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アキラまじない師になる

 婚活パーティー当日、奈美とアキラは連れ立って待ち合わせ時間より早めに『わかば』を訪れた。

スーパーのアメンボこと藤原拓海と本屋のミズカマキリこと田中淳は、既に『わかば』に来ていてテーブル席に座り、仲良くオレンジジュースを飲んでいた。

時間には遅れてはいないが、客が待っていたのであれば商売上こちらが頭を下げるのは鉄則だ。


「こんにちは、お待たせしてすいません。こちらがまじない師のアキラです」


 面識はあるがこの二人と殆ど喋ったことが無い奈美は、丁寧にアキラを紹介した。

アキラは、まじない師と紹介されて、誰の事? と一瞬後ろを振り返った。自分の後ろには誰もいないことを確認し自分のことかと認識すると、まじない師というなんとも胡散臭い職業名に、今から軽犯罪でも犯すような後ろめたさを感じた。

まじない師はどんな挨拶をするんだろうかと考え、深々とゆっくり頭を下げた。

アメンボ拓海は驚きを隠せない様子だ。


「こんにちは……こんな、若い子がまじない師なのかい?」


 ミズカマキリ淳もアメンボ拓海に同意し頷きながら心配そうにアキラを窺っている。


「不安になってきたな、大丈夫かなあ?」


「大丈夫です。ヒロさんをご存知でしょう? 結果は出ていますので」


 奈美は自信を持って答えたが、あからさまに自分を怪しむ二人を見てアキラは奮い立った。


(見てろよ! すぐにモテさせてやるから……)


「こちらに、どうぞ」


 奈美はまじない部屋に案内すると、百均で買った黒い座布団を二人に出し、アキラを木彫りの人形が置いてあるテーブルの向こう側に座るように促した。


「それでは早速ですが、料金を先に頂きます。お話した通り一万五千円になります」


「前払いなのかい? しっかりしてるね?」


「やっぱりさ、拓海ちゃん。ちょっと高いよね……」


「淳ちゃん、了解したんだから仕方ないよ。払おう」


 顔を見合わせゴニョゴニョと口の中で喋った二人は、財布から渋々金を取り出し奈美に渡した。


「まず、始めに注意事項を読んで頂きます」


 奈美は箇条書きされた注意事項のコピーを二人に渡した。




      正しくモテる為の注意事項


  ①モテ効果の有効範囲は三メートル以内である。


  ②モテる時間は、まじないから約三十時間である。


  ③モテ効果はシャワー等で流すと効果が無くなる。



  ※意中の相手でなくてもモテてしまうので注意すること。三十時間後はモテ効果が無くなるので、その後はご本人の努力次第で、当方は一斉の責任を負いません。



二人が読み終わったのを確認して、奈美は誓約書を渡した。


「注意事項を正しく理解したなら、その誓約書にサインをお願いします」



 ごく簡単に作られた誓約書には


本間奈美、工藤アキラ殿


私は、正しくモテる為の注意事項を読み理解した上で、まじないを受けることを承諾し、

まじないを施した後モテ効果が発生した場合、いかなる結果になろうとも不服申し立てをしない事を誓います。


と書いてあり、その下に日付とサインをするスペースがあった。


アメンボ拓海が呟いた。


「誓約書か、ホント君しっかりしてるよね……君みたい人が嫁になってくれたら……」


 オドオドと恥ずかしそうにサインをした。


ミズカマキリ淳も後に続く。


「そ、そうだよね……僕にも、しっかりしたお嫁さんが来てくれたら……」


 奈美を嫁にと言う言葉に、アキラは胸を張りゴホンと咳払いをした。


「君達に、奈美さんは取り扱えません。僕くらいにならないと、ワハッハッ」


 芝居じみたアキラのセリフに真面目に接客していた奈美は、堪らずブッー!と吹き出した。

気を取り直し客商売の顔に戻した奈美だった。


「じゃあ、始めます。お二人共、上半身だけ裸になって下さい。アキラお願いね」


 アキラはさっさと服を脱ぎ二人を待った。

アメンボ拓海とミズカマキリ淳はどうして裸なのさとブツブツ文句を言いながら、ハンガーに服をかけている。ガリガリに肋骨が浮き上がった貧弱な上半身が寒そうだ。


「これから、まじない師のアキラが抱きつきますので、ビックリなさらないように……強力なまじないなので我慢して下さい」


 それを聞いた二人は、「エーッ」っと驚き、甲高い声で文句を言いだしたアメンボにミズカマキリが相槌を打つ。しまいには近づくアキラを長すぎる手で押しのけ出した。

二人を追うアキラに、狭い部屋を逃げ回りながら押しのけ合うアメンボとミズカマキリ……。


四畳半のまじない部屋は三人の異種格闘技のようになっていった。



喧騒と、二人の逃げ腰な態度に奈美は腹が立ち怒鳴った。


「うーるーさーい!!」


「あんたたちっ!! 女にモテたいんでしょ!? 女にモテたければアキラに抱きつかれなさいよ!」


「四の五の言わないで、大人しく抱きつかれなっ!  

なんなら返金してもいいんだよ、一生二人でお手て繋いで仲良くしてな! 気持ち悪い!」


 立て続けに『わかば』の魔女直伝の啖呵を切った。


 ガリガリの昆虫のような身体に抱きつくのは、自分でも少々嫌だったアキラだったが、流石に奈美の

「気持ち悪い」は酷過ぎる。


「す、すいません。大丈夫です。少ししか気持ち悪くないですから、抱きつかせて下さい」


フォローにならないフォローを入れて再度二人に近づいた。


「気持ち悪いって言われるのは慣れてるよ、淳ちゃん、大人しくやってもらおうか?」


「そうだね、拓海ちゃん。もう、ここまできちゃヤルしかないもんな」


 慣れてるって……なんて可哀そうなんだとアキラは泣きそうになり、あばら骨の浮き出た二人の固い身体に丁寧に自分の上半身をを擦り付けるのだった。


まじないの終わった二人を

奈美とアキラは『わかば』の入口で見送った。


「頑張ってくださいよー!」と頼りなげな背中に向かって叫んだ。


 本当に頑張って欲しいと、奈美とアキラの手は自然にボクシングのファイティングポーズになっていた。







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