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箱庭シンドローム  作者: 彩音
1章 空白の記憶~Diary~
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第一章 空白の記憶~Diary~ 5話

わたしがロボットの元へ向う途中、ロビンさんとトルーテさんに会いました。



「あっ!マグノリアちゃん!無事だったのね!」



「トルーテさん!ロビンさんも無事だったんですね!」



わたしは、二人との再会を喜びました。



「アレクサンダーさんは?」



「それが・・・あいつは俺が倒すと言って・・・走り出しちゃったんです。」



「あー・・・。なるほど・・・。

あの人の悪いクセだよ・・・相手の力量も確かめずに飛び出すんだから・・・」



ロビンさんは何やら頭を抱えてぶつぶつと言って、



「トルーテさん、マグノリアちゃん。

あたしは、これから、アレクサンダーさんの応援に向かいます。だから、二人で街の外に逃げて下さい。」



と、真面目な顔であたしたちに言いました。



「ロビンさん、わたしも連れて行って下さい!

アレクサンダーさんが心配なんです!」



「ちょっと、そんなこと言わないでよ!

何かあったら責任持てないし・・・そんなの無理だよ。」



ロビンさんは強く首を振りました。



「マグノリアちゃん、ここはロビンちゃんに任せて、あたしたちはにげましょう?」



トルーテさんもわたしの腕を掴んで、引っ張ろうとします。




その時、





「大変、大変!何カ近ヅイテクルよ!」



と、肩の上でトミーが騒ぎます。



「ぐるるるる・・・・」



獰猛な鳴き声が後ろから聞こました。



わたしたちは恐る、恐る、後ろを振り向きました。



獣です。タウロスのような二足歩行の獣がぽたぽたと涎を垂らしながらわたしたちを見ていました。



「な、なんですか・・・あれ・・・」



「・・・よく分からないけど、少なくとも、僕たちを食べようとしているね。あれ。」



「た、食べる!?」



確かに、獣の口からはどはどはと涎が垂れているし、なんとなく、物欲しそうな目つきをしている気がします。



「二人とも、逃げて!ここは僕が!」



ロビンさんが、あたし達の前に立って、指で魔方陣を書き、そこから杖を取り出しました。


わたしとトルーテさんは、後ろを振り向いて、全速力で逃げようとしました。



「助けて下さい!」



わたしたちが後ろを向いて、走ろうとした時、真っ正面から子供を連れた女の人が走ってきました。



その後ろにはあの獣がいます。



「ロビンさん!後ろからも獣が来てます!女の人が追いかけられてますよ!」



「はああ!?ちょっと待って!今魔方陣書いているから!」



しかし、ロビンさんが魔方陣を書いている間にも獣はじりじりと距離を縮めてきます。



「あっ!」



その時、子供がつまづいて転びました。



「リール!」




女の人が子供の上に覆い被さります。

獣は女の人たちのすぐそばまで迫っていて、今にも襲いかかりそうです。





「お願い!獣さん、止まって下さい!」





わたしがそう叫ぶと、なんと、全ての獣の動作が止まりました。




「うそ・・・・止まった?」




獣は石になったみたいにそこからピクリとも動きません。






そこにいる誰もが、今の状況を理解できずにしばらくの静寂が訪れました。






「・・・ねえ、マグノリアちゃん、今の・・・・言霊なの?」






トルーテさんが真っ青な顔をして、わたしの顔を見ながら言いました。




「言霊?」



何のことでしょう。聞き覚えのない言葉です。



「あなた・・・言霊使いだったのね!この獣も全部、貴方が仕組んだんでしょう!?」



女の人がわたしを睨みつけながらヒステリックに叫びます。



「そんな・・・わたしは、ただ・・・」



「言い訳なんか聞きたくないわ!

そうやって、私たちを騙そうとしているんでしょう!?そんなんでしょう!?」





どうして。




どうして、そんなひどいことを言うんですか?





わたしはただ・・・助けたかっただけなのに。





「あのロボットだって!全部、全部、あんたのせいなんでしょう!?

