↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/22

第十四章 帰り道


「それでは、失礼いたします。」

 

エレノアは小さく頭を下げ、資料室を後にした。

扉を閉めると、古い廊下はすぐに静まり返る。窓の外はすでに夜で、昼間の熱気はすっかり消えていた。木の床を踏むたび、かすかな軋みが足元に響く。

階段を下り、北棟を抜け、人通りのない渡り廊下を進む。

その途中で、エレノアはふと足を止めた。

 

「……楽しかった。」

 

誰に聞かせるでもない、小さな呟きだった。

資料室。図書館では見たことのない専門書。静かな空間。誰にも邪魔されず、本に向き合えた時間。

胸の奥に、じんわりと温かいものが残っている。

少し遅くなってしまったというのに、足取りは驚くほど軽かった。

学園の門を抜けると、街灯の下に見慣れた姿があった。

 

「……ルーカス様。」

 

ルーカスは腕を組んだまま、エレノアを見やる。

 

「今、何時だと思ってる。」

 

呆れたような声だった。

 

「……申し訳ありません。」

 

素直に頭を下げると、ルーカスは小さく息を吐いた。

だが、その表情はどこか柔らかい。

 

「まったく。」

 

そう言って、エレノアの肩に掛かっていた鞄を軽く持ち上げる。

 

「ほら、帰るぞ。」

 

「……ありがとうございます。」

 

二人は並んで歩き出した。

夜風が木々を揺らし、街灯の明かりが石畳に淡い影を落とす。ルーカスは何も聞かず、エレノアも何も話さなかった。

けれど、その沈黙は不思議と心地よかった。

 

◇◇◇

 

その頃。

レオニードは生徒会室を出て、ヴィンセントと共に王城へ戻る馬車へ向かっていた。

 

「本日は、ずいぶんご機嫌のようですね。」

 

ヴィンセントが穏やかに言う。

レオニードは小さく頷いた。

 

「ああ。」

 

自然と口元が緩む。

思っていた以上に、充実した時間だった。資料も読み進められた。

馬車に乗り込み、扉が閉まる。車輪が静かに動き出すと、窓の外には夜の王都がゆるやかに流れていった。

自然と、資料室で本を読む栗色の髪が思い浮かぶ。

 

『……怒られる、かもしれません。』

 

「……。」

 

思わず窓の外へ目を向ける。

街灯の下、小さな人影が二つ並んで歩いていた。栗色の髪の少女と、その隣を歩く年上らしい青年。

迎えに来てもらっていたのか、とレオニードは思った。

小さく安堵する。

これなら、一人で夜道を歩く心配はない。

怒られないといい。

そんなことを考えている自分に気づき、レオニードはわずかに口元を緩めた。

その笑みを見たヴィンセントは不思議そうに首を傾げたが、何も尋ねなかった。

馬車は静かに夜の王都を進んでいく。

今日という一日は、確かに少しだけ特別だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。