解ける夜
階段で落ちて以来、私には護衛がつくようなった。清嵐様も私のことを心配して、政務で翠青宮を出るとき以外は一緒にいてくれる。
「あれは...誰だったのでしょうか」
階段で押されたときにぼんやり見えた人影を思い出そうとするが、頭が痛くなって思い出せない。
「雨、まだ無理をするな。頭の傷も完全には癒えていないのだから」
あれから清嵐様はかなり心配症になって、私が厠へ行こうとするときも付いてこようとしたものだから、恥ずかしすぎて怒ったのだ。
平民出の妃に専属の護衛など、かなりオーバーだと思う。
「...命を狙われるなんて、誰がこんなことをしたのか知りたいです。清嵐様、私にもわかっていることを教えてください」
私はまっすぐに彼を見て言った。
「...犯人の目星はついている。おそらく、俊然についている者の仕業だろう。祭事の日、雨が気分を悪くしたことを懐妊と勘違いした者がいたようだ。...今、宮廷では君が懐妊していると一部の官たちの間で噂になっているらしい」
「...か、懐妊!?なんでそんな噂が...それならば違うと否定すれば解決するのでは?」
私は予想外のことにびっくりして、顔を赤らめた。
「...いや、これも時間の問題だろう。俊然にはまだ妃がいない。今、俺の子が生まれれば継承権は上がり、俺が東宮となる。子ができていないと噂を否定しても、君は狙われ続ける」
「...そんな」
「そのためにも、早く東宮を立てて俺と俊然の立場を明確にしなくては」
清嵐様が覚悟を決めたように言った。
横にいた廉様が真顔で私に言う。
「殿下の御子を貴女様が授かれば継承問題はすぐに解決しますが」
それを聞いた清嵐様が廉様を睨んで言う。
「お前...少しは自重しろ。今は雨のことが最優先だ。子など考えていない」
私は廉様の言葉に呆気にとられていた。
そうか...妃になったからには、清嵐様の御子を私が...考えると頭が沸騰するように熱くなり、しばらく座ったままの人形のように動けなかった。
その夜、私は窓辺に座って考えていた。
清嵐様が部屋に入ってきて私の隣に座った。
「...昼間、廉が言ったことは気にしなくていい。突然皇子妃になって君もまだ困惑しているだろうし...俺は君の気持ちが大事だ」
「...ありがとう、ございます」
平民出の私に子どもができたら、清嵐様が帝になったとき皇后となられる方には邪魔な存在になるだろう。そのときはいっそー。
思わず顔が曇った私の表情を見透かしたのか、清嵐様が私を抱きしめた。
「...雨。ちゃんと言葉で伝えてなかった俺が悪かった。君のことが、好きだ」
私はその言葉に驚いて顔を上げようとするが、彼の腕がキツいくらい私を抱きしめていて動けない。
「最初は妃なんて誰でもよかった。身分もどうでもよかった。浪費ばかりの皇后のような女でなければ。...でも君は、政務ばかりの俺をちゃんと見てくれて、頑張っていると言ってくれた。もう俺には、君以外の女は考えられない。ずっと一緒にいてほしい」
まっすぐな彼の言葉に、涙が出る。
「わ、私...皇后に相応しい方が現れたら...きっと捨てられるって...だから...清嵐様を好きになってはいけないって...ずっと...」
ぐちゃぐちゃな気持ちがそのまま溢れ出る。
「俺の妃は美雨しか考えられない。捨てたりするわけないだろ。この先もずっと君だけだ」
清嵐様の優しい手が私の頬に触れる。彼の癖だ。
「愛している」そう言って清嵐様は私に静かに口づけをした。




