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第8話 香剣を習得せよ!

森を抜け、街道を歩き始めて三日。

ハル、クロ、キャサリン、そしてミルフィーユは、旅を続けていた。

「師匠」

「何?」

「香りが消えている原因を探すって、どこから始めるんですか?」

ハルが尋ねると、キャサリンは得意げに笑った。

「それなら、伝手があるわ」

「伝手?」

「三つ先の町に、昔からの仲間がいるの」

キャサリンによれば、その仲間は香りの異変について独自に調べているらしい。

「そこで情報を交換する約束をしているのよ」

「それなら安心ですね」

ハルがほっとした瞬間――

「ただし!」

キャサリンが指を立てた。

「問題があるわ」

「問題?」

「あなたたち、弱すぎるのよ」

「…………」

ハルとミルフィーユが顔を見合わせる。

クロだけが、

「グル……」

と、なぜか納得していた。

「クロまで!」

キャサリンは腰に手を当てる。

「この先、強い魔物が出る地域を通るわ。今のままじゃ、仲間に会う前に全滅しかねない」

「じゃあ、どうするんですか?」

キャサリンがニヤリと笑った。

「今日から――」

腰に下げた奇妙な剣を抜く。

「香剣を習得するのよ!」

「香剣?」

「香りを感じ、香りを読み、香りを力に変える剣術よ」

ミルフィーユの目が輝いた。

「発明に使えそう!」

「そこじゃないわ!」

「はい!」

キャサリンは二人の前に立った。

「まずは、この香りを感じなさい」

「香り?」

キャサリンが腕を上げる。

その瞬間――

「…………」

ハルの鼻に、とてつもない香りが届いた。

「うっ……!」

ミルフィーユも顔をしかめる。

「な、何これ……!」

キャサリンは平然としている。

「これも修行よ」

「師匠……!」

「何?」

「強烈すぎます!」

「香剣の第一歩は、どんな香りからも逃げないこと!」

ハルは必死に耐える。

ミルフィーユも鼻を押さえながら叫んだ。

「僕の鼻が……僕の鼻が負ける!」

「負けるな!」

「師匠が原因なのに!」

キャサリンは大笑い。

少し離れたところでは、クロが座っていた。

二人を眺めながら――

「…………」

ものすごく遠い目をしている。

まるで、

『僕は知らない』

と言っているようだった。

「クロ! 助けて!」

「グル……」

クロは立ち上がると、静かに別の方向へ歩いていった。

「逃げた!」

「クロぉぉぉ!」

それでも修行は続いた。

「香りを感じなさい!」

「はい!」

「香りの種類を見分ける!」

「はい!」

「香りの流れを読む!」

「……はい!」

「最後は――」

キャサリンが剣を構える。

「香りを斬る!」

ハルも剣を構えた。

「こうですか!」

「まだ甘い!」

シュッ!

ハルの剣が空気を切る。

「違う!」

もう一度。

シュッ!

「違う!」

さらに一度。

シュッ!

「今!」

「え?」

「その瞬間の香りを覚えなさい!」

ハルは目を閉じた。

風。

草。

土。

木。

そして――

遠くにいる動物。

「……分かる」

ハルの目が開く。

「匂いで……位置が分かる」

キャサリンが微笑んだ。

「それが香剣の第一歩よ」

ミルフィーユも剣を構える。

「僕もやる!」

「あなたはまず転ばない練習からね」

「ひどい!」

ミルフィーユは一歩踏み出した。

ズルッ。

「うわっ!」

ドサッ!

「…………」

ハルが振り返る。

クロも振り返る。

キャサリンだけが笑っている。

「……先が思いやられるわね」

だが、その日の夕方。

ハルは初めて――

風に混じった魔物の気配を、目で見るより先に嗅ぎ取った。

「師匠」

「何?」

「三百メートルくらい先に、何かいます」

キャサリンの目が細くなる。

「……合格」

ハルは笑った。

ミルフィーユも嬉しそうに拳を握る。

「僕たち、少し強くなった!」

クロが、

「グルッ」

と鳴いた。

そして四人は、三つ先の町を目指して歩き出す。

そこには、キャサリンの仲間が待っている。

香りの異変を知る者。

世界から消えつつある香りの原因に近づくための――

最初の手がかりが、そこで待っていた。

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