草を食べる女
都から少しばかり離れた村落。
道端のヨメナの葉を集めながら、私は「今日のご飯はヨメナ汁だ〜」とルンルンで家に帰る。
「あ、雨姉ちゃん帰ってきた!おかえり!」
満面の笑みで出迎えてくれたのは、私の弟の天宇。
「わあ!今日はご馳走だね!」
私が持って帰ったヨメナの葉を見て、天宇は目を輝かせた。
村の外れにある廃れた小屋で、家族3人で暮らしている。私と弟と、飲んだくれの父。母は幼い頃に流行り病で亡くなった。
母が亡くなる前、父は宮廷に出仕する優秀な文官だった。しかし、帝の代替わり後から政が失政続きとなり、真面目に働いていた父も解雇されてしまった。
文官の仕事も追われ、妻に先立たれたことで、心がポッキリと折れてしまった父は今日もこうして酒を煽り昼夜問わず寝てばかりだ。
私と天宇はこんな状況でも姉弟力を合わせて生きてきた。私が村の畑仕事を手伝い、家計を支えている。天宇も出稼ぎに行きたがっているが、彼は幼い頃から頭が良く、できることなら好きな職についてほしい。だから今は父の面倒の傍ら、官吏試験に向けて家で勉強しているのだ。
「今日もお疲れ様、すぐにご飯作るね」
天宇がヨメナの葉を籠に入れ、夕飯の支度をし始める。
「そういえば姉ちゃん、都で皇子殿下のお妃選びをやるって話、知ってる?」
天宇が手際よく夕飯を作りながら聞いてきた。
「お妃?知らない。皇子殿下のお妃なんて私たち庶民には雲の上の話よ」
肉体労働で疲れた身体は重く、瓶の水を一杯すくって飲んだ。
「そうでもないよ。なんでも、年頃の娘は身分に関わらず立候補していいんだとか。変わり者ってもっぱらの噂らしいよ」
「そうなの。こんなに民が飢えているのに、呑気なものね」
私は天宇には聞こえないくらいの大きさで呟いてから、夕飯作りを手伝った。
翌日、いつものように村の畑仕事に向かう。
すると道端の掲示板に人だかりができていた。
「あ!雨ちゃん!ちょっとこれ見て!」
畑仲間に呼ばれ、ぐいぐい腕を引っ張られる。
張り出されていたのは、例の皇子殿下の妃選びの会についてだった。
一.明後日、午の刻より宮中にて劉清嵐殿下の妃を選別する会を催す
一.立候補した者にはいくつかの試験を受けてもらい、最後に選ばれた者が妃候補として教育を受けることになる
一.参加資格は齢十七に近い娘、身分は一切問わない
ひと通り読んで、最後の一文が目に入った。
「一.最終候補に残った者は、たとえ妃に選ばれなくてもなんでも望みをひとつ叶える」
「...これは!」思わず声に出た。この条件は正直捨てがたい。望みを叶えてくれるのならば、父をまた文官に戻してほしい。あれだけ仕事人間だった父のことだ、きっと仕事に就けば今のように酒に溺れることもなくなり、天宇も安心して官吏試験のために学べるだろう。叶わぬ願いだとわかっていても、夢を見てしまう自分がいた。
畑仲間のおばちゃんたちが、私の背中をバシバシ叩いた。
「雨ちゃん条件にピッタリじゃない!年も17だし、平民でも出られるって!」
「もし皇子殿下のお目に留まれば、お妃様になれるなんて〜!私がもっと若ければ〜!」
みんなが勢いよく私を取り囲む。
「...ハハハ」
あまりの展開に、私は笑うしかなかった。




