アキラ主張する
ランチを食べながら奈美は静江に渡されたメモを見ていた。
「あれ? その二人青年部じゃない?」
ヒロが覗き込んだ。
「まじないをやって欲しいって、連絡先を書いていったみたいなのよ」
特異体質を認められるのは嬉しいけど、昨夜まで商売にするとは思っていなかったアキラは、聞こえないフリを決め込み黙々とランチを食べ続ける。
「そういえば、来週の日曜の午後から、青年部主催の婚活パーティーがあるんだよ。それでじゃなか?」
「えっと、藤原拓海と……田中淳……」
「ほら、スーパーと本屋の痩せ過ぎの二人だよ」
「ああー! アメンボとミズカマキリね?」
スーパーと本屋は高田アーケード商店街の入口付近に並んでいる。拓海と淳は身長は百八十センチはあるだろうか、手足は痩せすぎているせいか不自然に長く見える。スーパーの拓海の方が少し小柄な位で後ろから見たら双子のようだった。隣同士という事もあり実際に客が間違えて声をかけることが度々あるのだった。
アゴが出ているのがスーパーのアメンボ拓海、少々出っ歯なのが本屋のミズカマキリ淳で区別がつく。
図体はデカイくせに二人とも気が小さくオドオドとした雰囲気を身体から出している。
性格は拓海がせっかちで空回り、淳はのんびりして置いてけぼりを食らうタイプだ。
「この二人さ、毎年婚活パーティー出てるんだけど、誰も女の子が寄り付かなくって、毎年壁際に突っ立ってんのさ。実は去年までは俺もその仲間だったんだけどね、一抜けしちゃったから、今回はホスト役に徹せるよ」
「今まで付き合った女の子とかいないの?」
「二人とも俺より少し年上だけど、俺の知る限りではいないね」
アキラのランチを食べる手がピタリと止まった。
ヒロより年上でしかも、一回も女の人と付き合った事が無いなんて、なんて可哀そうな人達なんだ。淋しいだろうなと想像して、昨晩、奈美に背中を向けて足に布団を挟んで寝た時の自分の淋しさと被って、悲しくなってきた。
「やってあげようよ? 奈美ちゃん……」
「俺も、当日は手伝いで会場にいるからさ、なんとか上手くいくように、協力はできるよ」
奈美はうーんと言ったきり無言になった。
婚活パーティーは高田商店街だけでなく、近隣の商店街組合の独身が集まり良い宣伝になるので、奈美は引き受けるつもりだったが、迷っているのは料金設定だった。
いい加減な客を排除しようとすると、ある程度高めに設定しなければならなかった。
「あんなに、張り切ってたのに……やらないの? 奈美ちゃん」
「ちょっと、考えてるんだから……黙っててアキラ! ……ね、ヒロさん、もし、もしもよ、今回、真理子さんと二日だけのラブラブで終わってたとしたら、アキラのまじないにお金を払ったとして、幾らなら悔しくない?」
「そうだなあ、続けて付き合えるんだったら、もう、いくら払ってもいいよ。ただ、二日間だけだったとしたら、二万円位までかな……なら、いい思いしたんだし諦めもつくかもしれないね」
アキラは腹立たしかった。どうして、自分の特異体質の力を使った商売なのに、ヒロに聞くんだよとヤキモチを焼いて背中を向けた。
そりゃ、ヒロは花屋を経営してるし、自分よりも商売については精通してるかもしれないけど、まじないをするのは僕なんだぞ!と口では言えず、水の入ったコップをガタンと置いてアピールした。
それに気づいたのは、わかばの魔女だけで、ハイハイとあやすように言いながらチョコレートソースのかかったバニラアイスをアキラの前だけに置き、ウインクをした。
「そうかあ、じゃあ、一万五千円にしよう。このくらいの料金設定ならクレーマーも出難いでしょう。モテる事は間違いないんだし、後は注意事項を書いた箇条書きの説明文を作って渡せばいいわね」
ヒロは頷いた。
「そうだね、注意書きは必要だね、三メートル以内とか、シャーワーで落としちゃ駄目とか、効きめが三十時間は大切な事だよ」
それ、僕が言いたかったのにと、バニラアイスを捏ねながら少しづつ口に運ぶのだった。
「……あ、アキラ! 何食べてるの? 母さん私にもちょうだい」
「ゴメンね、アイスそれで最後なんだよ……」
ちょっと、一口よこしなさいよ!と言う奈美にニッと微笑みながら、スプーン山盛にバニラアイスを全部すくってゆっくりした動作で口に入れた。
「アキラのケチ!!」
自分は毎日のように、おあずけくらっているんだからアイス位でカッカしなさんな。それにケチってどのお口が仰っているんでしょうか?守銭奴に言われたくないやと、
アキラはちっぽけな復讐に満足した。
ランチを食べ終わったヒロは、真理子にフラれないように頑張るからと言い残し、三人に感謝して花屋に戻って行った。
奈美とアキラは、休憩室の模様替えを始めた。四方の壁に紫色のビロードの布を張り巡らし、静江が使っていた小さな折り畳みテーブルにも布を貼り、その上にバリ島で売っていそうな目の飛び出た木彫りの人形を置いた。全て百均で揃えた四畳半の狭い部屋は、安っぽくはあるが怪しげな『まじない部屋』に変わった。
「これで、準備ができたわ! アメンボとミズカマキリに電話しなくっちゃね」
アキラは未だに特異体質を商売にするのは気が進まなかったが、モテない青年部の二人の事を思うと、やってあげなければ!と正義感のようなものが沸いてくるのだった。
奈美は早速電話をかけた。
その時モメたのはやはり料金で、一万五千円という金額にアメンボとミズカマキリは足踏みをした。
初めての客で、しかも、立証できている成果は今のところヒロしかいない。
二人が足踏みするのも至極当然のことなのだ。
奈美は根気強く説明をし、二人は納得したようだった。
待ち合わせの日時はヒロの予想通り来週日曜日の婚活パーティー当日。
夕方から始まるパーティーなので十五時に『わかば』のまじない部屋にて、初めての商売をすることになったのだった。




