるという名目(めいもく)でお金(かね)を回(まわ)すしかない。

子供(こども)はその嘘(うそ)を信(しん)じて、大人(おとな)になってからその事実(じじつ)を知(し)って怒(おこ)るが、同時(どうじ)に納得(なっとく)もする。


私(わたし)は違(ちが)った。

時間(じかん)を掛(か)けずに事実(じじつ)を突(つ)きつけられ、そして、お年玉(としだま)というものが借金(しゃっきん)であることを知(し)ってしまっていた。


「お年玉(としだま)なんていらない。」

そう親戚(しんせき)に言(い)ったことがある。

母(はは)がとても驚(おどろ)いて私(わたし)を強(つよ)く小突(こづ)いた。


「何(なに)を言(い)っているの!失礼(しつれい)でしょ!貰(もら)いなさい!」

母(はは)の態度(たいど)は当然(とうぜん)だ。

親戚(しんせき)の子供(こども)たちに与(あた)えるお年玉(としだま)の財源(ざいげん)が消(き)えるのは、絶対(ぜったい)に嫌(いや)だろうから。


「お年玉(としだま)なんてクソみたいな習慣(しゅうかん)、無(な)くなればいいのに」

当時(とうじ)はそう思(おも)っていた、


私(わたし)は嘘(うそ)をつけない母(はは)が憎(にく)かった。

他人(たにん)には上手(じょうず)な嘘(うそ)をつく母(はは)が憎(にく)かった。


二度(にど)と嘘(うそ)をつけないように、口(くち)に石(いし)を詰(つ)めて縫(ぬ)い合(あ)わせてやりたい程(ほど)、憎(にく)かった。


「両親(りょうしん)が憎(にく)い。殺(ころ)してやりたいほど」

これを言(い)えば心(こころ)はすっきりと晴(は)れるだろう。

だが同時(どうじ)に私(わたし)は身(み)も心(こころ)も、そして私(わたし)の立場(たちば)も環境(かんきょう)も破滅(はめつ)するだろうとも思(おも)っていた。


私(わたし)は両親(りょうしん)を守(まも)る態度(たいど)を取(と)るしかなかったのだ。


この人間(にんげん)のクズを守(まも)ることが、結果(けっか)として私(わたし)を守(まも)る事(こと)になるのだから。


だが釈然(しゃくぜん)としない。

心(こころ)にモヤが掛(か)かったように、心(こころ)が晴(は)れたりしない。

私(わたし)が両親(りょうしん)を守(まも)る事(こと)で、両親(りょうしん)は「私(わたし)に愛(あい)されている」という誤解(ごかい)から、私(わたし)の守(まも)る態度(たいど)に胡坐(あぐら)を掻(か)いて威張(いば)り散(ち)らす、いわば負債(ふさい)だった。


早(はや)く死(し)んでくれと常(つね)に思(おも)っていた。


だが両親(りょうしん)が死(し)んだら、私(わたし)も道連(みちづ)れで死(し)ななくてはならない。

「死(し)というもの」それが恐(こわ)くて両親(りょうしん)を守(まも)る事(こと)が一番(いちばん)恐怖(きょうふ)から、そして自分(じぶん)の居場所(いばしょ)を守(まも)る事(こと)が出来(でき)る、唯一(ゆいいつ)の方法(ほうほう)だと思(おも)っていたのだ。

2017.7.22 土曜日 平成29年

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