気づかれない嫉妬
ついに隣国から特使がやってきた。
昼過ぎに到着した特使たちは、清嵐様と高官たちと共に話し合いをしている。
私たちが密かに採ってきた山菜は、今まさに料理されていた。
さすが宮廷の料理人、付け焼き刃に集めた材料で立派な膳を作り上げていく。
レシピは私も一緒に考えたのだ。こんなときに貧乏暮らしの知恵が役立つとは。
そのまま宴に出された料理は、やはり特使たちに好評だった。
「よかった...清嵐様、ちゃんとお役目を果たせているわ」
私は宮殿の広間の窓から中を盗み見ていた。
するとそのとき、
「あれっ?きみは確か清嵐の...お妃ちゃんじゃん」
背後から苦手な声が聞こえた。
「...俊然殿下」
私は殿下に向かって礼をとる。
「何してんの?こんなところで」
「あ...いえ、その...」
俊然殿下は私の見ていた窓を覗き込んで、
「あー、特使の接待ね。上手くいってるようでなによりなにより」
とニヤニヤしながら言った。
あまり人に対して苦手意識は持たないほうだと思うが、この方は苦手だ。
何を考えているのか全くわからない。
「なんか金が足りないって嘆いていたみたいだけど、ちゃんともてなせてるみたいだね。一国の特使相手だから、面子を保つのも大変だよねー」
「...そんな他人事みたいに...俊然殿下はよろしいのですか?大事な宴に出なくて...」
「いいのいいの。皇子が二人揃って出たら、向こうもどちらに媚び売ろうか迷っちゃうでしょ。それにこういう外交は清嵐の方がウケいいし」
確かに、掴みどころのないこの方よりも清嵐様のほうがいいのだろう。
「ねーお妃ちゃん、清嵐ってあんな淡白だけどお妃ちゃんとイチャイチャしたりすんの?夜のほうはどうなの?順調?」
「んなっ...!なんて事言うんですか!」
デリカシーのない発言にびっくりして思わず大きな声が出た。
「あは、かーわいー」
俊然殿下は怒る私を見下ろしながら笑っていたが、何かに気づいて「あ、やべ。じゃーね」とだけ言ってその場からいなくなった。
「?何をあんなに慌てて...」
私が再び視線を戻すと、清嵐様が不機嫌そうにこちらを見ていた。
「こ、これはまずい......!」
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宴も終わり、やっと仕事が終わった清嵐は服を着替えていた。
「もう夜も更けた。きっと寝ているだろうが、一目...」そう呟いて美雨の部屋に向かった。
部屋の前まで行くと、足音に気付いたのか美雨が部屋から顔を出した。
「夜遅くにすまない。少し、いいか」
「はい」
美雨は清嵐を部屋に招き入れる。初めて入る美雨の部屋は、テーブルと椅子と寝台があるだけの質素なものだった。あまりに物がないので、少し心配になるほどだった。
椅子に腰掛けて、美雨を見る。
「今日は本当に助かった。きみのおかげだ、ありがとう」
「私は何もしていません。清嵐様ががんばったからです。特使の接待、成功おめでとうございます」
美雨が注いだ水で二人は乾杯した。清嵐が少しぶっきらぼうに尋ねる。
「...宴の最中、きみと俊然が話しているのが見えたが、何を話していたんだ」
「そういえば...偶然お会いして、挨拶をしただけです」
「...本当に?アイツに言い寄られたりしてないか?」
「本当です。それに言い寄るって...俊然殿下は女性にはお困りでないご様子ですが...」
「...ならいい。なるべくアイツとは関わるな」
清嵐はふてくされたように目線を逸らした。
美雨は、二人が皇子という立場で色々あるのだろうと察してただ「わかりました」と返事をした。
清嵐が美雨と俊然の仲良さげに話す様子に嫉妬していることなど、まるで気付いてなかった。
「...今日はこの部屋で寝てもいいか?」
「私は構いませんが...寝台がひとつしかないので、清嵐様がお使いください。私は床で寝るのは慣れていますので」
そう言って美雨が寝台を整えようとしたとき、清嵐が美雨を抱えて寝台に飛び込んだ。
「...こうして二人で寝ればいい」
突然の清嵐の行動に美雨は鼓動がだんだん速くなっていくのを感じた。




