手帳2-3
トンボ
学校が夏休みのある日、祖父の家に来ていて遊んでいた。
玄関前ガラスの防寒フード。
たくさんのトンボがお盆の空気の中、空を埋め尽くさんばかりに飛んでいたので、捕まえられるだけ捕まえて、玄関フードの中に集めた。
今思えば虫カゴがあれば何も問題は無かった。
玄関を開けた祖母が家の中に入ってきた大量のトンボに驚いて腰を抜かした。
母は誰の仕業かと、ヒステリックに叫んだ。
「ぼくだよ」
発言した瞬間に有無を言わず、母のビンタを顔面に受けた。
「何でこんな事するの!見なさい!ひどいことになっているでしょう!?」
目の前では楽しがる従兄弟たち、「おお」「これは…」とトンボだらけになっている玄関を、母の声で集まった驚いた顔で見ている伯父たちがいた。
「まあまあ、虫カゴを与えたら済む話じゃないか姉さん。」
伯父の声が私を庇った。
「私の家の話に口出ししないで頂戴!大介、何とか言いなさい!」
1発目のビンタで心が固まって何も言えない。
「たのしかったから」
時間を置いて心が落ち着き、私が言い始める前に2発目の母のビンタが顔に入った。
「黙りなさい!反省しなさい!」
理不尽だった。
「言え」と言われて、発言したら叩かれたのだ。
今になって考えると、釈明の余地を与えられた。
だが時間を逃した。
それだけの話なのだ。
だが、当時の私は「言え」と言われたのに、発言したら「黙れ」と言われて、ただただ理不尽を感じ、泣いた。
「うるせえ!」
私の泣き声に父が反応し、トンボの件に我関せずの態度だった父が激昂し、父が私に近寄ったと思ったら、私の身体は浮き上がり、激痛と呼吸が出来ない恐怖と共に、蹴り上げられて玄関のドアに叩きつけられた。
「うちのバカがすいませんでした。」
父は周りの伯父たちに頭を下げて謝っていた。
「大介!」
祖母の声が聞こえた。
私はこの件に関してこれ以上の記憶が無い。
気絶したのだと思う。
お盆になると飛んでいるトンボを見ると思い出す、痛みを伴った記憶。
私は悪い事をしたのだ。
それ以来、私は昆虫に触るのを避けるようになった。
昆虫が嫌いなのではない。
昆虫、特にトンボを見るとこの記憶が甦るのだ。
2017.7.21 金曜日




