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アラサーOL、働きたくないので結婚します!  作者: 野花ことり


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第3話 理想の専業主婦生活


 都内のマンションで始まった新婚生活は、夢のようだった。


 生活費には困らず、家事は私が担当。直人さんも休日には料理をしてくれる。


「美咲、家のことは任せたよ」


「うん!」


「無理はしなくていいからね」


「ありがとう!」


 私は感動した。


 なんて優しい夫なのだろう。


 朝はゆっくり起きて、洗濯や買い物を済ませる。夕方には夕食を用意して、帰宅した直人さんを迎える。


 私には、ひとつ決めていることがあった。


 家事は、できるだけ午前中に終わらせる。


 午後は自由時間にしたいし、夕方になってから慌てて夕食の準備をするのも避けたい。


 そのために、家事はできるだけ手間をかけずに済ませることにした。


 買い物は数日分をまとめて済ませ、よく使う食材は定番を決めておく。掃除道具も使う場所ごとに置いて、必要なときにすぐ手に取れるようにした。


 夕食も、手間のかからない定番メニューをいくつか決めておく。これなら毎日献立に悩まなくて済む。


 最初に少し工夫しておけば、毎日の面倒が減る。


 おかげで、家事は午前中にほとんど終わるようになった。


 午後は好きなことをして過ごせる。直人さんの帰宅を待ちながら本を読んだり、録画したドラマを見たりするのが日課になった。


 直人さんが早く帰ってきた日は、一緒にお茶を飲むこともある。


「今日も家事は終わったの?」


「うん。午前中に済ませたよ」


「すごいね。いつもありがとう」


「私が楽をしたいだけだよ」


「それでも、助かっているよ」


 直人さんとこうしてお茶を飲む時間が、私のお気に入りだった。


 直人さんの好物も、少しずつ覚えていった。


 カレーにオムライス。それから、休日に一緒に作った煮込みハンバーグも気に入っていた。


 特別なことをしているつもりはない。


 ただ、好きなものをおいしそうに食べてくれる顔を見るのは、私も嬉しかった。


 ある日、直人さんがいつもより遅く帰ってきた。


「ただいま。ごめん、遅くなって」


「おかえり。お仕事お疲れさま」


 直人さんは少し疲れた顔をしていた。


「夕飯、すぐ用意するね」


 テーブルに並べたのは、直人さんの好きな煮込みハンバーグだった。


「僕の好きなやつだ」


「うん。この前、おいしいって言ってたから」


 直人さんは嬉しそうに笑った。


「覚えていてくれたんだ。ありがとう」


「どういたしまして。また作るね」


 直人さんは満足そうに頷いた。


 やっぱり、好きな人と一緒に暮らすのはいい。


 こういう時間を守るためなら、料理くらい頑張れる。


 休日には、二人で出かけることも多かった。


 直人さんは私の行きたい場所をよく覚えていて、気になるお店を見つけると、次のデートの候補にしてくれた。


 私も、直人さんが行きたがっていた店を調べておく。


 お互いに行きたい場所を出し合って、混雑する時間を避けて予定を組む。せっかくの休日を待ち時間で潰すのはもったいないからだ。


 おかげで、人気のお店でもほとんど並ばずに入れる。行列に並ぶ時間があれば、もう一軒お店を回れる。私はこの計画の立て方を、かなり気に入っていた。


「美咲は、こういう計画を立てるのが上手だね」


「そう? せっかく出かけるなら、効率よく楽しみたいだけだよ」


「おかげで、いつも楽しいよ」


 そう言われると、少し誇らしい気持ちになる。


 ある休日、私が夕食の支度をしていると、直人さんがキッチンをのぞき込んだ。


「何か手伝おうか?」


「大丈夫。もうすぐできるよ」


「じゃあ、テーブルを準備するね」


 そう言って食器を並べた直人さんは、私が少し疲れていることに気づいたらしい。


「今日は頑張りすぎなくていいよ。明日は外で食べようか」


「いいの?」


「もちろん。美咲と一緒に食べられれば、何でもおいしいから」


 直人さんは、私と結婚できてよかったと何度も言ってくれる。


 結婚してよかった。婚活を頑張って、本当によかった。


 この人となら、穏やかで幸せな専業主婦生活を送れる。


 そんなある日の夕食後、直人さんが少し真面目な顔で話し始めた。


「実は、起業の準備を少しずつ進めようと思っているんだ」


「あ、前に言っていた夢?」


「うん。まだ具体的に決まったわけじゃないけど、アイデアをまとめたり、必要な資金を調べたりしているところ。仕事の後にも、少しずつ進めているんだ」


「大変そうだね」


「でも、考えている時間が楽しくてね」


「そうなんだ。頑張ってね」


「ありがとう。仕事を続けながらだから、時間はかかると思うけどね」


 直人さんは楽しそうだった。


 私は、彼の夢を応援したいと思っている。


 ただ、起業がどれほど大変なのかは、相変わらずよく分かっていない。


「何か手伝えることがあったら言ってね」


「うん。そのときはお願いするよ」


 私は軽く答えた。


 まさか、その言葉を本当に頼りにされる日が来るとは思っていなかった。


 今の私にとって大切なのは、直人さんが安心して仕事に取り組めること。そして、二人で過ごす穏やかな時間を守ることだった。


 家事は午前中に終わらせる。


 午後は自由に過ごす。


 直人さんが帰ってきたら、一緒に夕食を食べる。


 毎日がこの繰り返しでも、少しも飽きない。


 専業主婦って、なんて素晴らしいのだろう。


 私は、この幸せな生活がずっと続くものだと思っていた。


 もちろん、仕事とは無縁のままで。


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