↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20XXの人間失格者  作者: 来栖総一郎
18/78

今夜は父さんの御馳走だぞ。

今夜(こんや)は父(とう)さんの御馳走(ごちそう)だぞ。その前(まえ)に風呂(ふろ)入(はい)ってこい。

手帳(てちょう)の1冊目(さつめ)を読(よ)みきった。


「おーい、今日(きょう)は母(かあ)さんは、パートが遅(おそ)くなるってよー。」

親父(おやじ)の声(こえ)がキッチンから僕(ぼく)に向(む)けられていた。


「父(とう)さんは後(あと)でいいから、お前(まえ)は風呂(ふろ)入(はい)れ。今夜(こんや)は御馳走(ごちそう)だぞ。楽(たの)しみにしておけよ。」

親父(おやじ)が夕飯(ゆうはん)の支度(したく)をしていた。


「僕(ぼく)もやるよ」と言ったのだが、「たまの休(やす)みで来(き)たのだから、お前(まえ)はゆっくりしていろ。」と気(き)を使(つか)ってくれていた。


親父(おやじ)はデカイ会社(かいしゃ)の重役(じゅうやく)なのに、家族(かぞく)ながらも上司(じょうし)の重役(じゅうやく)を飯炊(めした)きに使(つか)っているような気分(きぶん)で、何(なん)だか居心地(いごこち)が悪(わる)いやら、申(もう)し訳(わけ)ないやらで、何(なん)とも言(い)えない気持(きも)ちだ。


だが親父(おやじ)がくれたその時間(じかん)が…それで手帳(てちょう)の1冊目(さつめ)を読(よ)み切(き)れた。


「距離(きょり)を置(お)いて読(よ)め。」と言(い)われたように、僕(ぼく)は「これは大介(だいすけ)兄(にい)ちゃんではなく、知(し)らない誰(だれ)かの手帳(てちょう)だ」と思(おも)って読(よ)んだ。

全(まった)く知(し)らない誰(だれ)かの手帳(てちょう)だと思(おも)っても、何(なん)と言(い)う内容(ないよう)なのだろうかと、その内容(ないよう)にとても胸(むね)が痛(いた)くなった。


「おい、どうした。早(はや)く風呂(ふろ)入(はい)れ。湯(ゆ)が冷(さ)めてしまう。」

親父(おやじ)が急(せ)かす。


「ああ、分(わ)かったよ父(とう)さん。」

僕(ぼく)は手帳(てちょう)をテーブルに置(お)いて、風呂(ふろ)に入(はい)った。



懐(なつ)かしい実家(じっか)の風呂(ふろ)。

その天井(てんじょう)を湯船(ゆぶね)に浸(つ)かりながら見(み)ていた。


頭(あたま)を過(よ)ぎる手帳(てちょう)について。

僕(ぼく)が当然(とうぜん)で普通(ふつう)の生活(せいかつ)だとしていた生活(せいかつ)は、誰(だれ)もが持(も)っている普通(ふつう)だと思(おも)っていた。

手帳(てちょう)の主(ぬし)である人物(じんぶつ)、大介(だいすけ)兄(にい)ちゃんではない人(ひと)の手帳(てちょう)だと仮定(かてい)しても、とてもじゃないが普通(ふつう)の生活(せいかつ)ではない家庭(かてい)環境(かんきょう)だ。


僕(ぼく)が小(しょう)学校(がっこう)に上(あ)がる前(まえ)の記憶(きおく)は、幼稚(ようち)園(えん)の時(とき)で、しかもあまり思(おも)い出(だ)せない。


手帳(てちょう)の主(ぬし)は、少(すく)なくとも2歳頃(さいごろ)には、鮮明(せんめい)な記憶(きおく)を持(も)っていて、それを書(か)いている。


変(へん)な物(もの)が見(み)えて、信(しん)じてもらえなくて、言葉(ことば)をあまり知(し)らず、孤独(こどく)で、他人(たにん)を信(しん)じられず、どこにも居場所(いばしょ)が見(み)つけられ無(な)い子(こ)。


