第五章 預言の巫女~Sophia and Magnolia~ 4話
終わりは、突然やってきました。
「・・・ついに来たか。」
山の麓に隣の国の軍隊が集まってます。
ついに、この山にいるのがバレたのでしょうか。
それとも、調査の一環なのでしょうか。
・・・どちらにしても、この家を出る時が来たようです。
「ライモンド、どう?」
「・・・麓に降りる道は囲まれてますね。」
ライモンドが難しい顔で、そう言いました。
・・・道が塞がれているのなら、強硬突破しかないのですが・・・
わたしは、ちらっと子供を見ます。
わたしとライモンドだけならまだしも、子供を連れて逃げるのは、難しいかもしれません。
敵はかなりの数の部隊。もし、一気に攻め込まれたら、流石に対処できないでしょうから。
「俺も戦う!巫女様を守るよ!」
あの子は胸を張って、そう言いますが・・・
まだ弱い言霊しか使えないような子供では、とてもじゃないけど、大人の兵士には勝てないでしょう。
いっそ、見捨てられたら楽なのに・・・・
でも・・・・。
頭の中で祖母の姿を思い出します。
―――わたしは、あの人とは違います。あんなやつのやるようなことは、絶対にしません。
絶対に、見捨てない。守ってみせます。
最悪、「わたし」の力を使えば・・・なんとかなるでしょう。
「巫女様、南西方向が少し、人が少ないようです。そこから脱出しましょう。」
わたしたちは、うなづき、荷物をまとめ、麓を目指しました。
「まず、私が囮になりましょう。その隙に巫女様はユーリを連れて逃げてください。」
「ちょっと待って。それじゃあ、ライモンドはどうなるの。」
流石に人数が多すぎて一人だけで立ち向かうには数が多すぎます。
私たちが逃げてしまったら、ライモンドは・・・・
「大丈夫。隙を見て逃げますから。」
ライモンドはそう言って笑いました。
―――うそつき。
ライモンドの剣の腕はかなりのものだけど、ライモンドがどんなにうまくても、数には勝てない。
時間が経てば、ライモンドは殺されてしまうでしょう。
隙を見て逃げるなんて、囲まれてしまったら、逃げることも出来ないというのに。
それが分かっていて、ライモンドは囮になる、と言うのです。
わたしたちを守るために。
「いかせないわ。ライモンド。囮なんて許しません。」
「しかし・・・・」
「わたしは、もう、巫女ではありません。だから、守る必要などないんです。隣で共に戦います。」
ライモンドは、何か言いたそうな顔で、わたしを見ます。
彼は、真面目だから、国が滅んだ今でも、自分の職務をやり切ろうとしているのでしょう。
・・・国が滅んだのだから、国に縛られずに自由にすればいいのに。
まあ、そんな所も好きなんですけどね。
「巫女としての最後の命令です。異論は受け付けませんよ。」
「・・・・仕方ありませんね。巫女様を説得している暇もありませんし・・・
いいですか?危ないと思ったら逃げるんですよ。」
ライモンドはまだ何か言いたそうでしたが、諦めたかのように小さくため息をつきました。
「貴方は、わたしたちが道を作ったらすぐ逃げてください。」
「でも・・・俺も巫女様を守りたいんだ!」
「それなら、兵士が見えなくなった所でわたしに「テレパシー」で場所を教えて下さい。
わたしたちは、後からそこに向かいますから。
いいですか?安全な場所を確保するのも大事な仕事ですよ。
出来るだけ、外から見つけにくい場所を教えて下さい。」
「うん、分かった!」
あの子は笑顔でうなづきました。
・・・この純粋な笑顔を見ていると、罪悪感を感じるのは、どうしてなのでしょうか。
「では、巫女様、行きましょう。」
「ええ。」
わたしたちは、麓への道を降りはじめました。
作戦自体は、うまくいっていました。
軍隊は思ったより、弱く、あの子を逃がす事も、
わたしたちが軍隊をまくことも、とても簡単に物事が進んでいました。
