第五章 預言の巫女~Sophia and Magnolia~ 3話
悪魔がわたしに乗り移ってから、周囲の空気はどんどん悪くなってきました。
悪魔がお城で奉仕する召使い達に大臣達が終末の預言のことを話していることを
聞かせるようにしむけて、一気に国は崩壊への道を進みはじめています。
現政権は預言のことを隠そうとしましたが、
一気に終末の預言の噂は人々に広まり、
現政権の不安と疑いは日に日に高まっています。
あと、もう少しで・・・弾けそうです。
そんな中でもライモンドはいつも通り、淡々と仕事をしてました。
「・・・巫女様、最近変わりましたね。」
「そう?変わったように見える?」
「・・・・・。」
彼は、何か言いたそうな顔をしているのに、何も言ってくれません。
もう少し、彼がわたしの中に踏み込んでくれば、彼に全てを話してしまうかもしれない。
でも、彼は、「そうですか・・・」というだけで、何も言ってくれない。
―――変わったのはわたしの方じゃない。
貴方の方よ。
昔は、そうやって、言葉を自分の中にしまう人じゃなかったのに。
―――いつから、貴方は、そうなったの?
どうして、わたしと距離を置こうとするの?
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その日は、突然、やってきました。
現政権の反対勢力が、お城に攻め込んできました。
彼らは、この世界に召喚してきたという魔王と手を組み、
国内の精鋭達が集まる騎士団を、魔王の力で、倒していきました。
魔王の力、というものは、圧倒的なものです。
全てをなぎ倒し、破壊していく力・・・それは、一種の芸術のような美しさがありました。
まるで、大人が子供をひねるかのように、ばたばたと倒れてきます。
「あの魔王も、貴方の仲間?」
わたしは、「わたし」に聞いてみました。
「あんな小物と一緒になんかしないで。
あいつは、魔王の中でも悪魔に負けるような超小物よ。手なんか組むもんですか。」
・・・・悪魔にも、色々あるんでしょう。
よく分かりませんが、魔王の中でも力が劣っているとはいえ、
力の差は歴然で、王の首が取られるのも、時間の問題でしょう。
「さ、ボヤッとしないで、逃げるわよ。」
そうですね、ここでボヤッとしていたら、巻き込まれてしまうでしょう。
早くライモンドを探して逃げないと・・・
「巫女様!?ご無事ですか?」
その時、部屋のドアが開いて、ライモンドが来てくれました。
「ええ。わたしは大丈夫。」
「ここは危険です。一旦、国外へ逃げましょう」
ライモンドの言葉に、わたしは笑みが止まりませんでした。
・・・・こんなにうまく行くなんて。
もし、わたしが・・・反対勢力の背中を押したんだって知ったら、ライモンドはどういう顔をするんでしょう?
「はい。」
わたしは、うなづき、彼と手を取り合って逃げました。
奇跡的に、反対勢力の部隊と鉢合わせする事もなく、わたしたちは、城を脱出できました。
城を出ると、子供がいました。
男の子です。小さな男の子が城の兵士の亡骸にすがって泣いています。
「お父さん・・・お父さん・・・・」
・・・こういう戦場には、犠牲がつきものです。
誰かが死ぬのは当たり前の事で、そんな事を考えていたら、戦なんてできやしないでしょう。
それでも・・・この光景は見ているのは辛いですね。
「貴方、こんな所でどうしたの?」
気がついたら、わたしは、彼に声をかけてました。
「今日ね、僕の誕生日だったんだ。
でも、お父さんはお城の仕事でいないから・・・こっそり会いにきたんだ。
そしたら・・・・お父さんが・・・・。」
男の子が泣きながら答えてくれました。
「・・・そう。」
「巫女様、何で、お父さんは死んじゃったの?
何も悪いこと、してないよ?優しいお父さんだったのに・・・・」
確かに、彼は、何も悪いことはしてません。
―――ただ、エゴとエゴの戦いに巻き込まれた、それだけのこと。
戦場というのは、理由もなく、理不尽に命を奪う場所なのです。
たとえ、どんなに善人でも、戦場というのは、容赦なく、命を奪っていく。
―――それだけのことです。
だけど、こんな小さな子供にそれを説明するのは、少し酷でしょう。
なので、わたしは話題を変えることにしました。
「・・・こんな所で泣いていたら危ないわ。私たちと一緒に逃げましょう。」
「やだ!お父さんと一緒にいる!
