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箱庭シンドローム  作者: 彩音
1章 空白の記憶~Diary~
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第一章 空白の記憶~Diary~ 4話

魔法都市、ヘブンズセブン。



空中に建物が浮いていたり、メルヘンチックな家が並んでいたり・・・

相変わらずこの町はおかしな所だらけだ。

まるで、絵本の世界をそのまま実現したみたい・・・と言えば聞こえはいいようだが、

俺は大人なので、全てが狂ってしまっているように見える。



中でも俺の頭を悩ますのが、この知り合いの家だ。



一言で言えば、お菓子の家。

こう言うとガキは喜ぶかもしれねーが、俺は甘いものは嫌いだ。

こんな甘い匂いのする家に住むなんて、正気の沙汰ではないと思う。



俺は、インターホンを鳴らす。



「はーい。」



と、すぐにドアが会いて、美人がでてきた。


空のような色の青い髪、綺麗な碧とグリーンと左右違う色の目、

はちきれんばかりの胸に、きゅっと閉まったウエスト、さらにすらりと伸びた足。


人はこういう人のことを「美人でスタイルがいい」と言うのだろう。



「あ、ダーリン!待っていたわよ!」



そいつは、俺の元に駆け寄り、俺の胸に飛び込もうとした所で―――突き飛ばしてやった。



「いったーい!ちょっとなにするのよ!」



尻餅をつきながら、女は俺のことを睨んでくる。



「なにするんだよ、はこっちのセリフだ。お前、男だろう。いつから女になったんだ?」



そう、どこからどう見ても美人にしか見えないこいつは―――

10年前、俺と一緒に戦った男の魔法使い、ロビンである。



「仕方ないでしょー?アレクサンダーさんも知っていると思うけど、

まだ男の魔法使いなんて認められてないんだから。男だってバレたら即処刑台行きなんだもん。」



ロビンは頬を膨らませながら、玄関のドアを閉めて言った。



「お前でもか?街の人は受け入れてくれるだろう?」



「「街の人は」ね。お硬いお役人さんは分かってくれないのはよく知っているでしょ?

いくら国民に英雄呼ばわりされたって殺す時は殺す連中なんだって。」



「・・・・そうだったな。」



ロビンは、それに、と言いながら、魔方陣を書きはじめた。



「今時、魔法使い(男)なんて腐女子にしか喜んで貰えないでしょ?

