第12話 名前がないなら僕が決める! ポンコツ発明家、暴走する
「そういえば……」
旅の途中。
ハルが少女を見る。
「まだ名前を聞いてなかったね」
少女はピタッと止まった。
「…………」
「名前、教えてくれる?」
「…………」
少女の目が泳ぐ。
右。
左。
上。
下。
そしてハル。
「……あ……」
「うん?」
「……な……」
「な?」
少女の顔が真っ赤になる。
「……なま……」
「名前?」
「…………」
「?」
少女は完全に固まった。
ミルフィーユが腕を組む。
「なるほど!」
「何が?」
「この子、名前を言えないんだね!」
「いや、まだ言おうとしてる途中――」
「だったら!」
ミルフィーユがビシッと指を立てた。
「僕が決めてあげよう!」
「え?」
キャサリンが嫌な予感のする顔をする。
「ミルフィーユ……」
「任せて!」
「いや、本人に聞いてから――」
「まず一つ目!」
ミルフィーユが少女を見る。
「フローラ!」
少女は首を横に振る。
「違います……」
「じゃあ二つ目!」
「ミルク!」
「なぜ!?」
「白い服を着てるから!」
「理由が雑!」
「三つ目!」
ミルフィーユの勢いは止まらない。
「シュガー!」
「お菓子じゃないんだから!」
「じゃあ……」
ミルフィーユは真剣に考える。
「プリンセス・スーパーデラックス・香りちゃん!」
「長い!」
ハルが即座に突っ込む。
クロまで、
「グル……」
と呆れたように鳴いた。
「クロも反対なの!?」
ミルフィーユは悔しそうにする。
「じゃあクロが決めてよ!」
「グル?」
クロが困った顔をする。
「ほら、考えて!」
「グルル……」
クロは少女を見る。
少女を見る。
ハルを見る。
そして――
「グルッ」
「クロ?」
クロは少女のペンダントを鼻で指した。
「……香りから名前を決めろってこと?」
「グル」
ミルフィーユが目を輝かせる。
「なるほど!」
「いや、クロの考えを勝手に通訳しないで」
ミルフィーユは地面に座り込み、紙を取り出した。
「香り……花……春……」
カリカリカリ。
「ハナ!」
「普通!」
「サクラ!」
「季節が限定される!」
「ローズ!」
「急に外国!」
「スメル!」
「それはダメ!」
「じゃあ――」
ミルフィーユが勢いよく立ち上がる。
「リリア!」
「…………」
全員が止まった。
少女が目を丸くする。
「……リリア?」
「うん!」
ミルフィーユは満面の笑み。
「なんとなく!」
「なんとなく!?」
ハルが笑う。
「でも、いい名前じゃない?」
少女は胸元のペンダントを握った。
「……リリア」
小さく呟く。
「どう?」
ミルフィーユが聞く。
少女はしばらく黙っていた。
そして――
「……好きです」
「やった!」
ミルフィーユが飛び上がる。
「今日から君はリリアだ!」
「はい……」
ところが。
ハルが笑顔で言った。
「じゃあ、リリア。よろしく」
「…………!」
リリアの顔が一気に赤くなる。
「よ……よろしく……」
「握手する?」
「…………」
リリアの目が泳ぐ。
「……」
「リリア?」
「…………」
「大丈夫?」
「……いい匂い……」
「え?」
「……」
ぐるん。
白目。
「うわぁぁぁ!」
リリアがその場に倒れた。
「また!?」
ハルが慌てて支える。
ミルフィーユは腕を組んで満足そうに頷いた。
「うん。リリアで決まりだね!」
「何が!?」
キャサリンが笑いながら近づく。
「ミルフィーユ、あなた……」
「はい?」
「意外と名前をつける才能があるじゃない」
「でしょ!」
「発明より向いてるかも」
「それは褒めてる!?」
クロは倒れたリリアを見て、ハルを見る。
そして――
「グル……」
ハルには分かった。
『また面倒な仲間が増えた』
と言っている。
しかし、その直後。
リリアの胸元のペンダントが淡く光った。
ハルの鼻が反応する。
「……この香り」
キャサリンの表情が変わる。
「何?」
「昔の花みたいな香りがする」
キャサリンはペンダントを見る。
「……ミルフィーユ」
「はい?」
「あなたがつけた名前――」
キャサリンは小さく笑った。
「案外、この子の運命に合っているのかもしれないわね」
「どういう意味?」
「それは、まだ秘密」
そして――
気を失っていたリリアが、突然つぶやいた。
「……リリア……」
「起きた!?」
「……いい名前……」
再び目を閉じる。
「寝た!?」
ミルフィーユが叫ぶ。
「もう起きないの!?」
クロは静かに空を見上げた。
旅はまだ始まったばかり。
だが、ポンコツ発明家が何気なくつけた名前――
リリア。
その名が、後に世界の香りを巡る大きな秘密へとつながっていくことを、誰もまだ知らなかった。




