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20XXの人間失格者  作者: 来栖総一郎
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手帳2-4

鼻血(はなぢ)

トンボの話(はなし)の次(つぎ)の日(ひ)。

祖父(そふ)の家(いえ)で焼肉(やきにく)をやることになった。


祖父母(そふぼ)の長男(ちょうなん)、次男(じなん)、三男(さんなん)、長女(ちょうじょ)の母(はは)、次女(じじょ)の伯母(おば)、それぞれの伯父(おじ)と伯母(おば)は家庭(かてい)を持(も)っていて、私(わたし)と兄弟(きょうだい)を含めて従兄弟(いとこ)たちの集団(しゅうだん)は、全員(ぜんいん)で9名(めい)になっていた。


私(わたし)は両親(りょうしん)に「絶対(ぜったい)に従兄弟(いとこ)たちに攻撃(こうげき)してはダメだ。」と言(い)われた。

もちろん当(あ)たり前(まえ)の事(こと)だ。

攻撃(こうげき)するつもりは毛先(けさき)程(ほど)も無(な)かった。


何(なに)より私(わたし)に優(やさ)しくしてくれた祖父母(そふぼ)や伯母(おば)が居(い)る。

伯母(おば)の娘(むすめ)2人(ふたり)が、まるで伯母(おば)の分身(ぶんしん)のようで、飴(あめ)細工(ざいく)のような儚(はかな)さがあって、とても攻撃(こうげき)する対象(たいしょう)にはならなかった。


伯父(おじ)たちの息子(むすこ)たちもそうだ。

優(やさ)しくしてくれた伯父(おじ)たち。

私(わたし)の父(ちち)と、親(おや)の立場(たちば)を交代(こうたい)してくれないかと思(おも)う程(ほど)、私(わたし)に優(やさ)しかった。

その伯父(おじ)たちを怒(おこ)らせるようなマネを、私(わたし)はしたくなかったのだ。


私(わたし)は席(せき)を取(と)ると、隣(となり)に祖父(おじ)の長男(ちょうなん)、伯父(おじ)の子(こ)の従兄弟(いとこ)が座(すわ)った。

彼(かれ)は身体(からだ)が弱(よわ)く、私(わたし)が幼(おさな)い頃(ころ)に全(まった)く近寄(ちかよ)らせて貰(もら)えなかった子(こ)だった。


私(わたし)は少(すこ)し嬉(うれ)しかった。

どんな考(かんが)え方(かた)をしているのだろうか。

きっと伯父(おじ)のように優(やさ)しいのだろうな。


そんな事(こと)を考(かんが)えながら焼肉(やきにく)は始(はじ)まった。


じゅうじゅうと肉(にく)と野菜(やさい)が焼(や)ける匂(にお)いがした。

煙(けむり)が視界(しかい)を半分(はんぶん)ぐらいにしていた覚(おぼ)えがある。


そんな中(なか)で隣(となり)に座(すわ)っていた従兄弟(いとこ)が「ううっ…」と言(い)いながら鼻血(はなぢ)を出(だ)していた。

熱気(ねっき)に当(あ)てられたのだろうか。

私(わたし)は心配(しんぱい)になり、「大丈夫(だいじょうぶ)か?ティッシュ持(も)って来(く)るよ」と声(こえ)を掛(か)けて立(た)ち上(あ)がった。


「このバカ野郎(やろう)が!」

父(ちち)の怒号(どごう)で私(わたし)は驚(おどろ)いた。

父(ちち)は私(わたし)の胸倉(むなぐら)を掴(つか)み、祖父(そふ)の家(いえ)の前(まえ)に通(とお)っている道路(どうろ)まで引(ひ)きずられ、そこで身体(からだ)を大(おお)きく持(も)ち上(あ)げられて、頭(あたま)からアスファルトに叩(たた)きつけられた。


世界(せかい)の終(おわ)わりが来(き)たような激痛(げきつう)が、頭(あたま)から全身(ぜんしん)に走(はし)った。

私(わたし)はそのダメージに耐(た)えられず、嘔吐(おうと)し、ついには意識(いしき)を失(うしな)った。


ここから先(さき)は良(よ)く覚(おぼ)えていない。


後(のち)に私(わたし)が大人(おとな)になってから、祖父母(そふぼ)や伯父(おじ)たちに聞(き)いたのだが、「ついに父(ちち)が大介(だいすけ)を殺(ころ)してしまった。」と思(おも)ったそうだ。


父(ちち)は鼻血(はなぢ)を出(だ)してしまった従兄弟(いとこ)を見(み)て、私(わたし)が殴(なぐ)りつけたのだと勘違(かんちが)いし、私(わたし)の生死(せいし)などお構(かま)いなしの教育(きょういく)を施(ほどこ)したのだ。


勘違(かんちが)いとは言(い)え、その父(ちち)の行為(こうい)は伯父(おじ)たちに脅威(きょうい)を与(あた)えるには充分(じゅうぶん)だった。


思(おも)えば従兄弟(いとこ)たちとそれから会話(かいわ)した覚(おぼ)えがない。



従兄弟(いとこ)たちから私(わたし)は徹底的(てっていてき)に遠(とお)ざけられたのだ。


今(いま)思(おも)えば当然(とうぜん)の話(はなし)だ。

自分(じぶん)の息子(むすこ)や娘(むすめ)が、私(わたし)たち兄弟(きょうだい)に粗相(そそう)をしたら、私(わたし)の父(ちち)に勘違(かんちが)いされて、私(わたし)たち兄弟(きょうだい)が攻撃(こうげき)される。

止(と)める事(こと)も出来(でき)ない行動(こうどう)を起(お)こされては困(こま)る。

私(わたし)たち兄弟(きょうだい)も不幸(ふこう)になるし、最悪(さいあく)姉(あね)夫婦(ふうふ)の子供(こども)たち、つまり、私(わたし)たち兄弟(きょうだい)の命(いのち)を落(お)としかねない。

何(なに)よりも自分(じぶん)の子供(こども)たちの教育(きょういく)に悪(わる)い。


当(あ)たり前(まえ)なのだ。

世間(せけん)様(さま)というものは、こういう物(もの)なのだ。


私(わたし)はこの後(あと)、祖父母(そふぼ)の家(いえ)へ連(つ)れて来(こ)られても、一切(いっさい)従兄弟(いとこ)に近寄(ちかよ)る事(こと)と会話(かいわ)する事(こと)は禁止(きんし)されて、私(わたし)が大人(おとな)になるまで、従兄弟(いとこ)たちと何(なに)かを話(はな)した記憶(きおく)は無(な)かった。

2017.7.22 土曜日

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