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アキラ見つめられる

 アメンボ拓海とミズカマキリ淳の仕事をきっかけに、モテるまじないの噂は近隣の市町村の商店街へ広がっていった。


高田商店街青年部主催の婚活パーティーの日、アメンボとミズカマキリは徒歩で会場に行く間に磁石のように女の子達を引き寄せ、女子数人を同伴して仲良く現れたのだ。

急遽飛び入り参加したその女の子達を含め、婚活パーティーに参加した女子の殆どが二人の周りに集まったらしい。

ヒロは二人を助けようとスタンバイしていたがその必要はなかった。逆に他の男子達をフォローするはめになたのだった。


参加した男達の驚きは大変なものだった。

毎年、壁際で立ちんぼだった二人はそれまで彼らの敵ではなかった、なんなら助けてあげたい位に見下していたのだ。

男子の参加者は近隣の商店街の店舗の後継者が多く、婚活パーティー後、飲食店後継者達の口から客として来ている大学生にまで噂は広がっていった。


大学生と言えば横のつながりだ、大学から大学へ、コミュニティーネットワークなどでモテない男をモテさせてくれるまじないの噂は急速な広がりを見せていたのだった。


奈美とアキラはアメンボとミズカマキリの後、既に、五人のまじない客をモテさせていた。

今回がラストチャンスとばかりにアメンボとミズカマキリは頑張ったようで、モテ効果が無くなった後も婚活パーティーで出会った女性を一人ずつ捕まえ、今でも付き合いが続いているとの報告を先日ヒロから受けていた。


喫茶『わかば』はアレの注文が増え、静江は忙しい日々を送っている。

ハートのメモ用紙を回収し客を見極め、奈美が来た時に渡す。週二回の頻度で閉店後のカウンターでは静江と奈美の客選びが仕事になった。

アキラは早朝バイトなので四時半には起きなくてはならず、アパートで留守番の時も多い。

毎日仕事が入る訳ではないので、仕事が決まった時にだけ寝ぼけ眼のアキラを起こし、報告するのだった。



「奈美のお蔭でさ、アレを注文する客が増えたから、不良在庫が無くなって助かってるよ。最近は若い学生も来るようになったよ、贅沢言っちゃいけないけど私にはちょっと忙しすぎるね、バイトでも雇おうかね……」


「そうね、いいんじゃない、客が増えたんだし若い子でも雇えば? それより母さん、この客の中で誰を助けたいと思った?」


 奈美は静江の問いかけも上の空でカウンターにトランプのようにハートのメモを並べている。


「……そうだね……この子だね」


 静江が指さしたハートのカードには奥田聡と書いてあった。


「この子って言ったけど、若いの?」


「大学生っぽかったね。暗くってさ、ずっと下向いて黙ってアレを食べてんのさ、ああ、そん時のアレはパフェだったんだけどさ、別に仕込み過ぎとか余り物とかじゃなくって、なんか可哀そうな雰囲気漂わせてたから、フルーツいっぱいトッピングしちゃったよ」


「大学生か……やってみるか」


 電話を入れると暗い声で奥田聡は電話に出た。

まじないを受けるか聞くとオドオドと詰まりながら「お願いします」と言い、

モテたい理由を尋ねると、暫く間を置き、好きな彼女がいるんですけど振り向かせたいと、まるで台本を読んでいるような抑揚の無い喋り方だった。

そして日時を決め電話を切った。



アパートに帰ると、アキラは既に就寝したらしく、

玄関の電気だけが点いていた。

仕事が入った事を知らせようか?と寝室のドアを音を立てないように開けると、

横向きにこちらを向きぐっすり眠っている顔が目に入った。

あまりにも無邪気な寝顔に、今日は起こすのを止めておこうとリビングに戻ろうと背中を向けた奈美だったが、何か違和感を感じ、もう一度アキラの寝ている布団を見た。

アキラの向かい側にもうひとり人間がいるような膨らみがある。


「まさかね……」


 足元からそっと布団の側面だけをを捲り上げていくと、S型に曲がった長く大きなクッションにアキラはコアラのように手と足を絡ませていた。


「……抱き枕だったのね……」


 大木に必至にしがみついているコアラを見て、奈美は急に愛おしさが込みあがりアキラの髪に右手を絡ませる。予想外の自分の気持ちに驚きながら、そのままそっと撫でた。

うーん、と言って抱き枕を抱えたままアキラは反転した。

抱き枕があった元の場所にはグラビアアイドル雑誌が鎮座していた。


「まったく、もうっ!」


 乱雑にグラビアアイドル雑誌を拾い上げ、ゴミ箱に入れようとした時だった。


「奈美ちゃーん」


 アキラに呼ばれ振り返ったが、どうやら寝ぼけているらしい。

再び奈美ちゃんと言い抱き枕をぎゅっと抱き締め直し、またスヤスヤと眠りに着いた。


「しょうがないわね……」


 アイドル誌をアキラの敷き布団の下に差し込んでやると、そっと掛け布団をかけるのだった。



*************




 アキラはコンビニで中華まんの補充をしていた。湯気の向こう側に最近よく見かける女の子の姿があった。

アイドルを目指しているのかと思わせるような広がったミニスカートにニーハイソックス、ヘアースタイルはシュシュをあしらったツインテールで、目はぱっちりアゴが尖って顔が小さい。

色白の肌に薄いピンクのリップが映え、低い身長にアイドル系のファションが良く似合っていた。

その子がとにかく、可愛い顔で度々アキラを見てくるのだ。最初は勘違いだろうと思ったが、何度も目が合うので間違いない。


どうしよう……あの子に声をかけられたら、奈美ちゃんという人がいるのに僕はどうしたらいいんだ。

考えながらあんまんを補充していたら、ツルンと床に落としてしまった。


(あー、う、自腹でお金払って廃棄だー)

下を向いてあんまんを拾っていると、レジにドンっと客が商品を置いた。


「いらっしゃいま……あ、奈美ちゃん」


「肉まん、温まっているのあったら一個お願いね」


 いつの間に奈美が店内に入ってきたのか分からなかったアキラは慌てていた。

動転して土曜日で奈美の仕事が休みなのも忘れ、


「仕事は?」と聞いてしまった。


「休日ですっ! こらっ、可愛い子見てボーとしてないでちゃんと仕事しなさいよ」


 奈美は朝ごはんなのだろう、温かいコーヒーと肉まんを買って出ていった。

背中に向かって「ありがとうございます!」と投げやりに礼を言った。

アイドル系の可愛い子はチラっとアキラを一瞥して、何も買わずに奈美の後を追うように店から出ていった。


アキラの妄想が始まった。

あの子が奈美に、あの人と別れて下さい、私、彼を好きになっちゃたんですとか言ってたらどうしよう……奈美ちゃんの性格を考えれば反撃するだろうな、それもそれで嬉しいけど……。

と考えていたら、温めたグラタンをレンジから取り出す時に中央を掴んでしまい、あまりの熱さにひっくり返してしまった。

すいませんと客に謝りながら、すぐに新しい物と取替え、

今日の自腹買い取り商品は二個になった。


こんな事では小遣いが無くなると、奈美とあの子の事は一旦頭から消去した。









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