その分、男の娘なら、男子も女子も皆喜んで貰えるからね。僕の人気も上がるっていう訳さ!」



「・・・その、男の娘ってなんだ。」



聞くからにおぞましいし、ロクな言葉でなさそうなだが、俺は、一応ロビンに聞いて見た。



「アレクサンダーさん、知らないの?今世間で流行っているのにー。」



知らないものは知らない。だいたい、そんな言葉を知っていて得をする機会なんてあるのだろうか。



・・・やっぱり、聞かなきゃ良かったな。



俺は、自分の言ったことに後悔しつつ、ソファーに座りタバコの火をつける。


魔方陣を書き終えたロビンは、魔方陣の中へと入る。



ぽんっという音をたてて、煙が巻き起こる。



しばらくして、煙が晴れるとそこには美女姿から、青年の姿へと変わったロビンがいた。



「それで・・・僕を訪ねてきたというのは・・・やっぱり、ノー村の件?」



「・・・・ああ。」



ロビンはやっぱり、と呟きながら俺の真正面にあるソファーへと座った。



「・・・シーナさんも・・・死んだの?」



「・・・ああ。」




ロビンはしばらく目を伏せて何も言わなかった。




俺もタバコを黙々とふかす。





二人とも、何も言わずにしばらく時間だけがすぎた。





「・・・・・そっか。仲間がいなくなるのは悲しいね・・・・」




しばらくして、ロビンが重い口を開いた。



「落ち込んでいる場合でもねーよ。俺たちは犯人を探さなきゃいけないんだから。」



「・・・そうだね。ちゃんと決着をつけなきゃいけないよね。」



うん、と言いながら、ロビンは拳を握った。



「それで、僕にできることってある?」



俺は、懐からナイフを取り出した。


ノー村で見つけた犯人の唯一の手がかり、特徴的な柄のナイフだ。



「これ、犯人が残したものだと思われるやつだ。何か分かるか?」




俺は、ロビンの顔を見る。




ロビンは真っ青な顔をしていた。




「こ、このナイフ・・・どうしてこんなものがここに・・・・」




やっぱりな―――。



どうやら、自分が思っていた悪い予感が当たってしまったようだ。

あの現場に残っていたこいつは、相当曰く付きのものらしい。



「これ・・・妖刀の一種だよ。名前は「デス」。

このナイフを手にした物は悪魔に体を持っとられ、

死ぬまで人を殺し続けるという言い伝えがあるナイフなんだ・・・。


そんなものが、どうしてこんな所に・・・


っていうか、アレクサンダーさんは平気なの?」



やけに慌てた様子でロビンは俺の様子を伺う。



そんなにヤバイシロモノだったのか、これ。



「とりあえず、いまの所は何ともねーよ。」



「良かった。このナイフ・・・手にした人皆が豹変しているって伝えられているから・・・。

すごい危険なモノだから、あんまり長く持ってない方がいいと思うよ!」



「いや、でも、これが犯人の唯一の手がかりだし・・・警察に任せるわけにもいかないだろ。」



ノー村の事件は、報道はされているが、警察は全く動いていない。



・・・まあ、この国にいる以上、警察が動くことを期待してはいけないのだ。

あいつらは、自分達が不利になることだけしか働かねーから。



「ああっ!・・・そうだったー!

えーっと・・・・それならフリージアに見てもらおうよ!」



ロビンはかつて、俺たちと一緒に戦ったフリージアの名前を出した。



フリージアは妖精だ。10年前、種族が違う俺たちに協力してくれて、随分助かった。



人の魔法技術は進化してきているとはいえ、人が使える魔法はまだまだ数が少なく、できることも少ない。

妖精族は魔法技術がかなり発展している種族で、本当に魔法で何でもできるレベルの魔法を扱う。

その中でもフリージアは実力派で・・・あいつがいなかったら、

たぶん、俺たちはここにはいない、そのくらい頑張ってくれたやつだ。



「この妖刀の力を封じるのは、僕じゃ力不足だし、

それに、魔法で持主を探すなんてことも出来ないんだ。だから、フリージアに協力して貰おうよ!」



「・・・まあ、お前が言うなら。」



「よしっ!決まりっ!それじゃあ、僕も一緒に着いて行くよ!」



「・・・・ちょっと待て。何でお前まで一緒に来るんだ。」



フリージアの国なら道も分かるし、正直、来てもらってもやることないと思うが・・・・



「だってー、僕だってシーナさんの為に真相を明らかにしたいもん!

仲間の死で燃えるのは物語の王道でしょ?

ここで残された仲間が一致団結して悪を倒すのが物語のセオリーでしょ?

だったら、僕も着いて行くのが普通じゃん!」



・・・・相変わらずこいつは訳の分からないことをいう。



本当にこいつは・・・今年で24になるというのに、10年前と変わらないんだな。



「はいはい。分かりましたよ。どこだってついて行けばいいだろ。」



「やったー!アレクサンダーさんは昔と違って物分かりがいいねっ!」



俺が投げやり気味に答えるとロビンは両手を上げて喜んだ。



・・・別に歓迎しているわけではない。反論するのが面倒なだけだが・・・


それを言うのも馬鹿らしいので黙っておく。



「そう言えば、お前、街から出られるのかよ。」



この街に住む魔法使いは自由に街を出られない。

政府がそう決めていて、確か、この街を出る時はそれなりの面倒な手続きが必要だったはずだ。



「あははっ。僕を誰だと思っているのさ!

この街一番の魔法使いだよ?そんな手続きなんて無視できるって。」



「・・・でも、確か、この家に定期的に政府の巡回が来るんだろう?

