真実
部屋にいた美雨は不安げにお腹をなでる。
「きっと清嵐様なら大丈夫...大丈夫よ...」
そう呟いていた。
そのとき、部屋の扉が勢いよく開かれた。
清嵐が帰ってきたと思った美雨は顔が明るくなるが、すぐにその表情は強張った。
「美雨様ですね。手荒な真似はしたくないので、我々についてきてください」
見慣れぬ男たちの登場に、美雨は顔が青ざめて震えていた。
「あなたたち誰なの!?清嵐様は!?」
美雨がパニックになりそうなのを必死に抑えて聞く。
護衛についていた武官がひとり、美雨に近づく私兵に立ち向かうが剣で刺されてしまった。
「やめて!言う通りにしますから...これ以上やめて...」
倒れた武官に駆け寄った美雨は血が出る部分を抑えながら言った。
「彼の治療をお願い」他の武官にそう告げると、美雨は私兵たちに囲まれ連れて行かれたのだった。
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雨の降る冷たい牢。宮廷から少し離れた牢獄塔は昔使われていたもので、宮中で罪を犯した者が入れられていた。
「入れ」
言われるがまま牢獄に入ると、そこには傷だらけの清嵐様が倒れていた。
「...っ清嵐様!」
駆け寄ってみると、傷はあるものの息はしている。気を失っているようだ。
私たちの入った牢に鍵をかけて男は去ってしまった。
「ぅ...雨?...ここは......」
しばらくすると清嵐様が気がついて私はほっと胸を撫で下ろす。
「っそうだ!俊然が...っ美雨!大丈夫か!?何かされてないか!?.......お前、その血...!」
清嵐様が私の衣についた血を見て取り乱したが、私は傷ひとつない。さっき護衛の武官が刺されて傷口を押さえたときについた血だった。
「大丈夫です、これは私の血ではありません」
私の身体をくまなく確認して怪我をしていないことを確認した清嵐様は、少し落ち着いたようだ。
もうすぐ冬になろうという時期、夜になると牢は肌寒かった。私の身体を案じて清嵐様が上着を脱いでかけてくれた。
「腹は大丈夫か?」
清嵐様が私を抱えて座ってくれているので、床の冷たさが気にならなかった。
「はい、大丈夫です。私よりも清嵐様が...」
私がそう言うと清嵐様は平気だと笑ったが、きっと俊然殿下のことで一番傷ついているのは彼だ。
「どうして俊然殿下はこんなことを...」
私がそう言うと、清嵐様は私を抱きしめて話した。
「...俺が悪いんだ。あいつのことを何もわかってなかった。昔は俊然と俺は、本当の兄弟のように過ごしていた。...いつからか、皇子という立場でしか接することができなくなって」
「俊然殿下も、清嵐様と昔のようになりたいと話していました。...きっと、寂しかったんだと思います。それは清嵐様も同じですね...」
私は彼を抱きしめた。腕の中の彼は、長身でがっしりした身体つきのはずなのにまるで小さな子どものようだった。
「雨とこの子は、俺が命にかえても守るから...」
清嵐様は私のことを抱きしめたまま言った。
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「...清嵐、お妃ちゃん」
牢の中で寄り添って眠っていた清嵐と美雨は、誰かに呼ばれる声で目を覚ました。
牢の前に立っていたのは俊然だった。
「全部終わったよ。もう出て大丈夫」
そう言いながら彼は牢にかかる鍵を開けた。
「俊然、どういうことだ!?終わったって….」
清嵐が牢から飛び出し俊然に掴み掛かる。
「...もうこれで君の邪魔をする奴はいなくなったってわけだ。お妃ちゃんも、もう脅かされることはない」
俊然は静かに言った。
清嵐と美雨が牢獄塔から外に出ると、廉様や官吏たちが一斉に跪いた。
廉が清嵐に駆け寄った。
「...殿下、本当にご無事でよかった」
廉が涙目で清嵐に言う。
「...一体これはどういうことだ?なぜ官たちが...」
「すべては俊然殿下の計画だったのです。清嵐様に、何の不安もなく帝位についていただきたいと...そのために貴方様に反する勢力を一斉に集め、帝を弑虐するという大罪を犯し、それに加担した者たちは皆、俊然殿下のご指示で捕まりました。そしてご自身は...」
清嵐が何かに気づいたように走って牢に戻る。
そこには俊然の姿はなく、辺りを見回してもどこにもいない。
清嵐は牢獄塔から飛び出し、廉に掴み掛かる。
「俊然は?どこにいった!?」
廉が目を閉じて言う。
「存じ上げません。私たちも先程、俊然殿下に牢から出されて今回の計画を聞かされたのです。帝の弑虐は大罪ですから、皇族といえども捕まったら極刑です。お逃げになられたのかもしれません...」
「こんなこと......俺は望んでないぞ、俊然...」
雨が止んだ空に清嵐の慟哭が響く。
「そんな......」
美雨も侍女たちに保護されて座っていたが、涙を流して清嵐を見上げた。
「もう...戻らないのですね...俊然殿下...」




