山菜は危機を救う
清嵐様の妃となって三ヶ月あまりが過ぎた。
妃としてはまだまだなので、妃教育は続けてもらっている。でも、本当に妃に相応しい方が現れたら、きっと私は用済みだろう。だから清嵐様を好きになってはいけない。きっと私は皇后となる方が現れるまでの埋め合わせだ。
それでも清嵐様はこんな私のことを大事にしてくださっていると思う。日々政務に勤しんでいるのに、夕食はできる限り私と一緒に食べてくださるし、時間があるときには妃教育の勉強を教えてくださる。
私が窓辺から庭に咲いている向日葵をぼんやり眺めていると、侍女がやってきた。
「妃殿下。本日は殿下はご政務が滞っており、ご一緒に夕食を取ることはできないとの伝言を承っております」
「わかりました、ありがとう」
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その頃、宮廷の執務室では清嵐が頭を抱えていた。
「これはどういうことだ!再来週やってくる隣国の特使の接待のために蓄えておいた予算が、すでになくなっているとは!」
机を叩く音が部屋に響く。
「こ、今月は帝と皇后が避暑のため北の離宮に行かれていたことから、出費が嵩んだようです」
報告にやってきた文官が恐る恐る言う。
「っくそ!ただでさえ皇后が首飾りを新調したばかりなのに...」
廉が冷静に言う。
「きっと予算がないことを承知で、殿下に今回の特使の接待の指揮を取らせたのでしょう。皇后の嫌がらせか、俊然殿下の派閥の者がそう仕組んだか...いずれにせよ、金が無くとも準備しなければ」
「どうすれば...」部屋に重苦しい空気が広がった。
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今日で三日目。
清嵐様がお忙しくて一緒に夕食をとらなくなり、日中もほとんど会うことがなくなった。
「どうしたのかしら...」
妃になってから、今まで一日会えない日はあっても三日続いて会えなかったことはなかった。
私は翠青宮の隅に作ってもらった畑でいくつか野菜を育てている。日中の妃教育の時間以外はやることがなく、暇なのだ。廉様にお願いしたところ、だいぶ嫌そうな顔をされたが、「妃殿下の普段の頑張りに免じて...」とお許しをいただけたのだ。
「おぉ〜今日も立派なトマトがなってる!」
私は汗をかきながらもたくさん野菜を収穫した。
収穫した野菜は、自分たちが食べるのではなく翠青宮に勤める侍女たちにあげるのだ。
倹約家な清嵐様は、他の宮に比べて雇う侍女の数も少ない。そのためひとりひとりの仕事量が多く、大変そうなのだ。
私がここへ来たころは、侍女たちに無視されていた。それもそうだ、こんな庶民がいきなり自分の主人の妃になろうと言うのだから、反感があったのだろう。
でも今はこうして野菜を配ると喜んでくれて、私のことを受け入れてくれるようになった。
籠いっぱいに収穫した野菜を持ってウキウキで廊下を歩いていると、前には清嵐様が立っていた。
「清嵐様?ご政務は大丈夫なのですか...」
そう言って彼に近づくと、「久しぶりだな」と彼はやつれた顔で笑った。
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清嵐様のお話をまとめると、
再来週に我が国を訪れる隣国の特使たちをもてなす役目を担っているが、そのためのお金が全くないということだった。
清嵐様がため息をつく。
「特使たちをもてなすにしても、宴席を用意しなくては...場所は本殿の広間を使うとして、問題は食事だ。金のかかる食材は使えないし、帝に皇后、そして官吏たち合わせて100人分は膳を用意しなければならない」
「100人分......」
私は清嵐様と同じようにため息をついて、考えを巡らせた。そんなに大勢の食事を、お金をかけずに...
はっとひらめき立ち上がる。
「できます!!」
思わず大きな声が出て、清嵐様が驚いてこちらを見た。
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私と清嵐様と、翠青宮の侍女数名でこっそり山奥に来ている。ハイキングではなく、特使の接待で料理に使う山菜を採りに来たのだ。
日の出前から宮を抜け出し、午前中までは留守番の廉様が翠青宮に皆がいるように見せかける隠蔽工作をしてくださる。
急いで山菜を採って戻らなければ。
私は清嵐様と侍女たちに食べられる野草を記した紙を渡した。
「時間いっぱい、出来るだけたくさん採ってください」
夜明けから探し始め、日も高くなってきた頃。私たちの籠は山菜がパンパンに詰まっていた。
「山菜を採るなんて初めてしたが...案外楽しいものだな」
清嵐様が笑って言った。
これだけあれば、天ぷら、おひたし、汁物...豪華とまではいかないが、見栄えのいい料理が出せるはず。しかも隣国は平地続きで山がないと妃教育で習った。きっと山菜の類は珍しく思われ、良いおもてなしができるだろう。
宮を抜け出していたことがバレないように、私たちは急いで宮廷へと帰った。
なんとか昼前に到着すると、廉様がまだかまだかと翠青宮の入り口でウロウロして待っていた。
「まったく...肝が冷えました。無事のお戻り、何よりです」
廉様が笑って言った。この方が笑うのを初めて見たかもしれない。主人の危機に少しばかり希望が見えて、安心しているのだろう。
清嵐様は午後に政務があるため、急いで着替えて行ってしまった。
「さあ、支度をしましょう!」
私は侍女たちに手伝ってもらい、採ってきた山菜の下処理を始めた。