そうやって、私たちを殺そうとしたって、そうはいかないんだから!」




女の人はヒステリックに叫び続けます。




わたしを見るその顔は鬼のような形相で、わたしをとても憎んでいるような顔です。





どうして?助けたのに・・・・




こんなことを言われなければいけないんですか?






「そのくらいにして下さい。」





ロビンさんの冷静な声で、女の人のヒステリックな叫びは収まりました。

ロビンさんは魔方陣を書き終えて、女の人の後ろにいた獣を火の魔法で焼きます。




「・・・トルーテさん、彼女を連れて街の外に逃げて下さい。

マグノリアちゃんは、僕が預かります。」



「・・・分かったわ。」



そう言って、トルーテさんはわたしに目を合わせてくれないまま、女の人と去っていきました。





「さて・・・・と。マグノリアちゃん、トミーを貸してくれる?」



「あ、はい。」



わたしは、ロビンさんにトミーを渡しました。

ロビンさんはトミーに何かを呟いて、



「アレクサンダーさんまで。」



と言って、トミーを羽ばたかせます。

トミーはロボットのいる方面に向かって飛んでいきました。



「言霊っていうのはね・・・・魔法の一種なんだ。」



と、ロビンさんは真面目な顔で静かに語りはじめました。



「魔法ってさ、発動するには何か「きっかけ」作りが必要なんだ。


僕で言えば魔方陣、あとは呪文とかかな・・・。

その「きっかけ」が「言葉」なのが、「言霊」という魔法なんだ。


「言霊」は全ての魔法のはじまりと言われていて・・

魔王がこの世界にきた200年以上前からある世界最古の魔法なんだ。

だけどさ・・・「言葉」が「きっかけ」となっているからすごく手軽な反面、それなりの「危険」があって・・・


例えば、極端な話、「貴方死んで」という言葉で魔法を発動させると本当にその人は死んでしまうんだ。

だから、魔王は「言霊」を警戒して「言霊」を使う魔法使いを殺しまくった・・・.

