↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20XXの人間失格者  作者: 来栖総一郎
2/78

手帳と日記

僕は日記と手帳に出会った。

手帳(てちょう)と日記(にっき)


「これは?」

ネクタイを緩(ゆる)め背広(せびろ)の上着(うわぎ)を脱(ぬ)ぎ、ハンガーへ掛(か)けている親父(おやじ)に僕(ぼく)は聞(き)いた。


それは手帳(てちょう)と日記帳(にっきちょう)だった。


リビングのテーブルに数冊(すうさつ)の、よく本屋(ほんや)で売(う)られている手帳(てちょう)と日記帳(にっきちょう)だが、少(しょうしょう)々古(ふる)いものが置(お)かれていた。


「大介(だいすけ)を覚(おぼ)えているか?」

親父(おやじ)がスーツを脱(ぬ)いで、部屋着(へやぎ)に着替(きが)えてテーブルに着(つ)いた。


「もちろんだよ。…もしかして、」

僕(ぼく)は大介兄(だいすけにい)ちゃんが大好(だいす)きだった。

親父(おやじ)の姉(あね)、伯母(おば)さんの長男(ちょうなん)、従兄弟(いとこ)の大介兄(だいすけにい)ちゃん。

小学生(しょうがくせい)の時(とき)に一緒(いっしょ)にトレーニングをしてくれたのを良(よ)く覚(おぼ)えている。

とても優(やさ)しくて、僕(ぼく)の中(なか)の理想(りそう)の大人(おとな)の1人(ひとり)だ。

兄(にい)ちゃんのようになりたくて、学生(がくせい)の時(とき)にいじめに会(あ)ったけど、僕(ぼく)は大学(だいがく)を出(で)て強(つよ)くて頼(たよ)りになる理想(りそう)の大人(おとな)になりたくて、それをかつての兄(にい)ちゃんのように子供(こども)たちに見(み)せたくて、小学校(しょうがっこう)の教師(きょうし)になったぐらいだ。


その兄(にい)ちゃんが亡(な)くなったのは2年前(にねんまえ)。交通事故(こうつうじこ)だった。

打(う)ち所(どころ)が悪(わる)かったのだろう。聞(き)いた話(はなし)だが、きれいな遺体(いたい)だったそうだ。


兄(にい)ちゃんは生前(せいぜん)、献体(けんたい)の申(もう)し込(こ)みをしていて、葬儀(そうぎ)には遺体(いたい)は無(な)かった。

今(いま)、兄(にい)ちゃんの遺体(いたい)は大学病院(だいがくびょういん)で医者(いしゃ)の卵(たまご)たちのために使(つか)われている。


死(し)んでも尚(なお)、人(ひと)の役(やく)に立(た)ちたかったのだろうと、僕(ぼく)は兄(にい)ちゃんを誇(ほこ)りに思(おも)っている。


「もしかして、…兄(にい)ちゃんの?」

「そうだ。」

親父(おやじ)はタバコに火(ひ)をつけて紫煙(しえん)を上(うえ)に噴(ふ)き上(あげ)げた。


「姉(ねえ)さんはすでに亡(な)くなっているし、兄(にい)さんもひどい亡(な)くなり方(かた)だったなあ」

親父(おやじ)が遠(とお)い目(め)をしている。


「じゃあこの手帳(てちょう)と日記(にっき)はどうしてここにあるの?」

大介兄(だいすけにい)さんには弟(おとうと)たちがいる。


「大介(だいすけ)の弟(おとうと)たちがどこへ行(い)ったものやら、わからないんだ。」

眉(まゆ)をひそめて親父(おやじ)はため息(いき)をついた。


「だから巡(めぐ)って父(とお)さんが預(あず)かったんだ。しかしなあ…内容(ないよう)が」

大介兄(だいすけにい)さんの日記(にっき)と手帳(てちょう)がここにある。

兄(にい)さんは僕(ぼく)の理想(りそう)の大人(おとな)だ。

親父(おやじ)の話(はなし)から、この手帳(てちょう)と日記(にっき)には兄(にい)さんの弱音(よわね)が書(か)かれている。


「父(とう)さん。これらを僕(ぼく)が貰(もら)ってもいいかな?」

読(よ)んでみたい。

強(つよ)くて優(やさ)しくて、僕(ぼく)の目標(もくひょう)だった兄(にい)さんの弱(よわ)い部分(ぶぶん)が書(か)かれている。

きっと僕(ぼく)の今後(こんご)の人生(じんせい)にも役立(やくだ)つ。

そんな気(き)がして読(よ)んでみたいと思(おも)って言葉(ことば)が口(くち)に出(で)た。


親父(おやじ)がちょっと困(こま)ったような顔(かお)をした。

目(め)をつむり少(すこ)し考(かんが)えてから決心(けっしん)したようだ。

「よし、お前(まえ)も大人(おとな)だ。お前(まえ)が持(も)っていけ。」


やった。

僕(ぼく)は財宝(ざいほう)を得(え)たような気分(きぶん)になった。


その気分(きぶん)に親父(おやじ)が水(みず)を挿(さ)すように続(つづ)ける。

「だが覚悟(かくご)して読(よ)め。これは危(あぶ)ない。」


危(あぶ)ない?どういう意味(いみ)だろう。

「ここで数(すう)ページ読(よ)んで行(ゆ)け。それからでも遅(おそ)くない。」


お盆休(ぼんや)みの帰省(きせい)で実家(じっか)に居(い)る僕(ぼく)は、明後日(あさって)には帰(かえ)らなくてはならない。

もちろん、この日記(にっき)と手帳(てちょう)は持(も)って行(ゆ)くつもりだ。

でもここで読(よ)んで行(ゆ)けとはどういう事(こと)だろうか。


僕(ぼく)は一番古(いちばんふる)い大介(だいすけ)兄(にい)さんの日記(にっき)を手(て)に取(と)って、リビングのソファに座(すわ)って読(よ)み始(はじ)めた。

続きます。2017.7.7

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。