知らない顔
翠青宮の中庭にある東屋、私は俊然殿下と二人でお茶を飲んでいた。
頬杖をついて私を見つめる殿下は、綺麗な顔立ちできっと女性から寄ってくるというのは本当なのだろう。
「お妃ちゃんさ、平民だったでしょ?」
俊然殿下の急な言葉に飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「な、なんで知って...」
「いやー、あの清嵐が妃を娶るなんて意外だったから、気になって調べたんだよね。清嵐って地味系が好きだったのかぁ。ね...どうやって清嵐に取り入ったの?」
ニヤニヤする俊然殿下を見て、つくづく嫌な人だと思った。
「取り入ってなんていませんし、私の出自なんて聞いても皆さんのご気分を悪くしてしまうと思うので、特に言わなかっただけです」
「へえ。清嵐はどう?酷いことされてない?最近は清嵐の君への溺愛っぷりが僕まで聞こえてくるけど」
「酷いことなんてされてません!...大事に...していただいています」
「そっか〜。いや〜、めでたいねえ」
俊然殿下が冷やかしてきていることだけはわかる。
「あの...俊然殿下は、清嵐様と対立しておられるのですか?」
ずっと謎だった。二人とも皇子という立場でお互いを意識してきたはずだ。でも、清嵐様は嫌っている素振りは見せつつも、この方を憎んだり蹴落とそうと思ったりはしていない。
「対立なんてしてないよ。きっと僕たちの周りがそう見せたがってるだけ。正直僕は帝って柄じゃないんだけどさ。幼い頃は清嵐とも仲が良かったし、同い年だから武術も学問もいいライバルで...今はだいぶ嫌われてるけどね」
俊然殿下が寂しそうに笑う。いつもとは違う彼の顔に、葛藤や孤独が滲んだ。
「...俊然殿下は、清嵐様と争いたくないんですね」
「まあそうも言ってられないんだけどね。僕が消えても清嵐に敵対する勢力はいるし。どーしよっかなって考えてるところ。昔みたいに清嵐と親友のような関係でいたかったけど、もう戻れないからね」
それはきっと清嵐様もそう。だって俊然殿下の前では、いつも真面目な清嵐様が無邪気な少年に見えるもの。
「お妃ちゃんが現れてくれてよかったよ。清嵐のこと、これからもその持ち前の根性で支えてあげてね」
「...っもちろん!根性だけは自信ありますから!」
私が胸を張って言うと、殿下は笑った。
「あははっ面白いねぇ。...じゃあデートついでにひとつ教えてあげよう。君を狙ったのは、孫家の者だ。妃選びの会に出ていた、孫美花を覚えているかい?どうやら彼女が裏で指示したらしい。おおかた、君に清嵐の子ができたと噂を聞いての嫉妬か、皇子妃になるのを諦めていないのか...まあ、清嵐に言うといいよ」
「そんな...美花が...」
私は衝撃のあまり固まってしまった。顔も青ざめていたと思う。妃選びの会で会った気品あふれる彼女がそんなことをするなんて、信じられなかった。
「...大丈夫?なわけないか...突然そんなこと知らされて驚くよね。でも、清嵐の妃でいるってことはこの先色々あるよ。これ以上のことも。平穏に暮らしたいなら、この宮廷はオススメしない」
俊然殿下がらしくない真面目な顔をするので、彼の言いたいことが伝わってくる。並大抵の覚悟ではあの方の妃は務まらないんだ。
「...はい」
私はまっすぐ俊然殿下を見て返事をした。
「私は清嵐様をお慕いしています。どんなに辛いことがあっても彼と一緒にいたい。...だから、負けません」
私の言葉に俊然殿下が目を閉じて頷いたとき、後ろから清嵐様の手が私の全身を包む。
「...っお前...あれほど美雨には近づくなと言ったのに...!」
息を切らした清嵐様は私を抱きしめて俊然殿下を睨んだ。
「ごめんごめん、二人で仲良くお茶してただけだよ」
殿下は両手を上げて悪びれのない様子で謝った。
「行くぞ」
そう言ったのと同時に、私は清嵐様に抱き抱えられてそのまま連れて行かれた。
俊然殿下が「バイバイ」と手を振っている。
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「雨、前から思っていたが君は軽すぎる。もっと食べたほうがいい」
清嵐様がイライラしている。護衛はいたとはいえ、俊然殿下と二人でお話したのはいけなかった。
「...すみません」
怒った彼はしばらく私を抱き抱えたままだった。




