8疑念
登場人物おさらい
*九許斐ノナ
*飯田健介
*吉江美辣
気づけば秋日部駅の駅員室にいた。応急処置をしてもらい、念のため最寄りの病院で精密検査を受けた。
とりあえず異常が見つからなかったので帰宅したのだが。
わたしはずっと引っ掛かっていたことがある。吉江先輩--。あの時、何故駅のホームに……? 先輩の地元がある藤の馬島駅とは反対側のはずだ。
数日前に階段から蹴り落とされそうになった時も、吉江先輩は背後から呼び止めた。
まさか。先輩がわたしを。猜疑心が広がっていく。
しかしわたしは吉江先輩に恨まれる動機がない。
いや、ある。一つだけ。
『お父さんのこと大事にしてあげてね』先輩の声が蘇った。幼少期に父親を亡くした吉江先輩は、両親が揃っていて恵まれた環境にいるわたしを羨ましがっていた。しかも先輩はファザコンだ。クソジジイと言って父親を毛嫌いしているわたしに、腹を立てているのかもしれない。勝手な主観で、わたしは親不孝者だと思われている可能性がある。
胸がドクンと脈打った。
優しい仮面の下に、嫉妬と怒りを滲ませていたとしたら。
カタカタ……
ベッド脇に置いていた、小さな青い鏡台から微かな音がした。ドレッサーの観音開きの戸が揺れている。
震える手で開いてみると、ミラーにヒビが入っていた。青い印鑑を押した部分に。
「ひっ……」
手から鏡台が滑り落ちそうになる。
『よしえ』の文字が割れていく。
ミラー。鏡。旧姓・鏡見原。吉江美辣。
まさか……!
秋日部駅⏩春日部駅
藤の馬島駅⏩藤の牛島駅
南マロン橋駅⏩南栗橋駅
洒落好きなヤツめ┐('~`;)┌




