第六章 シーナの願い~Once again~ 3話
・・・どうして、あの時、「勇者」を殺せなかったのだろう。
確かに、アタシのナイフは急所を狙っていた。
だけど、刺す瞬間、一瞬だけためらいがあり、急所を微妙ずれてしまった。
・・まあ、あのまま放置しても死ぬだけなんだけど。
・・・どうにも解せない。どうしてアタシは・・・・一発で殺せなかったのかしら。
そんなことを考えながら、アタシはアジトでシャワーを浴びていた。
別に血をつけたままでも良かったが、「儀式」のためには身を清める必要があり、仕方なくシャワーを浴びている。
浴室から出て、体を吹き、先ほどまで着ていた白いワンピースに目をやる。
・・・・白い色なんて大っ嫌い。こんなの、破いてしまおうか。
アタシはワンピースに手をかけて、服を破こうとした。
・・・・でも、出来なかった。
どうしても、手に力が入らず、アタシはワンピースを床に叩きつけた。
・・・・なんで、出来ないのよ。
このワンピースは、マグノリアにとっては大事なものだけど、アタシには・・・関係ないのに。
なのに、このワンピースを手にすると、このワンピースを買ってもらった時の記憶が頭に浮かぶの。
・・・どうして。
「おーい、ソフィア。はじめるってよー。」
外から声が聞こえる。
・・・時間か。
アタシは儀式用の黒い服に着替えて、ワンピースは、悩んだ末にそっとハンガーにかけておいた。
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「遅かったですね。」
グーリーが少し怒ったような顔で睨む。
「女の着替えっていうのは手間取るもんなのよ。」
「・・・そうですか。」
「アタシのいない間に・・・すっかり準備が整ったってこと?」
「ええ・・・・・ようやく完成しましたよ。終焉を引き起こす「魔法」が・・・・。
全く、この世界のルールがややこしくて、少し時間がかかってしまいました。」
そう言って、グーリーは一枚の羊皮紙をアタシに渡す。
「あなたは、この言霊を歌い続ければいいのです。」
「・・・・あっそ。りょーかい。」
羊皮紙には、ぎっしりと、文字が書かれている。
・・・これを一字一句間違いなく読み上げるのか・・・と思うと少し気が重くなった。
だけど・・・グーリーを魔王にするのは、アタシの願い。
彼を魔王にするために・・・アタシは、全てをかけて、これまでやってきた。
・・・ようやく、その悲願が叶う。
そう、ずっと、ずっと・・・・アタシが望んできた結末がもうすぐ届くというのに・・・・
それなのに・・・・
どうして躊躇う気持ちがあるんだろう?
アタシの中にまだマグノリアがいるのだろうか。
・・・ううん、そんなこと、あるはずがないわ。
だって、あの子はアタシが殺したから。
それよりも・・・儀式に集中しないと・・・・
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「あれ?天気悪くなってきたね。」
ロビンが空を見上げながら、そう言った。
俺も空を見上げると、空は黒い雲で覆われている。今にも雨が降り出しそうだ。
「・・山の天気は変わりやすいと言うしねー。こりゃー、一雨くるかも。」
フリージアが、うっとおしそうに空を見上げて言った。
「・・・いえ、この雲・・・雨ではないようです。」
ワトリーが難しい顔をしながらそう言った。
「雪・・・なワケないよね。そんなに寒くないし。」
「・・・灰」
「えっ?」
「雲の中の成分は、黒い灰・・・ですね。」
ワトリーがそう言うのと同時に、黒い灰がはらり、はらり、と雲から降ってきた。
「・・・これは、まさか・・・終焉の預言にある灰?」
ワトリーが灰をとって、舐めた。
「・・この灰毒性があるようです。即効性ではありませんが・・・吸い続けると危険です。」
「・・・ちなみに、どのくらい危険なの?」
「そこまで脅威ではありません。人間だと・・・三年くらい吸い続けて、ようやく致死量に達するくらいです。
ただ、この灰が植物や水に吸収されると・・・灰が降らなくても、10年は毒性が残るようですね。」
「なるほど。僕たちの飲み水や食べ物に毒性が残ってしまったら、
「今」死ぬことはなくても、いずれは死んでしまう・・・ということか、」
ロビンが考え込みながら、そう言った。
「魔法で毒性を消せないのか?」
「簡単に言わないでよ、アレクサンダーさん・・・。
いくら僕が天才でも、新しい魔法を作るのって大変なんだからねっ!」
「あのさ、この灰について語るのはいいんだけどさ、あんたたち、大事な事を忘れていない?
もしこれが終焉のはじまりだとしたら、大地が燃えたり、海面が上昇したりするのよ。
そんな灰なんかにかまってられないわよ。」
フリージアが呆れたように俺たちを見る。
「確かに、そうだね。・・・・そうなる前に止めないと。」
「でも、どうやって止めるんだ?」
「この灰は自然に存在するものじゃないわ。
・・・たぶん、魔法で降らせているのよ。だから、妖精の森に戻れば・・・」
「あの、フリージアさん。」
フリージアの言葉を遮って、ワトリーが少しためらいがちに話しかけてきた。
フリージアがむっとした顔をしながら、ワトリーを睨む。
「・・・何よ。話の途中なんだけど。」
「えっと・・・その、妖精の森が・・・燃えているんですけど・・・・」
「へっ?」
俺たちは慌てて山の上から妖精の森を見下ろした。
そこは、黒い煙と赤い火に覆われていた。
どうして・・・いつの間に火が付いたんだ?
「大変!早く消さないと!」
フリージアは、森が燃えていることを確認するなり、妖精の森へ飛んで行ってしまった。
「あっ!フリージア!アレクサンダーさん!僕たちもフリージアを追おう!」
ロビンが杖で魔方陣を書き始める。
・・・吸い続けていれば死ぬ灰、妖精の森が燃えている事・・・・
ここまでは、預言の通り、ってことか・・・。
―――そう、これはまだ、地獄のはじまりに過ぎなかった。
俺たちはこの後、本当の地獄を見る事となる。
END




