覚悟の別れ
真夜中になろうという頃合い、宮廷の隅にある部屋の明かりはついていた。
部屋の中では清嵐が国庫の資金繰りに悩んでいた。
彼の従者である廉が部屋に入る。
「清嵐様...本日の妃選びの会のことですが...」
「またそれか。お前もしつこいな。そんなに不服か?質素で倹約生活に協力的、条件にぴったりの娘だったと思うが」
「貴方様のご命令通り、『馬車で参内した者』には最初にお帰りいただきました。200あまりの娘が集まっていたのに、残ったのはたったの五名。その中から妃を選ぶなど...些か早計だったのでは」
「裕福な家の女はこのご時世でもわざわざ馬車を使って参内するからな。特に貴人はどんなに短い距離でも自分の足では歩いて来るまい。もう少し残ると思ってたんだが...まさか五人しか残らないとはな」
「しかし...美雨様のことをお調べしましたが、かなり粗末な生活をされているようです。妃教育を施したとしても、その出自に臣下が黙っていないでしょう。...残っていた孫家の娘がよろしかったのでは?」
「孫美花か...彼女の実家は官を多数輩出している名家だ。先々帝の時代から娘を後宮に入れようと画策している。今日も俺の意図を察してか落ち着いた身なりで歩いてきたくらいだしな。あの女は計算尽くでしたかかだ。裏で何をするかわからない」
「そうかもしれませんが...草を食べる妃なんて聞いたことがありませんよ」
廉が呆れ顔でため息をついた。
「とにかく、俺はあの娘を選んだぞ。妃を娶れば帝も宰相たちも黙るだろう。俺の妃なんて今はどうでもいい、宮中の出費を少しでも抑えなければ...」
清嵐は再び机に向かう。
廉は主人の仕事を手伝いつつ、タンポポを食べた美雨のことを思い出し頭を痛めていた。
----------
「雨姉ちゃん、出仕することになったの!?」
突然の報告に天宇が目を丸くした。
「願いを叶えてもらえるってことに釣られて、ダメ元で妃選びの会に出たの...?それで...選ばれた...?姉ちゃんが!?」
妃選びの会に出た私は、タンポポを食べて選ばれてしまった。こんなはずではなかったのに。
「私も訳がわからない...とりあえず明日から、後宮に入ることになって......もうここには帰ってこれないらしいんだけど...今後の十分な生活とお父さんの復職は保証してくださるって......だから天宇、がんばっ...」
思わず涙が溢れる。そうだ、私はもうこの家に帰れないんだ。辛く苦しい生活に嫌気がさしていたのに、こんなに寂しいなんて。
「...姉ちゃん、そんなに嫌なら逃げよう。姉ちゃんが犠牲になるんだったら、裕福な暮らしなんて要らない。それに皇子妃なんて、姉ちゃん絶対に合わないよ!」
天宇も涙を浮かべながら私の手を握った。
「...ううん、私は行くわ。たとえどんなに辛いことがあったとしても、これまで辛かったことに比べたら...それに殿下もきっとお優しい方よ」
私は自分に言い聞かせるように言った。
----------
翌朝、宮廷から迎えの馬車がきた。
「じゃあ、天宇。お父さんのこと、よろしくね」
天宇は泣き腫らした目で私のことを見て、「うん」と小さく頷いた。
小屋の奥で背を向けて寝ている父に、最後の挨拶をした。
「お父さん、いってきます」
相変わらず背中を向けたままの父の姿を見て、私は迎えの馬車に乗り込んだ。
廃れた小屋がどんどん小さくなっていく。あの家で家族3人、貧しくもなんとか生きてきた。
宮殿暮らしなんて、自分には無縁な世界だったのに。私は昨日歩いて行った道を、馬車であっという間に駆け抜けて都に向かった。