その時に「言霊使い」だけじゃなくて、その家族や周りの人も一緒に殺していたせいか、

「言霊使い」は恐れられるようになったんだ。


今ではどの国も「言霊使い」を恐れていて・・・

もう「言霊」を使える人はほとんどいないんだけど、見つけ次第、捕まえて処刑しているんだ。」



「し、処刑って・・・わたしも、ですか?」



「まあ、騎士や警察に捕まればそうなるだろうね。


でも、大丈夫。


そうはさせないよ。だって、ノー村の事件を知っているのはマグノリアちゃんだけだから・・・」



ロビンさんは、決意を込めた顔で力強くうなづきました。




―――ごめんなさい。




ロビンさんも、アレクサンダーさんも・・・わたしの記憶に期待しているのは分かります。




でも、思い出したくないんです。




それに、処刑されてしまうのも嫌なんです。




なんだか、ロビンさんやアレクサンダーさんを裏切っているようで・・・心が痛みます。





それでも、わたしは―――





「いいかい?これから、僕が言うことをよく聞いて。


僕はここで、少し・・・騎士や警察が来た時の為に時間工作の仕掛けをする。

君は、アレクサンダーさんの元に行って合流するんだ。

ただ、その間にいくつかやって欲しいことがあるんだけど・・頼まれてくれるかな?」



「はい。」



わたしは神妙にうなづきました。




仕方ありません。




わたしは、やるしかないのです。




そうでないと・・・わたしは処刑されてしまうから。





少しでも長くここにいるためにも。





アレクサンダーさんの隣にいるためにも。





やらなくてはいけないのです。





-----------



トミーの録音を聞いた俺は、深くため息をついた。



「・・・・あー、マジかよ。」



面倒くさい。



本当に面倒なことに巻き込まれた。



そういえば、あの時・・・俺があいつに服を買ったとき、

あいつはやけに白いワンピースを汚さないと強調していた。



まさか、あの時言霊を使っていたなんて・・・分かるはずがない。



俺は、トミーにロビンの元に戻るように伝えて、またため息をつく。



原因不明の爆発からはじまり、ロボットが出て来て、

しかもわけわからない獣がたくさん出てきて、

なんだか知らないがそいつらが一斉に動きが止まり、

今度はマグノリアが言霊使いという事実が分かる。



イベント多すぎだろ、これ。



色々ありすぎて頭がついてこれなそうだ。



俺は、一旦頭をリセットして、次にやるべきことだけを考える。




―――とりあえず、面倒なことはあとだ。



マグノリアのことは、ロビンがなんとかするだろう。



―――それなら、俺がすることはただ一つ。



この混乱を作った人物を探し、倒すこと。



やるべきことさえ分かれば、後は勝手に頭がそれをやり遂げる方法を考えてくれる。




まずは、あのどでかいロボットか。


さっきから、奇妙なことにロボットは同じ所しか壊してない。

つまり、ずっと同じことを繰り返しているのだ。



その意図は分からないが・・・もしかしたら、操縦者は近くにはいないのかもしれない。


・・・もしくは、近くにいてもロボットの方に気を回せないか。


それとも、あの動きは罠なのか。



色々な可能性が考えられるが、とにかく、行って見ないことには話にならない。


幸い、ロボットまであと少しの距離だ。





俺は、大きく深呼吸をしてロボットに向かって走り出した。




俺が、ロボットのいる工業団地地帯に到着しても、相変わらずロボットは同じ動きをしていた。

瓦礫の山をただひたすら叩いている光景はなんだか奇妙なものがある。



俺は、まず、周囲の人の気配を探る。



―――確かに一人、誰かはいる。



だけど、俺には気付いてなさそうな動きをしている。



だとしたら―――今がチャンスか。



俺は、剣を取り出し、ロボットをよく観察する。



ずいぶん古い形のロボットだ。

この国はロボット工学が発展していて、この手のでかいロボットを作るとき、こんなにモーターの音はでかくない。

それに、装甲もなんだか安っぽい。所々ぼこぼこに凹んでいる。



つまり、これは、ロボット技師ではなく、素人が寄せ集めのパーツで作った可能性が高い・・・ということだ。




それならば。




俺は、ジャンプをして、ロボットを踏み台にして、ロボットの顔付近までよじ登る。



剣で頭を思いっきり叩くと、予想通り、簡単に装甲が壊れ、中身が見えた。

もう一度剣を振り下ろし、中身をぶち壊す。



それだけで、ロボットの動きは止まり、ロボットは足元から崩れ落ちた。



「・・・やっぱり、大したことないな。」



だけど、この事件を仕組んだやつはこんな脆いロボットだけしか用意していないのだろうか?



―――たぶん、これは「前座」だ。



きっと、もっと力のある奴が出て来るだろう。

そのとき、後ろから拍手の音が聞こえた。

俺は、後ろを振り向くとクロークが手を叩いて、満面の笑みでこちらを見ている。



「さすがだよ、こんな大きなロボットを一振りで倒すなんて・・・「勇者様」は違うなぁ。」



やたらと鼻につくような言い方が気になった。




・・・こいつ、こういうキャラだっけ。



「無事だったのか。おい、お前、この付近に誰かいなかったか?」



「ううん?僕だけだよ。人なんて皆逃げたんじゃないかなぁ・・・・」



確かに人の気配を探しても、周辺には一人分・・・つまり、こいつの気配しかない。



「・・・・おかしいな。黒幕がいると思ったんだが・・・・」



10年前、魔王を倒したことで、魔王率いるモンスターや悪魔軍も消滅したはずだ。

だから、この世界には今の所、外部からきた侵略者なんていないはずなんだが・・・・



それに・・・・・



さっきから、クロークから微妙に殺気を感じている。

満面の笑みで俺を褒め称える奴は・・・・なんとなく、狂気をまとっているように見える。




・・・俺の、気のせい・・・・だよな?