一緒に誕生日祝ってくれるって約束したもん!!」
男の子は首を振って、駄々をこねます。
・・・どうして。
どうして、こんな所にいようとするのでしょう。
自分が巻き込まれるのかもしれないし、亡骸を見るのは辛いだろうに。
「・・・・こらこら、ワガママを言うもんじゃない。君が死んだら、お父さんが悲しむよ。」
ライモンドが優しい顔で、悟らせるように言いました。
―――ずるい。わたしには、そういう顔、しないのに。
子供相手だと分かっていたとしても、ジェラシーを感じてしまう。
男の子はハッとした顔をして、「そうか・・・そうだね。」と言ってうなづきました。
「そうだね・・・僕まで死んだら、お父さん.悲しむよね。」
―――ああ、イライラする。
声なんかかけるんじゃなかった。
どうしてわたしは、声なんかかけてしまったのだろう。
―――黙っていれば、ライモンドと二人きりになれたというのに。
こうして、わたしたちは、三人で国から逃げました。
―――レインヘブンは、反対勢力が王の首をとり、滅亡の道をたどることになります。
しかし、反対勢力の味方をしていた魔王が、混乱に応じて、国をのっとってしまい、国民を皆殺しにしたのです。
さらに、その後、邪魔な妖精を封印し、あっという間に世界を制圧しました。
―――こうして、以後何百年も続く魔王による世界の統治がはじまったのです。
レインヘブンの残った国民は、多くが他の国へと亡命しようとしました。
しかし、魔王を呼んだレインヘブン国民は、どこも感激されず、
また、魔王が言霊が使えるレインヘブンの国民を恐れ、皆殺しにしようとしていたので、
レインヘブンの国民は、常に命を狙われる立場となったのです。
わたしたちは、山の中の小屋でひっそりと暮らしてました。
巫女をやめたわたしに待っていたのは、窮屈な自由。
どこかへ行こうとしても、魔王に狙われているため、ひっそりと暮らすしかなかったのです。
「わたし」の力を使えば、魔王に対抗出来るのかもしれませんが、彼女は、魔王に対抗することを拒みました。
「勝手にやらせておけば?あんたが本当に命の危険を感じた時には助けるけど」
わたしの力では、魔王に対抗する力はありません。
彼女にそう言われては、わたしも何も言えませんでした。
ライモンドは、国が無くなっても、わたしを「巫女」として扱ってました。
もう、国もなく、神様の声を聞く機会もないのに、彼は、何故かわたしと距離を置こうとしている。
そのくせ、子供には笑顔を見せて、優しく接しているのです。
・・・ずるい。
わたしは日に日にジェラシーが強くなっていることを感じました。
―――あんな子供、殺してしまおうか。
殺してしまえば、ライモンドと二人きりになれる。
ライモンドと二人きりなるために自由を選んだのに、これでは本末転倒です。
子供さえ、いなくなれば、きっとライモンドわたしに笑顔を向けてくれる。
今までずっと我慢してきたんだもの。
わたしも幸せになったっていいじゃない。
そんな昏い気持ちを持ちながらも、わたしは実行に移しませんでした。
どうしてなのでしょう。あの子を見ていると、なんとなく、昔の自分を思い出すのです。
わたしも、両親を亡くして、祖母に引き取られて。
きっと、こんな風に、毎日殺してやると思われていたのでしょう。
―――まるで、わたしの中に、大嫌いだった祖母を見ているようで。
それを否定するかのように、わたしは、今日も、あの子に仮面の笑顔を見せて、見せかけの優しさで接する。
―――大っ嫌いな人間と同じことは、したくないから。
わたしは、あんなやつに似ていませんから。
そう、だから、わたしは、あの子に愛情だって、注ぐんです。
殺したいという気持ちを抑えて、天使のように振る舞うんです。
そこで送られていた生活は、幸せの仮面をかぶった歪な生活。
―――きっと、はたから見たら、幸せな生活に見えていたことでしょう。
だけど、狂った歯車は、止められない。
誤魔化し続けていた、かりそめの幸せでさえも、終焉へと向かうのです。
END