後は、安全な場所にいるあの子と合流するだけ、それだけだったんです。
『巫女様!こっちにきちゃダメ!』
わたしたちが、安全な場所へと向かっている途中に、テレパシーで、あの子から通信が入りました。
「どうしたんですか?」
わたしもすぐさま言霊でテレパシーを飛ばします。
『こっちに兵士がきたんだ!』
「兵士?」
何故?どうして・・・もしかして、麓の方は罠だったのでしょうか。
「巫女様・・・何があったんですか?」
「どうやら、子供の所に兵士がきたみたいなの。」
「それは・・・まずいですね。急がないと・・・」
わたしたちは、指定された場所まで走りました。
しかし
「・・・・ぐっ。」
あの子に襲いかかっていた兵士を倒しましたが、時既に遅し。あの子は深い傷を負ってました。
「・・・どうですか?巫女様?」
「傷が深すぎるわ。残念だけど・・・。」
ライモンドは悲しそうに目を伏せました。
目の前のあの子は虫の息だというのに、わたしには、何の感情も湧いてきません。
ああ、やっと解放される時がきた、という気持ちだけです。
これで、やっと・・・わたしは、ライモンドと二人きりになれるのですね。
「み、こさま・・・・ごめん。」
あの子が苦しそうにしゃべりました。
「喋ってはいけません。・・・苦しいでしょう。」
「おれ、なにも・・・・できなかった。
お父さんが、死んじゃって・・・巫女様に・・・拾われて・・・恩、返し・・・したかったのに・・・・」
苦しそうな表情で、途切れ途切れになりながらも、あの子は一生懸命喋り続けます。
・・・傷の具合からしても、もう、半分意識がないようなものなのに。
どうして、そこまでして喋るんでしょう。
「みこ、さま・・・・ありがとう。おれ・・・たのし、かった・・・・」
あの子は、そう言って、笑いながら眠りにつきました。
・・・・もう、目覚めることはないでしょう。
ありがとうなんて、そんな、言葉。
―――わたしには、もらう資格なんて、ないんです。
だって、わたしは、自分のエゴの為に国を滅ぼす為に悪魔と契約を結び、あの騒動のきっかけを作りました。
ある意味では、この子の父親を殺したのは、わたしなのです。
この子の日常も、家族も、家も、全て奪った上に、
わたしは、いつもこの子にいなくなって欲しいって、殺してやろうかって、そう、思っていたんです。
そんなわたしに、苦しみながらも、あの子は、笑って、ありがとうという言葉をくれました。
―――わたしは、なんて事をしてしまったのでしょう。
ただ、ライモンドと一緒にいたいのなら、二人で手を取り合って逃げれば良かったのに。
どうして国まで滅ばせてしまったのだろう。
確かに、あの国には、いい思い出は、一つもありません。
身内も、関わった人もひどい人ばかりで、その人たちへの怨みは、今でも胸の中にあります。
だけど、それでも、たくさんの全く関係のない人達の幸せを奪っていい理由なんて、あるはずないのに。
それでいて、わたしは、幸せじゃないって文句ばっかり言って。
当たり前です。こんな罪を犯しておいて、のうのうと幸せになろうと思うなんて、なんて厚かましいのでしょう。
後悔も、懺悔も、全てが遅かった。
もう、わたしは、大きな罪を背負ってしまったから。
ああ、どこかで気づけたのなら・・・・わたしは、幸せになれていたのでしょうか。
名誉も、富も、何もいらなかったのに。
ライモンドが、隣にいてくれれば、それだけで良かったのに。
「巫女様、どうやら、お客さんがきているようです。」
あれから、どのくらいたったのでしょう。
ずっと黙っていたライモンドが、そう、呟きました。
彼の言葉の意味する事、それは、追加の部隊がきた、ということでしょう。
「・・・どのくらいいるの?」
「・・・・そうですね。100は越えているかと。」
いつの間に、わたしたちは囲まれていたのでしょうか。
100を越える軍勢。たった二人で相手をするには、かなり心もとありません。
