第3話 森の奥の師匠
クロと一緒に森の奥へ進んでいく。
「クロ、さっき感じた嫌な匂いはこの先だよな?」
「グルッ」
クロが頷くように首を動かした。
しかし――
しばらく進むと、ハルの鼻に別の匂いが届いた。
香水。
それも、かなり強烈な香りだった。
「……なんだ、この匂い?」
クロも鼻をひくつかせる。
すると森の奥から――
「ちょっとぉ~! 遅いじゃないの!」
突然、声が響いた。
「誰!?」
ハルが振り返る。
木々の間から、一人の人物が歩いてきた。
フリフリのレースがついたエプロン。
胸元には大きなハート。
そこには――
『LOVE & SMELL』
と刺繍されている。
さらに、髪は見事な縦ロール。
顔立ちはかなりゴツい。
そしてエプロン姿とは思えないほど、鍛え上げられた立派な体格。
ハルは思わず固まった。
「…………」
クロも固まった。
人物は腰に手を当てる。
「まあ! ずいぶん失礼な顔をするじゃない!」
「す、すみません……」
「アタシはキャサリンよ」
「キャサリン……?」
「そう。キャサリン」
キャサリンはにっこり笑った。
「本名は……まだ秘密よ」
「なんで?」
「秘密だからよ」
即答だった。
ハルは困惑する。
「じゃあ、なんで俺のことを知ってるんですか?」
キャサリンの表情が変わった。
「……やっぱり気づいた?」
「何に?」
「あなたが、この世界に降りてきたことよ」
ハルの顔がこわばる。
「俺が……?」
「そう」
キャサリンは森の奥を指差した。
「あなたがここに転移してきた瞬間から、ずっと見張っていたの」
「ずっと?」
「ええ」
キャサリンは胸を張った。
「なぜなら――」
一拍置いて、
「鼻の勇者が降臨したからよ!」
「…………え?」
ハルは目を丸くする。
「俺が勇者?」
「そう。あなたはまだ知らないでしょうけどね」
キャサリンはハルの顔をじっと見る。
そして、ふっと笑った。
「あなたの鼻は、この世界ではとんでもない力になるわ」
「鼻が……?」
「ええ」
キャサリンは自分のエプロンを指差した。
「だから、このアタシが鍛えてあげる」
ハルはクロを見る。
クロもハルを見る。
「……どうする?」
「グルッ」
クロは尻尾を振った。
どうやら賛成らしい。
キャサリンは満足そうに笑う。
「決まりね!」
「よろしくお願いします、キャサリンさん」
「先生と呼びなさい!」
「先生?」
「そう。今日からアタシがあなたの師匠よ!」
こうして――
鼻の勇者ハルは、森の奥に住む謎の人物・キャサリンの弟子となった。
だがハルはまだ知らない。
この一見変わった師匠が――
かつて世界中の冒険者から恐れられた、伝説級の達人だということを。