10年前は誤魔化せたが、今度はそうもいかないんじゃないか?」



この魔法都市は、政府によって厳しく監視させられている。


外出時の許可もそうだが、それを抜けても、魔法使いの家に直接政府の人が巡回に来るのだ。

「巡回」の時にいないと、その魔法使いは「脱走」したとみなされて、捕まえて処刑されてしまう。

10年前は街の人の協力で何とかなったが、今回もそれが通用するとは限らない。



「大丈夫、大丈夫。問題ないよ。だって・・・既に政府の人は僕に心を奪われているからね!」



と、ロビンはやけに妖艶な笑みで言った。



女みたいだった10年前と比べて背が伸びたし、

声も低くなり、随分男っぽくなったロビン。


それでも、ずっと「女」として暮らしてきたからか、やけに「女としての立ち回り」がうまい。



この笑みもそうだ。


ロビンは男の姿をしているし、男だと分かっていても惹かれてしまうような魅力がある。



こんなこと、10年前にはなかったんだけどな。・・・全く、変な所も成長していやがるんだから・・・・。



俺は、また女に変身するロビンに気付かれないように、こっそりため息をついた。



---------------------



今日はアレクサンダーさんが戻ってくる日です。


もうずっと楽しみで、楽しみで・・・・昨日の夜は全然眠れませんでした。

今日も朝5時から駅でアレクサンダーさんを待ってます。



お昼前ごろ、一本の電車が駅に到着しました。



あ、いた。



すぐにわたしは赤茶色の髪を見つけます。

アレクサンダーさんは背が高いので、とても見つけやすいですね。



「アレクサンダーさーん!」



わたしは手を振って、彼に向かって走って行きます。

アレクサンダーさんがわたしに気がついて、迎えに来ているのかよって顔をしました。



「・・・アレクサンダーさん!お久しぶりです!」



「・・・あー、お前もご苦労なことだな。」



いつも通り、アレクサンダーは面倒くさそうに返事をしました。

ふと、わたしは隣にすごい美人の女の人がいることに気づきます。



「貴方がマグノリアちゃん?アレクサンダーさんから話を聞いているわ。あたしはロビンよ。」



と、彼女はウインクをして挨拶をしてくれました。



「ロビンさんって・・・確か、魔法使いのロビンさんですか?」



「うわぁ!あたしのこと知っていたの?嬉しいー!宜しくね!マグノリアちゃん!」



ロビンさんは手を叩いて喜んでくれました。

とてもテンションが高いお方のようです。



「でも、どうして、ロビンさんがここに?確か、魔法都市に住んでいるんじゃ・・・」



「ああ、あたしたちね、明日妖精の国に行こうと思って。」



「妖精の国?」



「そうよー。この世界には妖精がいてね、妖精の国っていうのがあるのよ。」



「へぇー、そうなんですね・・・」



「そこに10年前あたしたちと戦った仲間がいるから、会ってくるのよ。」



「そうなんですね!わたしも連れて行って貰えるんですか?」



わたしは、期待をこめてアレクサンダーさんを見ます。



「いや、連れていかないぞ。」



「ええええっ!何でですか!」



「あー、この国の外にはね、盗賊がたくさんいるのよー。

だから、女の子を連れて行くのはちょっと危険なのよ。ごめんね。」



ロビンさんが申し訳なさそうに謝りました。



「女の子って、ロビンさんだって女じゃないですか!」



「あー、それなんだけどさ」



ロビンさんが少し言いにくそうに頭をかいて、耳打ちをしました。




「僕、実は男なんだよね。」




「ええええええっ!おと・・・・ふぐっ!」



ロビンさんは驚くわたしの口を手で塞ぎます。



「おっと。これはナイショよ。ちゃんと説明するから大きな声を出さないで、ね?」



そう言って優しく微笑んだロビンさんはとても綺麗で、男だということがますます信じられなくなります。



こんなに綺麗でスタイルもいい人が男?