・・・・普通に戦えば、わたしたちは、負けるでしょう。
(・・・・このままじゃ、ライモンドが死んじゃう。)
なんとか、ライモンドだけでも助けたい。
そうするには・・・
「お願いします。「わたし」の力を貸して。」
わたしは、「わたし」に語りかけた。
「えーっ。そんな事言われてもー。
貴方の命、まだ、ピンチじゃないじゃん。」
「わたし」は、わたしを嘲笑うかのように言いました。
「いいから!ライモンドを助けたいんです!」
「そんなこと言われてもー。この間の代償だって、払って貰ってないしー?」
「何でもしますから!お願いします!」
「あ、じゃー、ねっ、しばらくの間、身体かしてくれない?」
「分かりました。お願いします!」
その瞬間、わたしは、強烈に何か大きな強い力に引っ張られるような感触がありました。
気がついたら、わたしは、わたしの心の中にいました。
心の中から「わたし」が軍隊と戦っている所が見えました。
―――良かった。これで、ライモンドは、助かるんですね。
わたしが、安心して、ほっと胸を撫で下ろしたその瞬間
悪魔の攻撃が、ライモンドに当たりました。
「ライモンド!?」
ライモンドは、心臓から、大量の血を流して倒れました。
「いやああああ!」
わたしの視界が、霞み、意識が薄れて行きます。
「あっ、ごっめーん☆間違って攻撃しちゃった☆
まあ、でもしょうがないよねー。しばらく寝ていていいよー!」
悪魔の高笑いの声を聞きながら、わたしは、意識を失いました。
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そして、わたしが次に目覚めたのは、あれから何百年も経った、遠い未来の世界。
記憶を失った状態で、わたしは、目を覚ましました。
「マグノリア」として過ごした日々は、穏やかで、幸せでした。
おそらく、ライモンドの生まれ変わりであろうアレクサンダーさんも見れて、もう、わたしは、満足です。
ただ、一つだけ、心残りがあるとすれば、「わたし」の暴走を止められなかったことだけ。
・・・・このまま、世界は終焉へと向かうのでしょうか。
分かりません。・・・どちらにせよ、去りゆくわたしには、どうしようもないことです。
さあ、そろそろわたしは逝かなくては。
死者が集う世界へと。
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俺たちは、霧が晴れた後、マグノリアを探しにレインヘブン跡地へと来ていた。
トミーがマグノリアが、レインヘブンの城跡にいると言っていたので、手分けして城跡を探しているのだ。
「・・・ったく、あいつ、こんな所で何をしているんだ。」
城は、何百前も前に使われなくなったにしては、綺麗で、しっかりしている。
驚くべき事は、一部の部屋を除いて、まだ人が住んでも良さそうな雰囲気があるのだ。
・・・まあ、そんなことはどうでもいい。早い所、あいつを探さないと。
「アレクサンダーさん!」
後ろから、あいつの声が聞こえる。
振り向くと、廊下の向こう側から、マグノリアが走って来た。
「お前、どこに行っていたんだ。」
あいつは、光悦した顔で、俺に抱きついて来た。
「・・・会いたかった!」
「・・・お前、な・・・・っ。」
突然、腹部に激痛が走る。
お腹のあたりに何か刺さった感じがした。
生暖かい感触が、お腹のあたりから感じる。
―――マグノリアに、刺された?
どうして、何故。そんな言葉が頭の中でぐるぐる廻る。
だってあいつは、俺のことを・・・・
お腹のあたりで体に突き刺さっていた何かが、抜かれる感触がある。
「なん、で・・・・」
「さよなら、アレクサンダーさん。」
そう言って、マグノリアは、ナイフについた血を舐めながら、綺麗に笑った。
俺の意識は、急速に遠くなり、俺は、意識を失って倒れた。
END