そんな子(こ)が小学校(しょうばっこう)に上(あ)がって、僕(ぼく)はどうその子(こ)に接(せっ)するだろうか。


僕(ぼく)はまだ学校(がっこう)では、担任(たんにん)を任(まか)されていない。

副(ふく)担任(たんにん)という立場(たちば)で、学校(がっこう)で仕事(しごと)をしている。

来年(らいねん)には担任(たんにん)を持(も)つ予定(よてい)だが、いわゆる虐待(ぎゃくたい)児童(じどう)に、どう接(せっ)したらいいのかわからない。


色(いろいろ)々な考(かんが)えが頭(あたま)の中(なか)を巡(めぐ)る。


少(しょうしょう)々お湯(ゆ)でのぼせてきた。


頭(あたま)がぼんやりとしてきたのが分(わ)かると、僕(ぼく)は風呂(ふろ)から出(で)て、部屋着(へやぎ)に着替(きが)えてリビングへ向(む)かうと、親父(おやじ)の料理(りょうり)の良(い)い匂(にお)いが漂(ただよ)っていた。


「良(い)い匂(にお)いだね。期待(きたい)していいかな。」

キッチンの親父(おやじ)に声(こえ)を掛(か)けた。


「おう。父(とう)さんがんばっちゃうぞ。」

じゅうじゅうと揚(あ)げ物(もの)の音(おと)がして、とても胃袋(いぶくろ)を刺激(しげき)する匂(にお)いが、僕(ぼく)の期待(きたい)を膨(ふく)らませていた。


それ以上(いじょう)僕(ぼく)は親父(おやじ)に声(こえ)を掛(か)けなかった。

僕(ぼく)との話(はなし)に夢中(むちゅう)になって、怪我(けが)でもさせたら大変(たいへん)だ。


僕(ぼく)は再(ふたた)び積(つ)まれていた手帳(てちょう)と日記(にっき)を見た。


僕(ぼく)は手帳(てちょう)の1冊目(いっさつめ)を読(よ)んだ。

傷(きず)ついた大介(だいすけ)兄(にい)ちゃんは小学校(しょうがっこう)に入(はい)るだろう。

それが多分(たぶん)、あれらの中(なか)に書(か)かれている。


第三者(だいさんしゃ)の目(め)から見(み)て、あれらの手帳(てちょう)はどう見(み)えるのだろうか。

心(こころ)が傷(きず)ついた子供(こども)に対(たい)して教師(きょうし)として、先生(せんせい)として担任(たんにん)たちは、どう接(せっ)したのだろうか。

そして、どう兄(にい)ちゃんは成長(せいちょう)して行(い)ったのか。


僕(ぼく)の見(み)た、「優(やさ)しくて強(つよ)い理想(りそう)の大人(おとな)の大介(だいすけ)兄(にい)ちゃん」。


その兄(にい)ちゃんの日記(にっき)の最初(さいしょ)ををさらりと読(よ)んだが、どうして伯父(おじ)さんや伯母(おば)さんに対(たい)して凶行(きょうこう)に及(およ)んだのか。


読(よ)んで驚(おどろ)きがあり疑問(ぎもん)が沸(わ)いて、そして怖(こわ)いけど興味(きょうみ)がある。


読(よ)み続(つづ)けて良(よ)いものなのだろうか。

そんな事(こと)を考(かんが)えて、日記(にっき)と手帳(てちょう)を見(み)ていた。


「まだちょっと掛(か)かりそうだ。冷蔵庫(れいぞうこ)からビールでも飲(の)んでおけ。」

親父(おやじ)の声(こえ)がキッチンからした。


「ああ、いいよ麦茶(むぎちゃ)で。」

酒(さけ)に酔(よ)って親父(おやじ)の作(つく)った美味(おいし)しい料理(りょうり)の味(あじ)が、それが思(おも)い出(で)になった時(とき)に、どんな味(あじ)だったか分(わ)からないものにしたくなかった。


何(なに)より、僕(ぼく)は手帳(てちょう)の続(つづ)きを見(み)て、それから自分(じぶん)の事(こと)について考(かんが)えたかった。


僕(ぼく)は冷蔵庫(れいぞうこ)から麦茶(むぎちゃ)を出(だ)して、コップに注(そそ)いでチビチビとやりながら、手帳(てちょう)の2冊目(さつめ)に手(て)を伸(の)ばし、ソファに腰掛(こしか)けて読(よ)み始(はじ)めた。


地震が多いですね。皆さん気をつけてください。


2017.7.20 木曜日 平成29年

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。