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第5話 ポンコツ発明家と香りの天才

翌朝。

ハルたちは森を抜けるため、再び歩き始めた。

クロが先頭を歩き、ハルがその後ろ。

そして最後尾では――

「待ちなさーい! アタシを置いていくんじゃないわよ!」

キャサリンが走ってくる。

「師匠、遅いですよ」

「違うわ。エプロンのレースが木に引っかかったのよ!」

「……そうですか」

そんな会話をしながら歩いていると――

「うわぁぁぁぁ!」

突然、森の奥から叫び声が聞こえた。

「何だ?」

ハルたちが振り返る。

ドドドドドッ!

ものすごい勢いで、一人の男が走ってきた。

「助けてくれぇぇぇ!」

髪はぼさぼさ。

服には工具がいっぱい。

背中には大きなリュック。

そして――

靴が左右逆だった。

「うわっ!」

男は木の根につまずいた。

「危ない!」

ハルが駆け寄ろうとした、その瞬間。

男がキャサリンを見た。

「…………」

ピタッ。

男の顔が青ざめる。

「キャ……」

「?」

「キャサリンンンンンッ!?」

男はくるりと方向転換した。

「逃げろぉぉぉぉ!」

「ちょっと待ちなさい!」

キャサリンが追いかける。

「なんでアタシを見て逃げるのよ!」

「来るなぁぁぁ!」

「待ちなさい!」

「イヤだぁぁぁ!」

森の中を二人が走り回る。

ハルは呆然と見ていた。

「……師匠、知り合い?」

「ええ。知り合いよ」

「すごく嫌われてません?」

「気のせいよ」

「そうかな……」

ようやく男を捕まえると、キャサリンが腕を組んだ。

「紹介するわ」

男はガタガタ震えながらハルを見る。

「こ、この人が……例の?」

「そうよ」

「鼻の勇者……」

男の目が輝いた。

だが、次の瞬間にはまたキャサリンを見て震え始めた。

「キャサリン……怖い……」

「誰が怖いのよ!」

「顔が……」

「言うんじゃないわよ!」

ハルは慌てて話題を変えた。

「えっと……名前は?」

男は胸を張った。

「ぼ、僕は――」

「待って!」

男は突然リュックを開けた。

「これを見てくれ!」

取り出したのは、小さな金属製の機械だった。

「これは香りを集める装置だ!」

ハルが目を丸くする。

「香りを……集める?」

「そう!」

男は興奮して説明を始めた。

「空気中に残っている微かな香りを、この装置に集めて保存するんだ!」

キャサリンの表情が変わった。

「……本当に?」

「もちろん!」

「なら、どうして今まで聞いたことがないの?」

「え?」

男は首を傾げる。

「誰にも話してないから」

「なんで?」

「忘れてた」

「…………」

全員が黙った。

「じゃあ、この発明はどうやって作ったの?」

「それも忘れた」

「…………」

ハルは思った。

この人、大丈夫なのだろうか。

男は突然、足元を見る。

「……あれ?」

「どうしたの?」

「靴、なんか変だ」

ハルが指差す。

「左右逆ですよ」

「えっ!?」

男は驚いた。

「本当だ!」

そして急いで履き替えようとして――

「……どっちが右だ?」

ハルは頭を抱えた。

キャサリンがため息をつく。

「この男、こういうところは本当にポンコツなのよ」

「ポンコツって言わないでよ!」

「じゃあ天才?」

「それは……」

男は少し考えた。

「たぶん、そっち」

キャサリンが呆れた顔をする。

だがハルは、男の持っている装置を見つめていた。

「でも……すごい」

「え?」

「香りを保存できるなら、失われていく香りを調べられる」

男の顔が真剣になる。

「……そうなんだ」

「それに、どんな香りが消えているのか分かれば、原因も探せるかもしれない」

男はしばらく黙っていた。

そして――

「君、面白いことを言うね」

男の目が輝いた。

「僕は発明家だ」

「うん」

「たぶん僕は、すごく失敗する」

「……うん」

「でも――」

男は装置を握った。

「香りを取り戻す発明なら、作れるかもしれない」

キャサリンが笑った。

「そういうところだけは、本当に天才なのよね」

ハルは男に手を差し出した。

「一緒に来ない?」

男は驚いた。

「僕も?」

「うん。俺たちは香りを取り戻したい」

男は少し考え――

「分かった!」

勢いよく握手をした。

そして、次の瞬間。

「いてっ!」

男が転んだ。

「何してるの?」

「靴が……」

見ると、また左右が逆だった。

クロが「グル……」と呆れたように鳴く。

ハルは苦笑した。

こうして仲間になったのは――

時々、天才級の発明を生み出すポンコツ発明家。

そして彼こそが、後に――

「香り発明家」

と呼ばれる人物だった。

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