噂から出た真
「...妃殿下。おめでとうございます。ご懐妊されています」
波乱の一件から清嵐様に連れられてきた医局で、医官から突然告げられた。
...嘘。私のお腹の中に、清嵐様の子が...?
驚きのあまり、手が震える。横で怪我の具合を心配していた清嵐様が、私を抱きしめた。
「...雨と俺の...」
噛み締めるように喜んで笑顔を見せる清嵐様を見て、急展開についていけなかった私も思わず笑ってしまった。
「大事にする」
そう言って清嵐様は私にキスをした。
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宮廷に広まっていた私が懐妊したという噂が本当になり、生活が一変した。
私が妊娠していると知った廉様は、天を仰いで涙した。最近では「身体を冷やさぬよう」と言って外套を渡してくれたり、「滋養のために」と貴重な果物を差し入れてくれる。まるでお母さんみたい。
清嵐様はもっと心配症で、私が少し動くたびにハラハラして、どこに行くのにも後ろをついてくるのだ。
私の暗殺未遂事件ーー、
あの後、孫美花と孫家の人たちは全員牢に入れられて、今は刑を決めている最中らしい。
清嵐様は、皇族への暗殺未遂は極刑だと言っていた。
狂ってしまった美花の最期を思い出すと、今でもゾッとする。清嵐様はそんな私の心情を察したのか、私のことを優しく撫でて言った。
「もう孫家の者が君に危害を加えることはない。安心してくれ。王明も傘下にあった孫子洋が失脚し、勢力が衰えている。何かできるような状況ではないだろう」
私は清嵐様の腕の中で大事にされる穏やかな日々を過ごしていた。
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妊娠がわかってから数日経ったある日。
私は翠青宮の中庭にある東屋で書物を読んでいた。妃教育は体調が落ち着くまでお休みさせてもらっているが、こうして空いている時間に自習をして早く一人前の妃にならなくては。
清嵐様がいると「無理をするな」とすぐ取り上げられてしまうので、彼が朝議でいない隙にいつも勉強しているのだ。
「...ふぅ」一休みに中庭の花を眺めていると、
「やっほー、お妃ちゃん!」と聞き慣れた声が聞こえた。
度々こうして翠青宮に遊びにくる俊然殿下だ。美花の件以来、こうして私の様子を見に来てくれる。もしかして心配してくれてるのかな?なんて思ったり。
「元気にしてる?最近、清嵐が仕事をいつもの3倍速くらいで捌くから僕がやることなくって...アイツ執務室でいっつもお妃ちゃんに会いたいって言ってるよ」
「そ、そうなんですね...」私は嬉し恥ずかしい気持ちで下を向いた。
「お腹、順調そうだね」
俊然殿下が私のお腹を優しく見つめる。
「...はい」
「お妃ちゃんのおかげで、宮中も清嵐を東宮に立てようって話にまとまりそうだし...ありがとう。君にどうしても伝えたかったんだ」
「私のおかげでは...!」私が慌てて否定するが、殿下は遮るように言った。
「君のおかげだ。君は前に僕に言ったよね?僕は清嵐と争いたくないんだって...そうだ。僕は清嵐と争わなくて済むってわかってからすごくスッキリした。お妃ちゃんはまっすぐ清嵐を支えてくれるいい子だし。もう心配することがなくなっちゃったな」
俊然殿下は笑って続けた。
「お妃ちゃん、ありがとう。清嵐とこの国をよろしくね」
どこか寂しげに言った彼に、私は違和感を感じつつも「はい」と返事をした。
「そろそろ清嵐が朝議から帰ってくる頃合いだな...じゃあ、バイバイ」
そう言って俊然殿下は中庭から去って行った。




