2敗北
1/2の確率で、わたしは賭けに負けた。
「まあ。愛ちゃんのお父様ですね」
幼少期から消えないトラウマがある。
「愛ちゃーん。パパが迎えに来たわよ」
幼稚園の時の担任の先公は、何も知らずに残酷な言葉を吐いた。
サプライズで幼稚園まで迎えにきた父は、まだ名乗っていなかった。〝鏡見原です〟と。
しかし名乗る前に先生は、あの男の顔を見ただけで一目で看破してしまったのだ。初対面であるにも関わらず。〝愛ちゃんのパパですよね〟
父は嬉しそうだった。
「そんなに似てるかなあ」
鼻の下を伸ばして、照れたように笑っていた。このド変態めが!
あの野郎は、初めてできた一人娘を溺愛していた。目の中に入れても痛くないくらい、わたしは可愛がられてきたのだ。玩具、お菓子、子供部屋、わたしが望むものは何でも叶えてくれた。あんなに甘やかされたら、将来ろくな大人にならないと思いますの(お前だよ)。
父と娘。実物を見比べれば親子であることを、他人は瞬時に見抜いた。写真を見せれば笑われた。
「ご主人に生き写し」
近所に住む吉田由美子という女が、クスリと口許を押さえた。
殺してやりたかった! リア充爆ぜろや。ふざけんな。人の容姿を笑える顔か、ドブスドクソメス豚!
「まるでコピーだね」「パパそっくり」
世間は無責任で正直だった。人の不幸は蜜の味かよ。
成長と供に、大人になれば顔は変わっていく。それでも。
母親似の女の子が心底、羨ましかった。母親似=遺伝子が上質、優秀、上品で高級。人生の勝者。当たりクジ。誰からも信頼と尊敬の眼差しで見られるに決まっている。父親似=遺伝子が下等、劣悪、下品で低俗、安価。貧乏クジのハズレクジ。人生の敗者。〝残念、父親似か。こりゃまた珍しい、運が悪い。お気の毒様〟って思われるのだ。父親に似ているだけで社会的信用は失われ、見下されて嘲笑われる。私の中で、許しがたい方程式が完成されていった。
1/2の確率で、完膚なきまで打ちのめされた敗北者。隔世遺伝を含めたら1/6の確率だよ。くそめ。劣等な遺伝子なのに、劣性遺伝でないことが皮肉極まりない。
母親の体内で育ちながら父親の遺伝子を持たされる、そんな特殊な産まれ方をする奴がどこにいるんだ。
〝鏡見原義彦の娘〟〝鏡見原義彦の娘〟理不尽なレッテルは、どこにいても付き纏ってくる気がした。わたしは世間に弱味を握られている。
「わたしは鏡見原義彦の娘なんかじゃない!」
殺意と憎悪が膨れ上がって、喉が枯れるまで叫んだ。
わたしはあの男を許さない。よくも人に顔の遺伝子を移しやがって。




