第2話
「ひぇぇぇ! 助けてルシア! 1号機が円を描きながら壁に向かって進んでいく!」
「助けてじゃないでしょ! あんたが作ったんでしょ!? なんとかしなさいよ!」
ルシアは近くにあった大きな岩の陰に身を隠し、悲鳴を上げた。
床を円状に削り取った1号機は、そのまま壁の岩肌に先端を突っこみ、『じじじじじ……!』と凄まじい熱音を立てながら壁を溶かし始めていた。
このままではダンジョンの天井が崩落しかねない。
ローランは腹を括った。
「くっ……! 背に腹は代えられん! 【冷却水流】!」
ローランが懐から取り出した水生成の魔導具を起動し、勢いよく水を1号機のグリップへ向けてぶちまけた。
ジュワァァァァッ……!
凄まじい水蒸気が部屋中に立ち込め、一瞬で視界が白く染まる。
激しい蒸気とともに、ようやく1号機の光の刃が消え去り、静寂が戻ってきた。
「ハァ……ハァ……。危なかった……。ダンジョンの中で蒸気爆破を起こすところだったぞ……」
ローランは全身水浸しになりながら、真っ黒焦げになった1号機のグリップを拾い上げた。
ルシアは岩陰からおそるおそる顔を出し、濡れそそけになったローランをジト目で見つめた。
「……ねえ、ローラン?」
「ん? なんだルシア」
「やっぱり街に帰って普通の中古の剣を買いましょう? 私、命が幾つあっても足りないわ」
「バカをお言っちゃいけない!」
ローランは胸を張り、濡れた髪をかき上げた。
「科学……いや、魔導工学の歴史は失敗の積み重ねなんだよ! 1号機の失敗によって、明確な課題が三つ浮き彫りになった!」
ローランは指を立てながら熱弁を振るう。
「第一に、プラズマの熱を遮断するための冷却機能の不足!
第二に、手から離れた時に自動で消灯する安全装置の欠如!
そして第三に……起動時の効果音が暗黒の呼吸音で可愛げがなかったことだ!」
「三つ目はどうでもいいでしょ!? 命に関わるのは最初の二つよ!」
ルシアのツッコミを涼しい顔で受け流し、ローランはすでに次の設計図を頭の中で組み立てていた。
「フフフ……案ずるなルシア。失敗は成功の母だ。1号機のデータを元に、すでに改良案は完成している!」
ローランはバックパックの底から、予備の氷結晶ロッドと最新のタッチセンサー魔法陣を取り出した。
「冷却には氷結魔導結晶を組み込み、二重の空冷ファンを設置!
さらにグリップには体温検知センサーを配置し、手が離れた瞬間に魔力供給がストップする安全設計だ!
そして、前世のSF感をより演出するための『音声アナウンス機能』も追加してやるぜ!」
「だから余計な機能を追加するんじゃないわよ! シンプルに斬れて安全な物を作りなさい!」
ルシアの制止を聞く耳持たず、ローランの手は再び神がかった速度で動き始めた。
魔法のペンチが走り、魔導ペンから青い光の粒子が飛び散る。
作業すること約二十分。
「完成したぞ……! 試作2号機【ラ◯トセーバー・マークII】だ!」
ローランが掲げたのは、1号機よりも一回りスリムになり、青と銀の美しいメタリック塗装が施された洗練されたグリップだった。
「おお……! 今度はなんだか見た目もシュッとしてて格好いいじゃない……!」
思わず感心した声をあげるルシアに、ローランはドヤ顔でグリップを差し出した。
「ふふん、そうだろう? さあルシア、お前が持ってみろ。安全装置が付いているから、お前が握らない限り起動しないはずだ」
「本当? 変な爆発とかしない?」
「保証する! 俺の天才的な技術力を信じろ!」
ルシアは半信半疑のまま、おそるおそる二号機のグリップを手にした。
その瞬間——。
『ピロリ〜ン♪ 起動しました! 本日のラッキーカラーはブルーです!』
握り拳のグリップから、無駄に爽やかで透き通ったお姉さんの音声が響き渡った。
「……は?」
ルシアが呆然とした次の瞬間。
『ブ〜〜〜〜ン……!』
グリップの先端から、澄み切ったコバルトブルーの美しい光の刃がサクッと伸びた。
1号機のような荒々しい爆音や熱気の逆流はない。
手に伝わってくるのは、心地よい微小なエネルギーの振動と、二重空冷ファンが静かに回る涼しい風だけだった。
「……出たわ。今度はちゃんと綺麗な剣の形になってる……!」
ルシアは目の前で青く輝く光の刀身を見つめ、思わず息を呑んだ。
「どうだルシア! 見事に熱問題をクリアしただろう! 音声機能もバッチリだ!」
「声はめちゃくちゃ鬱陶しいけど……機能としては完璧じゃない……!」
ルシアは軽く青い光の剣を振ってみた。
ブウォン! ヴォン!
空気を切り裂く光の刃が、美しい青い軌跡を描く。
金属の刃と違って重量が実質ゼロのため、突きや払い、返し刃の動作が信じられないほどの速度で繰り出せるのだ。
「すごい……! 重さがないから、腕に全然負担がかからないわ! これならどんなに素早い相手でも余裕で対処できる!」
「そうだろうそうだろう! これぞ前世の浪漫を現実に変える男、ローラン様の傑作だ!」
「ローラン、あんた本当は天才なんじゃないの!?」
ルシアの顔に笑みが戻った。
彼女は近くにあった大きな岩柱に向かって一歩踏み込み、横一文字に光の刃を閃かせた。
ズバッ……!
刃が岩を通過した感覚すらほとんどなく、巨大な岩柱の上半分の断面が綺麗にスライドし、ドスンと床に落ちた。
「凄い……! 力を全然入れてないのに、岩が豆腐みたいに切れたわ……!」
「ハッハッハ! これで『銀狼丸』が折れたショックも吹き飛んだだろう!」
「ええ! これならダンジョンの奥のボスだって一発よ! ありがとうローラン!」
二人が大喜びでハイタッチを交わした、まさにその時だった。
『ゴゴゴゴゴゴゴ……!』
ダンジョンの奥から、地響きのような重苦しい足音が近づいてきた。
部屋の入口の影から姿を現したのは、体長三メートルを超える巨躯を誇る、この階層の主——【アーマード・ゴーレム】だった。
全身が超高密度の魔導鉱石で覆われており、並の鋼の剣では刃こぼれどころか傷一つつけられない、恐怖の重装甲魔獣である。
「グオオオオオオン……!」
ゴーレムが咆哮を上げ、丸太のような太い岩の腕を振り上げた。
「来たわね……! ちょうどいい試運転の相手よ!」
ルシアは不敵な笑みを浮かべ、青く輝くラ◯トセーバー・マークIIを構えた。
「見せてあげるわ! 私とローランの最新兵器の威力をね!」
ルシアは床を力強く蹴り、ゴーレムの懐へと一撃で飛び込んだ。
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