そんなのありえるんでしょうか?




----------



トルーテさんの宿屋でわたしはロビンさんが男だということ、何故女に変装しているか・・・という話を聞きました。



正直、今でも信じられません。あのロビンさんが男なんて。



でも、今わたしの目の前にいるかっこいい男の人は間違いなくロビンさんで・・・・頭が混乱しそうです。




「どう、信じてくれたかなー?」



ロビンさんは、いたずらっぽくわたしに笑いかけます。



「は、はい・・・、なんとか・・・」



「良かったー。ドン引きされるかと思ったけど、

受け入れてくれるなんてマグノリアちゃんはいい子だね。

そんないい子にはプレゼントを上げよう!」



そう言いながら、ロビンさんは持ってきた大きいバックの中を物色し、

鳥籠に入った鳥型の機械を取り出しました。



「それは・・・何ですか?」



「ふふっ。僕の最新作だよ!ロボット工学で有名なベトット博士とのコラボなんだー。すごいでしょ?」



ロビンさんは、鳥籠から鳥の機械を出して、何やらいじりながら言いました。



すごいでしょ?・・・と言われても、イマイチわたしにはそのスゴさが分かりません。

まず、そのペトットさんという人を知りませんし・・・・



「このロボットはね、AIっていう機械が入っていて・・・まあ、簡単に言うと「自分」を持っているんだよね。

簡単にだけど会話ができるんだ。

でも、こいつの一番の目玉は、自分の声を「録音」して、遠く離れた場所に「配達」すること。」



「録音・・・ですか?」



「そうそう。この機械に録音させておいて、いつでもどこでも録音した声を再生できるんだ。

それから、この魔法陣の紙を持っていれば、どこにいてもこいつが録音した声を配達してくれるんだよ。」



「えーっと、つまり、「郵便」みたいなものですか?」



「そうそう。それに近いね。

だけど、手紙を出すにしてもどこかの街に行かないと受け取れないでしょ?

でも、こいつなら、山だろうが、海だろうが、この紙を持っていればちゃんと届けてくれるってこと。」



「うわぁ!すごいですね!

これなら、ロビンさんやアレクサンダーさんがどこにいても連絡が取れますね!」



「そういうこと!すごいでしょー?・・・よしっ、設定が終わったよ。」



ロビンさんがそう言うと、鳥の機械の目がパチっとあいて、ぱたぱたと羽ばたきました。



「コンニチハ!ボクハとみー!宜シクね!」



トミーはわたしに向ってぺこりとお辞儀をして、挨拶をしてくれました。



「きゃあ!可愛いですね!えっと、わたしはマグノリアです!」



「まぐのりあ、まぐのりあ・・・・覚エタ!まぐのりあ宜シク!」



「うわぁ!可愛いですー!」



「気に入ってもらったみたいで良かったよー。

はい、これ、トミーの魔法陣の紙。これをなくすとトミーはこれなくなるから気をつけてね。

この紙は僕とアレクサンダーさんが持っているから、好きな方に連絡してくれればいいよ。

あと、それから、これはトミーの使い方のマニュアル。後で読んでおくといいよ。」



ロビンさんはそう言って、魔法陣の書き込まれた紙とマニュアルの本を渡してくれました。

わたしはそれを大事にトルーテさんから貰った赤いポシェットに入れます。



「ありがとうございます!ロビンさん!」



わたしが、ロビンさんにお礼を言った時、ガチャっとドアが開いてアレクサンダーさんが出てきました。



「おーい、ロビン、もう終わったか?」



「あ、アレクサンダーさん!見てください!ロビンさんがくれたんですよー!」



わたしはアレクサンダーさんにトミーを見せて少し自慢をしてみました。



「あっそ。何でもいいからお前は早く記憶思い出せよ。」



・・・・とても冷たい反応です。ひどいです。



わたしががっくりと肩を落とすと、ロビンさんが見かねたのか、



「アレクサンダーさん!女の子には優しくしなきゃダメだよー。」



と、フォローを入れてくれました。



「優しくって言われてもな・・・」



と、アレクサンダーさんは難しい顔をして固まってしまいました。



「例えば、アレクサンダーさんもプレゼントをするとか・・・」



と、ロビンさんはそう言って、ウインクをしました。

きっと、これは、ロビンさんの助け舟なんですね!



