あなたの未来
「父上、彼女は美雨。皇子妃として迎え入れたいと思います」
横にいる清嵐様が帝に向けて言った。
「お初にお目にかかります、美雨と申します」
私は一番奥にいらっしゃる帝と皇后に向けて、妃教育で習った最上の礼をとった。
帝は興味ないと言わんばかりに頬杖をついたまま手を上げた。
おそらく「退がれ」という意味だったのだろう、私は清嵐様に手を引かれて自分たちの席へ移動した。
数多くの高官が集まっており、殿下の妃に鋭い視線を向けている。きっと何処ぞの馬の骨ともわからない私に好感は持てないのだろう。
それでも清嵐様の後ろに控えている廉様が睨みをきかせてくれたおかげか、予想よりも穏やかに宴の時間は過ぎていった。
「あれ〜?清嵐じゃん、宴には滅多に顔出さないのに珍し〜」
清嵐様と引けを取らないくらい美しい顔で、でもどこか軽薄そうな男が清嵐様の前に立つ。
「......俊然。久しぶりだな。今日は我が妃のお披露目を兼ねて来た。
「......妃?」顔がピクッと引きつり、私を見た。
「美雨と申します。以後お見知りおきを」
私は俊然殿下にお辞儀をする。
「へえ〜清嵐がついに妃をね〜。結構可愛い子じゃん。どこの家の子?」
ニヤニヤ笑いながら俊然殿下が顔を近づけてきた。ち、近すぎる...。
私が一歩後退りするより速く、清嵐様が間に入ってくれた。
「お前には関係ない。それよりお前...また女を取っ替え引っ替えして問題を起こしたらしいな。遊びも大概にしろ」
「ええ〜僕は何もしていないんだけど、女の子たちが喧嘩しちゃって...困ってるんだよ」
俊然殿下はなんの悪びれもなく笑って、私を見て「またね」とウインクをして自分の席に戻っていった。
「今のかたって...」
「ああ、俺と同じでこの国の皇子、俊然だ。見ての通り女好きでだらしがないヤツだが、頭はキレるので次の帝に推す臣下も多い。まあ、あいつのことは基本無視していい」
宮廷内では皆が清嵐様を次の帝にと思っているのだと、勝手に思い込んでいた。
「帝......」
私はポツリと呟いて、ある考えが浮かんだ。
もし清嵐様が帝になられたら、私は...?
皇后?いやいや、ありえない。第一、身分が違いすぎるし。
皇子妃としては彼の隣に居られるけど、その先はー?
ボーっとしてしまった私に、清嵐様が声をかける。
「...雨?大丈夫か?疲れただろう。あと少しの辛抱だ」
いけない、心配させちゃった。後ろから廉様の「しっかりやれ!」という目線が刺さる。
「大丈夫です!」
とりあえず今は清嵐様の妃として、しっかりしなきゃ。
お開きの時間となり、帝と皇后が退席されると官たちも一斉に帰り始めた。
私たちも翠青宮まで帰ってきた。
「...無事に、終わったな」
清嵐様がこちらを見て安堵する。
「はい...疲れました......」
私もこの日のために神経を尖らせて頑張ってきたので、終わった開放感から一気に疲れがきた。
「...帝は何も仰らなかったですが、大丈夫だったのでしょうか?」
「ああ、おそらくな。これで雨を皇子妃として正式に迎えることができる」
清嵐様がうれしそうに言うので、私も安心した。
「あの、清嵐様...」
「ん?どうした」
宴の途中で頭に浮かんだ将来のことを聞こうと思ったが、できなかった。
もし面倒に思われて皇子妃を降ろされたら、どうなってしまうのか不安だった。
「...っお料理!美味しかったですね!見たこともない食材が使われていて、家族に食べさせたかったです!」
私は必死に不安を隠した。
「?ああ、そうだな。...そうそう、君の父君なのだが、いきなり宮廷勤務の高官の地位を与えるわけにもいかず、とりあえず地方官として都の外れにある役場で働いている。真面目に勤務していると報告があったぞ」
「本当ですか!?ありがとうございます!なんとお礼を申し上げればよいか...ありがとうございます」
思わず泣きそうになってしまった。酒に溺れてばかりの父が、また働き始めることができたなんて。
清嵐様の顔を見ると、喜ぶ私をまるで愛しいと言うような目で見ていた。
そんな目で見ないで。
あなたが帝になる時、私は......
私は疲れが出てそのまま長椅子にもたれて眠ってしまった。誰かが私の部屋の寝台まで運んでくれたけど、誰なのかは覚えていなかった。