「・・なあ。まさか・・・・お前がやったんじゃないか?」



「へっ?何を?」



「このロボットとか、あと、変な獣とか・・・・」



あははは!と声を出してクロークは笑った。



「面白いね!僕が黒幕?最高だよ!・・・で、証拠はあるのかな?」



やっぱり、何かがおかしい。



だって、こいつはいつも俺たちの後ろで静かに微笑んでいて・・

いつもなら、声を出して笑うなんてほとんどなかったはずだ。




証拠なんて、ない・・・・





こいつが黒幕なんて、信じたくない・・・・




だってクロークはいつだって、医者になって人を救うことを夢見ていたんだ。




どんなに俺がちょっかい出しても、いつだって、穏やかな笑みで流していた奴なんだ。

それでいて、困っている人を絶対に放っておけなかった・・・優しい奴なんだ。





でも・・・・それでも・・・・






「・・・・やっぱり、お前・・・。おかしいって。

だって、人を傷つけることをあんなに嫌っていたお前なのに・・・・



どうして今、殺気を纏いながら笑っているんだ?」




クロークが、一瞬だけ真顔に戻り、ニヤリと笑った。





「ふうん・・・・。さすが「勇者様」・・・。殺意が分かるなんて。」





「殺意だけじゃない。その、勇者様という言葉を言うときに憎しみが詰まっている。

俺への、憎しみが・・・。

いつから、お前はそんな風になったんだ?」





あははは!と狂ったようにクロークは笑い続ける。

その笑い声はどこまでも明るく、憎しみと殺意と狂気に満ちている。



「気づいてなかったの?

僕はずっと・・・アレクのことを疎んでいたんだ。君は、気づいてなかったようだけどね。」




「嘘だろ・・・・?」




「まあ、当たり前だよね。隠していたんだから。

・・・いや、感情を隠せるくらいの小さな思いだった、というべきか。

とにかく、ずっと僕は劣等感と羨望と嫉妬と共に生きてきたんだ。」




誰か、この茶番を嘘だと言って欲しい。





あの優しかったこいつが・・・・





ずっと、ガキの頃から一緒だったこいつが・・・・こんなことを言うなんて。





「その絶望に染まった顔・・・最高だよ!

その顔を見るためだけに僕はこの時を待っていたんだ!」



クロークは歓喜の表情で狂ったように笑い続けた。




しばらく、壊れたように笑い続けていた。





「・・・さて、と。ネタばらしもこのくらいにして・・・お客さんが来たようだ。」





―――お客さん?誰のことだ?




俺は、最初、誰のことか分からなかった。



だけど、そう・・・こんな状況でここにこれるのはあいつくらいだと、よく考えれば分かったはずなのに。




地平線の向こうから、誰かが走ってくる。





その影はどんどん大きくなり、姿を見せてくる。





「アレクサンダーさん!」




その影―――マグノリアは、声を張り上げて走ってくる。




「来るな!逃げろ!」




俺は、ほとんど反射的に声を張り上げた―――





--------





ようやく、やっと、アレクサンダーさんの元までこれました。


ここまでずっと走りっばなしだったので、

わたしの体はへとへとでしたが、人の影を見つめた瞬間、走るスピードが自然と上がります。


影はどんどん近づいて行き、ついにアレクサンダーさんの姿が見えました。

アレクサンダーさんは何故かクロークさんと一緒にいました。


―――クロークさんと?どうして?


わたしはここで、何でクロークさんがいるのか分からずに首をかしげました。


まあ、きっと、けが人とかを直していたんでしょう。

わたしは、大きく息を吸い込んで、声を吐き出しました。



「アレクサンダーさん!」



アレクサンダーさんは、それに対してやけに慌てて大声を張り上げます。



「来るな!逃げろ!」





・・・・逃げろ?




何でそんなことを言うのでしょうか。

だって、クロークさんは味方なのに。



わたしは言葉の意味が分からずにただ唖然とします。




次の瞬間のことでした。





一瞬でクロークさんがわたしの元へと移動し、わたしの腕を掴み、羽交い締めにしました。



・・・アレクサンダーさんたちとはかなりの距離。

とてもではありませんが、人が一瞬で移動できる距離ではありません。



何が起こったのか、把握できてないわたし達をクロークさんはあざ笑うかのように、高い声で笑いました。



「ついにこの時が、来たんだ!

アレクをこの手で!葬り去る時が!

さあさあ!この女の命が惜しければ、武器を捨てろ!」




クロークさんは、これ見よがしにわたしに真っ赤に染まったナイフを突きつけました。





―――そのナイフは、わたしがノー村で見た特徴的な柄のナイフによく似ていました。




END


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