「なんで俺がこいつに・・・」



と、アレクサンダーさんはとても不満そうですが、



「ほらほら!明日の準備なら僕が済ませておくから!

どうせしばらく帰ってこれないんだし、何か餞別の品でも買って来なよ!」



と、ロビンさんがそう押し切って、わたしとアレクサンダーさんとトミーをドアの外に出しました。



「あいつ・・・・覚えていろよ。」



閉まるドアを見て、アレクサンダーさんは深々とため息をつき、タバコを取り出して、吸い始めます。



「・・・で、何が欲しいんだ?言っておくが、あまり高いのは買わねーぞ。」



と、かなり面倒くさそうにアレクサンダーは言いました。



これはチャンスです。


いままでアレクサンダーさんはわたしに見向きもしてくれませんでしたが、

振り向かせるチャンスがやってきました。



ロビンさん、ありがとう。



わたしはロビンさんに心の中でお礼を言い、



「それなら、日記が欲しいです!」



と言いました。



「日記?何で日記なんだ?」



「ほら、わたしって記憶を無くしているじゃないですか!

だから、また記憶無くしたりとか・・・

記憶を思い出したら記憶を無くした間のことは忘れているとかあるかもしれないじゃないですか!

だから、今のわたしを残そうと思って・・・」



「・・・お前なあ。今の記憶の心配より無くした記憶の心配をしろよ。」



と、アレクサンダーさんはとても呆れたようにタバコの煙を吐き出し、



「行くぞ。」



と、一言かけて、歩き出しました。




いつも通り、隣に歩くわたしの身を考えない自分勝手なペース。




ふふっ、なんかこれも久しぶりですね。




わたしは少し微笑みながら、一生懸命アレクサンダーさんを追いかけました。



---------------------



ノルディックタウンの商店街の中央には、屋台がたくさん並んでます。


ここは、蚤の市と言われていて、

主にアンティーク系の露天商が立ち並ぶノルディックタウンの名所の一つです。


そこの一角に、日記屋さんがありました。


日記屋さんというのは、名前の通り、日記のみを扱うお店で・・・

くたびれた感じのお婆さんが流行のデザインの日記や、

使い古したようなデザインの日記を並べて店を構えてます。



「どれがいいんだ?」



店先でアレクサンダーさんに聞かれ、わたしは店の中の日記を見渡しました。

どれも、これも、素敵なデザインでどれにしようか迷いますが、

シンプルで少しアンティークなデザインの日記帳を手にとり、



「これがいいです。」



と、アレクサンダーさんに渡しました。



「ふーん。」



と、アレクサンダーさんは一瞥して、赤い万年筆と一緒に会計をしました。



「ほらよ。」



「アレクサンダーさん、この万年筆・・・・」



「書くもんがねーと、日記書けないだろ?」



アレクサンダーさんは相変わらず無愛想で、タバコをぷかぷかとふかしてます。

でも、それでも、わたしはとっても嬉しいんです。




日記だけで良かったのに、万年筆もプレゼントしてくれるなんて。




どうしよう。ただ、それだけのことなのに。

こんなにも心が満ちて、幸せな気分になれるんですね。







わたしはその時、幸せの絶頂にいました。







その時、わたしが目覚めてから、一番の幸せを感じていたんです。





でも、わたしは知りませんでした。





この幸せが長くは続かないことを。




幸せの後には必ず落とし穴があることを。





「おい、行くぞ。」



わたしが余韻に浸っていると、アレクサンダーさんはホテルに向って歩きはじめました。



「あ、待って下さいよー。」



わたしは日記と万年筆をポシェットにいれて、小走りでアレクサンダーを追いかけます。





その時でした。






ドオオオオン!






