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倹約皇子に今日も愛されてます  作者: 海野豹香


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はじまった宮廷暮らし


「本日より美雨(メイユイ)様には妃になるための教育を受けていただきます。貴女のお立場はあくまでも妃候補ということで...まだ貴女のことを公にはできません。来月開かれる宴に清嵐(セイラン)殿下と出席していただきます。それがお披露目になると思いますが...なんとしてもそれまでに妃としては相応しい振る舞いを身につけてください」


宮廷の裏門から人目を憚り参内した私に、妃選びの会で見かけた身なりのいい官吏が言った。

かなり厳しい表情で、歓迎されていないことがよくわかる。


もし私が皇子妃に相応しくないと判断されたら、私はどうなるのだろう。処刑されるのだろうか。天宇(テンユ)やお父さんは?


不安に押しつぶされそうになるが、もうここに来てしまった。覚悟を決めるしかない。


私は宮廷へと通じる門をくぐった。





----------



清嵐殿下が住まう翠青宮-


帝の子で男子は清嵐殿下ともうおひとり、俊然(シュンラン)殿下がいらっしゃる。お二人とも十八歳なので、そろそろ東宮、つまり次の帝として冊立されていてもおかしくない。


しかし長年の失政で東宮冊立の儀も出来ぬまま、臣下たちは清嵐殿下と俊然殿下を推す派閥に別れ、政争の一部となってしまっている。


国の安寧のため奔走されている清嵐殿下こそ、次の帝に相応しい。彼に帝になっていただかなくては、この国は滅びるだろう。


そのためには、皇子妃を迎え帝位継承を盤石にしなければ。


(リエン)が改めて今の宮廷の状況を憂いていると、例の妃候補がおずおずとやってきた。


宮廷にやってきたばかりの彼女は、身なりも粗末で、とても妃教育を受けられるような風貌ではなかった。

そのため、少しでもマシになるように風呂に入れ、こちらで用意した衣に着替えさせた。


官女用の衣で上等なものではないが、意外と似合う。

しかもよく見ればこの娘...かなりの美人だ。自分の主人は面食いではないし、きっと妃選びの際も顔なんてほとんど見ていなかっただろう。


「もしかしたら彼女なら...」廉のそんな淡い期待もすぐに打ち砕かれることになる。



----------



「な、なにこの量......」


美雨は山積みになった教科書に囲まれていた。

読み書き算盤は人並み以上にできる。かつて文官だった父が、私と天宇に教えてくれたのだ。幼い頃住んでいた屋敷にはたくさんの本があり、それらを読むのが好きだった。

しかしそれだけでは妃にはなれない。マナーや教養、政についても覚えることが山積みだった。


それでも宮廷暮らしは不安に思っていたほど悪くなかった。妃教育の先生もつけてもらえて、衣食住は自分には十分すぎるほどだ。私には居心地が悪すぎて、豪華な食事や、華美な衣装の類は初日に丁重にお断りした。

「体裁というものがございます!」と妃教育の先生からも毎日怒られているが、私はこの官女服が好きなのだ。動きやすいし。


清嵐殿下は、妃選びの会から一度も会っていない。本当に同じ宮に住んでいるのかと疑うほど朝から晩まで政務に尽くしているようだった。


ここへ来る前は、皇族は皆お金を好き放題使って、飢えた民のことなんて気にも留めていないのだろうと思っていた。しかし、清嵐殿下はどうやら違うみたいだ。毎日あれだけ働いている彼のそばで、自分だけタダ働きなんてできない。


「お披露目の宴まで、あとひと月もないのだから...しっかり勉強しないと」


そう呟いて、私は手近の本から一冊ずつ読んでいった。


 

----------



いつものように木簡に目を通しながら決裁をしていた清嵐が廉に尋ねた。


「そういえば...例の妃候補はどうなった?」


「翠青宮にて教育係をつけてビシバシやっています。妃としての器量は正直壊滅的ですが...」


「ですが?」


「...初日から過度に豪華な食事や衣服は不要と仰られて、いまだに官女の装いでいらっしゃいます」


「ぶふっ...なんだそれは。やはり俺の見立てに間違いはなかったな」


清嵐が吹き出して笑った。廉は少し困った顔で言った。


「あまりに地味...いえ質素だと臣下からも舐められます。もう少し妃としての矜持を持っていただきたいものです」


「その無駄なプライドとやらで国が傾いているんだぞ。いいじゃないか、欲が無ければ扱いやすいだろ」


清嵐はそう言って次の木簡を手に取る。


「...報告によれば、美雨様は厳しい妃教育にも弱音をひとつも吐かず頑張っておられるとか。いきなり宮廷で暮らすことになり、心細い部分もあるでしょう。選ばれたからには、責任を持ってくださいませ」


「...珍しいな、お前が他人をそこまで褒めるなんて」


「褒めてなどおりません!貴方様のワガママに付き合う側が苦労していることを.......」


廉がいつもの調子でチクチク小言を言い始め、清嵐は「しまった」と思いながら木簡に目を戻した。


妃選びの会で去り際に見た女の顔が脳裏に浮かぶ。


「様子を見に行ってみるか......」


清嵐は時間を作るため、急ぎ政務に取り掛かった。








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