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第11話 狙われた少女、知られてしまった勇者

「その子を渡してもらおう」

食事処に響いた男の声。

ハルは少女の前に立った。

「どうしてこの子を狙う?」

男は答えない。

ただ、少女の胸元をじっと見ている。

ハルは目を細めた。

「……何かを狙ってる」

「そうね」

キャサリンも気づいていた。

少女が首から下げている、小さなペンダント。

古びた銀色の飾りだった。

「それを渡せ」

男が言う。

少女はペンダントを握りしめた。

「嫌です」

「それはお前が持っていていいものではない」

「これは……お母さんからもらったものです」

少女の声が震える。

ハルはペンダントを見る。

その瞬間――

鼻に、奇妙な香りが届いた。

「……花?」

ペンダントから、ごく微かな香りがする。

「何の香り?」

キャサリンが尋ねる。

「分からない。でも……」

ハルは目を閉じた。

「すごく古い香りだ」

キャサリンの顔が険しくなる。

「やっぱり……」

「師匠、知ってるんですか?」

「そのペンダントは、ただの装飾品じゃないわ」

少女が驚く。

「え……?」

キャサリンは敵を見る。

「あなたたちは、この子そのものを狙っているんじゃない」

「…………」

「そのペンダントね」

男が沈黙する。

それが答えだった。

「どうしてそんなものを……」

ハルが呟く。

すると男の一人が、ハルを見た。

「……まさか」

「?」

男の顔色が変わる。

「その匂い……」

ハルの鼻を見つめる。

「お前……異世界から来た勇者か?」

店内が静まり返った。

ハルの表情が固まる。

キャサリンが前に出る。

「……気づかれたわね」

「師匠?」

「もう隠せない」

男たちがざわめく。

「鼻の勇者だ!」

「本当に降臨していたのか!」

「やはりキャサリンが一緒にいる!」

ハルは驚いた。

「俺が……狙われる?」

キャサリンが頷く。

「そういうことよ」

「なんで俺が?」

「あなたの鼻は、失われた香りを見つけられる」

キャサリンは低い声で続ける。

「敵にとって、それは都合が悪いのよ」

「じゃあ……この子も?」

「ええ」

少女はペンダントを握る。

「私の秘密って……何なんですか?」

キャサリンは答えようとした。

そのとき――

「待って!」

ミルフィーユが叫んだ。

全員が振り向く。

「僕の発明で何とかする!」

「ミルフィーユ、何を持ってるの?」

「分からない!」

「分からないの!?」

ミルフィーユは装置を構える。

「でも、たぶん役に立つ!」

「たぶんじゃ困る!」

スイッチを押す。

ブォン!

装置が震え始める。

「おお……!」

敵も警戒する。

そして――

プシューッ!

大量の煙が噴き出した。

「うわっ!」

「何これ!」

店内が煙でいっぱいになる。

「ミルフィーユ!」

「成功だ!」

「何が!?」

「分からない!」

「またか!」

煙の向こうから、敵の声が聞こえる。

「くそっ、視界が……!」

「今よ!」

キャサリンが叫ぶ。

クロが駆け出した。

ハルも少女の手を取る。

「逃げよう!」

「はい!」

四人は店の裏口から飛び出した。

しばらく走って――

森の中で立ち止まる。

「はぁ……はぁ……」

ハルは振り返った。

「みんな大丈夫?」

少女は頷く。

ミルフィーユも無事だった。

ただし――

自分の発明品を見つめている。

「……これ、何だったんだろう」

「作った本人が分からないの!?」

クロが、

「グル……」

と呆れたように鳴いた。

しかし、キャサリンだけは笑っていなかった。

「ハル」

「はい」

「これから先、あなたは今まで以上に狙われる」

「……分かりました」

「そして、この子も」

少女がペンダントを握る。

「私……何者なんですか?」

キャサリンは答えなかった。

ただ、ペンダントを見つめる。

「その秘密は、三つ先の町にいる私の仲間なら知っているかもしれない」

ハルは頷いた。

「じゃあ、そこへ行きましょう」

少女が小さく顔を上げる。

「私も……一緒に行っていいですか?」

「もちろん」

ハルは笑った。

「もう仲間だから」

少女は少しだけ笑った。

その瞬間――

ペンダントから、淡い光が漏れた。

そしてハルの鼻に、かすかな香りが届く。

それは――

遠い昔に消えたはずの、世界で最も大切な香りだった。

キャサリンはその香りに気づき、静かに呟いた。

「……まさか」

少女の秘密。

失われた香り。

そして、異世界から降臨した鼻の勇者。

三つの謎が、一本の糸につながり始めていた。

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