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2/9

2敗北


 1/2の確率で、わたしは賭けに負けた。


「まあ。愛ちゃんのお父様ですね」

 幼少期から消えないトラウマがある。

「愛ちゃーん。パパが迎えに来たわよ」

 幼稚園の時の担任の先公は、何も知らずに残酷な言葉を吐いた。

 サプライズで幼稚園まで迎えにきた父は、まだ名乗っていなかった。〝鏡見原(かがみはら)です〟と。

 しかし名乗る前に先生は、あの男の顔を見ただけで一目で看破してしまったのだ。初対面であるにも関わらず。〝愛ちゃんのパパですよね〟

 父は嬉しそうだった。

「そんなに似てるかなあ」

 鼻の下を伸ばして、照れたように笑っていた。このド変態めが!

 あの野郎は、初めてできた一人娘を溺愛していた。目の中に入れても痛くないくらい、わたしは可愛がられてきたのだ。玩具、お菓子、子供部屋、わたしが望むものは何でも叶えてくれた。あんなに甘やかされたら、将来ろくな大人にならないと思いますの(お前だよ)。

 父と娘。実物を見比べれば親子であることを、他人は瞬時に見抜いた。写真を見せれば笑われた。

「ご主人に生き写し」

 近所に住む吉田由美子という女が、クスリと口許を押さえた。

 殺してやりたかった! リア充爆ぜろや。ふざけんな。人の容姿を笑える顔か、ドブスドクソメス豚!

「まるでコピーだね」「パパそっくり」

 世間は無責任で正直だった。人の不幸は蜜の味かよ。

 成長と供に、大人になれば顔は変わっていく。それでも。

 母親似の女の子が心底、羨ましかった。母親似=遺伝子が上質、優秀、上品で高級。人生の勝者。当たりクジ。誰からも信頼と尊敬の眼差しで見られるに決まっている。父親似=遺伝子が下等、劣悪、下品で低俗、安価。貧乏クジのハズレクジ。人生の敗者。〝残念、父親似か。こりゃまた珍しい、運が悪い。お気の毒様〟って思われるのだ。父親に似ているだけで社会的信用は失われ、見下されて嘲笑われる。私の中で、許しがたい方程式が完成されていった。

 1/2の確率で、完膚なきまで打ちのめされた敗北者。隔世遺伝を含めたら1/6の確率だよ。くそめ。劣等な遺伝子なのに、劣性遺伝でないことが皮肉極まりない。

 母親の体内で育ちながら父親の遺伝子を持たされる、そんな特殊な産まれ方をする奴がどこにいるんだ。

〝鏡見原義彦の娘〟〝鏡見原義彦の娘〟理不尽なレッテルは、どこにいても付き纏ってくる気がした。わたしは世間に弱味を握られている。

「わたしは鏡見原義彦の娘なんかじゃない!」

 殺意と憎悪が膨れ上がって、喉が枯れるまで叫んだ。 

 わたしはあの男を許さない。よくも人に顔の遺伝子を移しやがって。










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― 新着の感想 ―
苗字が鏡見原ですか。 視点人物が過去に鏡を何度も破壊していたという第1章での描写を連想させますね。
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