ものすごい地響きと共に地面が揺れました。




「きゃっ!」



わたしは、バランスを崩してその場に座り込みます。



「おい、大丈夫か?」



アレクサンダーさんが、慌ててわたしの元に駆け寄りました。



「あ、はい・・・。今のは・・・・地震ですか?」



「違ウヨ!地震ジャない!」



「トミー、どうしたの?」



わたしは、地鳴りと同時に空へ羽ばたいていたトミーを見上げました。



「工場ガ、爆発シタンダ!」



「ええっ!!」



わたしとアレクサンダーさんは慌てて、トミーの見ている方向をみました。



建物の影でよく分かりませんが、空が赤くて・・・黒い煙がもくもくと空を覆ってます。


工場が爆発したのかどうかは分かりませんが、何やらまずいことが起こっているようです。





ドオオオン。




また、すごい地響きと共に地面が揺れました。



その時、わたしはとんでもないものを見ました。




なんと、とても大きなロボットが、地面から出てきたのです。

どのくらい大きいかというと、普通に顔が雲の上にあるくらい大きいです。





「な、な、何ですか・・・・?あれ?」



ロボットは、いきなり拳を下ろし、建物を壊していきます。



いとも簡単そうに、ロボットは、次々と建物を壊しました。





「おい、マグノリア、お前は街の外に逃げろ!」



それを見たアレクサンダーさんは、わたしに向かって大きな声で指示をしました。



「でも、アレクサンダーさんは?」



「俺はあいつを止めて来る。くれぐれもついて来るなよ!」



「あっ!アレクサンダーさん!」



そう言い残して、アレクサンダーさんはロボットの方に走っていきました。





止めるって・・・あんな人の何十倍の大きさもあるロボットになんてきっと、勝てっこありません。




いくらアレクサンダーさんが10年前、魔王を倒したと言っても・・・

あんなに軽く建物を壊しているロボットに対抗できるのでしょうか?



「・・・まぐのりあ、逃ゲナイの?」



トミーが心配そうにわたしの顔を除きこみます。




本当は・・・逃げたい。




わたしはただの普通の女の子だし、あんなロボットに対抗できるような力はありません。




いとも簡単に建物を破壊するロボットを見て・・・足が震えていて・・・

とてもじゃないけど、ここを動けそうにもありません。





でも、アレクサンダーさんは、あそこに行きました。




勝てるとか、負けるとか・・・そういう迷いは一切なく、ただ一目散にロボットの元へ走っていきました。





自分が止めてみせる、という言葉を残して。




実際、アレクサンダーさんにはそれだけの力があるし、きっと、あのロボットだってやつっけてくれるでしょう。






でも







どうしてなんでしょう。





何故か・・・・とても嫌な予感がするんです。





アレクサンダーさんは強いし、誰にも・・・何者にも負けないはずです。





だって、世界を牛耳っていた魔王だって倒したんです。

誰にも倒せないと言われた魔王を倒した人なんです。






だから、きっと、大丈夫なはずなんです。






でも―――





いくら大丈夫と言っても、胸の不安は消えなくて・・・むしろ、どんどん不安になっていくばかりなんです。







もし、アレクサンダーさんを失ったら、わたしは何をして生きればいいのでしょうか?






分からない。考えたくない。





そんな人生なんて、絶対に嫌です。





だから・・・・・。




「トミー、行きますよ。」





「ドコニ?」





「アレクサンダーさんの元です。」




「エエッ!!まじデ?」




「まじです!!だから、トミー。わたしに勇気を下さい。」




トミーは少しだけわたしの顔をじっと見てました。




「とみー、まぐのりあの力にナル!」



そう言って、トミーはわたしの肩にとまります。



わたしは深く深呼吸をして、走り出しました。





きっと、足でまといになるかもしれないけど、それでも。




アレクサンダーさんの役に立ちたいから。




―――わたしは、アレクサンダーの元に行きます。






END


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