第10話 落ちこぼれ魔法使いと狙われた少女
「……それで、ずっと僕たちについてきたの?」
町の食事処。
ハルたちは大きなテーブルを囲んでいた。
向かいには、昨日出会った少女が座っている。
少女は料理を前にしても、まだ緊張した様子だった。
「……はい」
小さな声。
「私は……魔法学校に通っています」
「魔法学校!」
ミルフィーユが身を乗り出す。
「魔法使いなんだ!」
「……一応」
少女はうつむいた。
「一応?」
「落第級です……」
「落第級?」
「魔法の成績が、ものすごく悪くて……」
少女はスープを見つめた。
「魔法を使っても、火が小さかったり、水が変な方向に飛んだり……」
「僕と同じじゃないか!」
ミルフィーユが嬉しそうに叫ぶ。
「僕も失敗ばかりだよ!」
「一緒にしないでください……」
「なんで!?」
ハルは笑った。
「じゃあ、どうして俺についてきたの?」
少女はしばらく黙っていた。
そして、小さな声で答えた。
「……匂いがしたんです」
「やっぱり?」
「はい」
少女はハルを見る。
「最近、町でも森でも……何も匂いがしなくなってきて」
「……」
「花を見ても香りがしない」
「食事をしても、昔ほど匂いを感じない」
「だから、ずっと寂しかったんです」
少女は胸元に手を置いた。
「そんなとき……あなたが町の近くを歩いているのを見ました」
「僕から匂いがした?」
「はい」
少女の顔が少し明るくなる。
「とても……いい香りでした」
ハルは自分の服を見る。
「俺、特に何もつけてないけど……」
「分かっています」
少女は首を振る。
「香水みたいな匂いじゃないんです」
「じゃあ、何の匂い?」
「……分かりません」
少女は困ったように笑った。
「でも、昔の森みたいな……温かい匂い」
キャサリンが黙って少女を見る。
「あなたの名前は?」
「あ……」
少女は慌てて頭を下げた。
「まだ名乗ってませんでした」
「そういえばそうね」
「私は――」
少女が名前を言おうとした、その瞬間。
ドンッ!
店の扉が大きな音を立てて開いた。
「!」
店内の客が一斉に振り返る。
黒い外套を着た数人の男が入ってきた。
「……魔力の反応を探せ」
男の一人が呟く。
ハルの鼻に、嫌な匂いが届いた。
「……敵だ」
キャサリンが立ち上がる。
「全員、動かないで」
少女の顔が青ざめる。
「……私を探してる」
「どうして?」
ハルが聞く。
少女は震える手を握りしめた。
「分かりません……」
男の一人が店内を見回す。
「いた」
その視線が――
少女に向いた。
「その娘を捕らえろ」
「!」
ハルが少女の前に立つ。
クロも低く唸った。
「グルルル……!」
ミルフィーユが慌ててリュックを開ける。
「えっと……武器、武器……!」
「ミルフィーユ、落ち着いて!」
「これだ!」
取り出したのは――
よく分からない筒だった。
「それ何?」
「知らない!」
「知らないものを出すな!」
キャサリンが前に出る。
「ハル」
「はい」
「この子を守りなさい」
「分かりました!」
少女は驚いてハルを見る。
「どうして……私なんかを?」
ハルは答えた。
「俺たちは仲間だから」
少女の目が大きく開く。
「……仲間?」
その瞬間。
少女の身体から――
ほんの一瞬だけ、淡い光が漏れた。
キャサリンが目を見開く。
「……今の魔力」
「え?」
キャサリンは少女を見つめた。
「あなた、本当に落ちこぼれなの?」
少女は戸惑った。
「……はい」
しかしキャサリンは首を振った。
「違う」
「え?」
「あなたは――」
キャサリンが敵を睨む。
「力を使えていないだけよ。」
少女の中に眠る何か。
そして、なぜ敵が彼女を狙っているのか。
その答えは――
この町のどこかに隠されていた。




