第二十一章 それぞれの夜
少し課題を終え、資料室を出ると、廊下はひっそりと静まり返っていた。
窓の外から聞こえる音楽だけが、まだ舞踏会が終わっていないことを教えてくれる。
レオニードはゆっくりと廊下を歩いた。
右手を見つめる。
「……。」
小さく息を吐く。
資料室へ向かったのは、ただ少し休みたかっただけだ。
それなのに。
レオニードは軽く首を振る。
これ以上考えても仕方がない。
会場へ戻れば、また第一王子だ。
扉の前で一度だけ深呼吸をする。
背筋を伸ばす。
それから扉を開いた。
「殿下、お戻りになられました。」
ヴィンセントがすぐに歩み寄る。
「少し休めましたか。」
レオニードはいつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「はい。おかげで頭がすっきりしました。」
その笑顔は、誰もが知る第一王子のものだった。
◇◇◇
一方その頃。
エレノアは王都の屋敷へ帰ってきていた。
玄関ホールはひっそりとしていた。
誰もいない。
そう思った瞬間だった。
エレノアはふっと息を吐く。
胸の奥に残る高鳴りを落ち着かせるように、ドレスの裾を軽く持ち上げた。
一歩。
二歩。
くるり。
小さく身体を回す。
淡いオレンジ色のドレスが、花びらのようにふわりと広がった。
自然と笑みが零れる。
「……やっぱり。」
小さく呟く。
「踊るのって、楽しい。」
その声には、幼い頃以来忘れていたような、素直な喜びが滲んでいた。
「エレ。」
突然後ろから声がした。
「きゃっ!」
慌てて振り返る。
そこには壁へ寄りかかったルーカスが立っていた。
腕を組みながら、呆れたように笑っている。
「そんな所で回ってないで。」
歩み寄りながら言う。
「ドレスを汚す前に、早く着替えてこい。」
エレノアは少しだけ頬を赤くした。
「……見てましたか?」
「帰ってきた音がしたからな。」
それだけ答える。
余計なことは何も言わない。
エレノアは小さく笑った。
「……はい。」
短く返事をすると、スカートの裾を軽く持ち上げながら階段を上っていく。
その足取りは、いつもよりほんの少しだけ軽かった。
読んでいただきありがとうございます。本日も19時前には二十二章を掲載する予定です。




